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「特集」 拡大する極右ポピュリズム 二つの「欧州」像 米欧関係は漂流

渡邊 啓貴
帝京大学教授

欧州議会で極右拡大

 2024年の欧州政治の大きな事件は、欧州議会やフランス総選挙で極右ポピュリズム(大衆迎合主義)の台頭が一層加速したことだ。そこには欧州連合(EU)統合推進派と、それとは異なる別の欧州像を持つ「ヨーロッパ・ナショナリズム」との対立構図がある。

 6月上旬に行われた欧州議会選挙では、統合推進派の四大院内会派、中道右派「欧州人民党(EPP)」と中道左派「社会民主党(S&D)」、中道リベラル派「欧州刷新(RE)」と「環境派」が合わせて過半数を制したものの議席数は改選前から後退した。

 それに対して、反EU極右ポピュリズム勢力は拡大、前回19年選挙では全体の17%だったが、今回は26%に躍進した。右翼のEU統合反対派は選挙後の再編によって、「欧州保守改革派(ECR)」(メローニ伊首相の「同胞」やポーランドの「法と正義(PiS)」) 78議席と、「欧州のための愛国者(PfE)」(7月にその前身「アイデンティティーとデモクラシー(ID)」は発展的解消、マリーヌ・ルペン氏率いる仏「国民連合(RN)」やハンガリーのオルバン首相の「フィデス」や伊「同盟」など)84議席となり、改選前からそれぞれ9議席、35議席増えた。極右「ドイツ国民のための選択(AfD)」の14人を中心にスペイン・ポルトガルの極右政党の議席を加えて新たに結成された会派「主権国家のヨーロッパ(ESN)」の25議席を加えると、右翼EU懐疑派は118議席から187議席となった。

けん引役独仏の政治危機

 この極右ポピュリズムの勢いは、7月に中道派の勢力挽回を図ってマクロン仏大統領が強引に実施した解散総選挙の結果にも示された。与党中道派は大敗し、その一方で極左「不服従のフランス(LFI)」・環境派・共産党の連合による「新しい人民戦線(NFP)」が第1党(182議席)、極右RNが改選前の88議席から143議席へと大幅に議席を拡大した。

 その後の首班指名は2カ月決まらず、キャスティングボートを握ったRNルペン氏の容認を経て就任したバルニエ首相の内閣も12月初めに次年度予算案を巡って紛糾した末、NFP提案の内閣不信任動議をRNが支持したため可決、総辞職した。マクロン大統領を支持する中道派の古参政治家バイル氏に白羽の矢が立ち、首相に就任した。しかし過半数が存在しない「宙づり議会」の今後の運営は多難だ。RNの動向が政局を大きく左右する事態は変わらない。

 ドイツでも極右ポピュリズムの台頭は著しい。9月に旧東ドイツ地域のテューリンゲン州とザクセン州の州議会選挙で、AfDはそれぞれ約33%と約41%の得票率を得た。テューリンゲン州では圧勝、AfDが州議会選挙で第1党になったのは初めてだった。連立を組む相手のいないAfDは過半数を取れないのでAfD出身の州知事は誕生しないが、14年に両州で行われた議会選では10%前後だったAfDの得票率は、19年には20%台半ばに、今回は30%を超えるまでに躍進した。

 そうした中で中道左派社会民主党(SPD)のショルツ首相の連立政権は風前の灯だ。ドイツは、ウクライナ戦争開始後のエネルギー価格の高騰、防衛費やウクライナ難民受け入れの負担増、経済成長の伸び悩みに直面している。こうした中でSPDは公的債務の規制緩和による歳出増予算を主張、緊縮財政を主張する自由党は連立政権を離脱、ショルツ首相の信任投票が反対多数で否決され、25年2月に総選挙が実施されることになった。極右の躍進の脅威が新たに高まっている。

エリートvs庶民

 極右と極左の勢力拡大は、既存大政党離れと裏腹だ。それは政治・経済面では、エリート政治家と大資本に対して「抗議する人々の声」、不満の表出だ。そこでは「エリートvs人民・庶民」の対立構図が明らかだ。1980年代後半の「EC(欧州共同体、EUの前身)域内市場統合」とは、活力を失った「ヨーロッパ病」から西欧諸国を立ち直らせるための経済社会構造の再編(筆者の言葉では「国境を越えたリストラ」)が実態だった。それはグローバリゼーションの中で生き残っていくための政治・経済リーダーたちの死活的戦いだった。しかし一般庶民の目には、それはエリートの自己利益追求(自己保存)としかみえない。

 他方で文化・思想的には、極右ポピュリストの発想は1968年世代の新しい左翼「人間の顔をしたユーロコミュニズム・ソーシャリズム」の対抗文化(カウンターカルチャー)としての「新しい右翼」の思想に由来する。それは、いわば欧州文化を掲げる「革命的ナショナリズム」だ。フランスでRNの前身「国民戦線(FN)」が創立されたのが1972年であることは偶然ではない。

 彼らはEU統合を米英流のグローバリゼーションと市場競争原理による欧州への「侵略」の結果とみなす。それは結局格差を構造化し、優位となるのは米国であり、利益を得るのは「エリート」たちだけだと主張する。それは土着の民族文化的価値やローカルで庶民的な「ヨーロッパの生活様式・価値観」にはそぐわない。つまり彼らはヨーロッパの結束そのものに反対するのではなく、エリート官僚の「EU」という形での欧州統合に反対なのだ。抗議する人々、「真の欧州人(庶民)」の立場だ。

 それでは彼らの考える「もう一つのヨーロッパ」とは何か。極右ポピュリストたちは大西洋中心主義を否定し、むしろ「広範なユーラシア大陸」の統合を模索する。彼らの「欧州」にはロシアも含まれる。米国の巨大資本による世界支配の手段である欧州市場統合に反対するとの主張だ。24年に入ってマクロン大統領がロシア攻撃の構えを強調し始めると、ルペン氏はそれが第3次世界大戦の口火となり、フランスを戦争に巻き込むと批判した。ハンガリーのオルバン首相はEU議長となるやウクライナ戦争解決を中ロも巻き込んだ形で進めようと交渉を開始して、EU各国から批判された。ブリュッセルに文化行事会場として「ハンガリーハウス」を設立、保守的思想やナショナリズム教育活動を活性化させようとしている。彼らの考える土着文化思想を大切にする「民族多元主義」のヨーロッパの一体化は、経済合理主義のEU統合とは違う。あえて言えば文化的アイデンティティーとしての「欧州ナショナリズム」だ。

 そしてイスラム教徒こそが、キリスト教を根源とする自分たちヨーロッパへの侵略者たちだと、排外主義を主張する。今、その危険は一層高まっている。

紛争収束に必要なこと

 こうした欧州諸国の内憂は不透明な米欧関係の行方を一層不安視させる。極右ポピュリストたちの欧州中心主義はユーラシアに拡大した発想で、そこではロシアも仲間だ。米英流のグローバリズムへの反対は親ロシア的姿勢にもつながる。ルペン氏やメローニ氏、オルバン氏らが、ロシアのプーチン大統領と親しい関係にあるのは周知のことだ。

 そうした中で第2期トランプ政権下の米欧関係は不透明だ。第1期から引きずっている鉄やアルミニウムを巡る輸入関税の10%への引き上げ、さらに北大西洋条約機構(NATO)の欧州加盟国の防衛費負担増(GDP=国内総生産=2%アップ)など、これまでの米欧関係の摩擦の再燃の可能性は高い。

 しかし何といってもウクライナ、ガザ両紛争の収束は米欧のいずれにとっても喫緊の課題だ。トランプ氏は、選挙期間中から「ウクライナ紛争は(就任後)24時間で解決できる」と豪語していた。戦火拡大は誰も望まない。ウクライナ紛争が始まる前から欧州の指導者たちの最大の懸念は、戦火が拡大して第3次世界大戦へと変容する脅威だ。求められるのは早期停戦だ。

 筆者は、ガザ紛争が勃発した時に、1956年の第2次中東戦争(スエズ危機)とハンガリー動乱を想起した。当時二つの紛争は、10月から11月にかけて同時期にピークを迎え、米大統領選が終結した11月中旬に一応停戦状態になった。冷戦たけなわの時期であったが大統領選さなかの米外交の手控えと米ソの妥協が成立したからだ。当時と今日の事態を単純に重ねて論じることはできないが、歴史のアナロジーの教訓はある。望ましい策では決してないが、米ロ両核超大国のパワーポリティクス的な合意が戦火の収束の第一条件であることは、今日でも言えることではないか。

米欧関係、混乱に拍車

 その意味では11月7日、EU議長国ハンガリーの首都ブダペストで開催された「欧州政治共同体(EPC)」の会合は、欧州の現実を如実に描き出していた。今春からウクライナへの積極支持を強化し始めたフランスやポーランド、バルト諸国に対して、オルバン氏やチェコ、そしてドイツはウクライナ支援に対して後ろ向きである。

 こうした中で、欧州には米国の軍事力に代わるだけの備えはない。2017年に成立したPESCO(欧州常設軍事協力枠組み)や22年に発足した「戦略コンパス」などはそうしたEUの戦略的自立志向を示すものだが、まだ実効性に欠ける。

 トランプ氏周辺では、ウクライナ東部の領土割譲と、イスラエルによるガザ制圧が妥協の条件であるとのうわさが流れている。EUがウクライナ東部周辺に停戦監視団を派遣する可能性も伝えられる。だがそれらはどこまで実現可能なのか。

 文化的アイデンティティー重視派の極右ポピュリズムは、プーチン氏支持とともに、「アメリカファースト(米国第一主義)」を掲げるトランプ氏とも一脈を通じる。

 冷戦時代の2超大国の対立構図とは異なった多極化時代の複雑なパワーバランスの中で、米欧関係はどこに漂流していくのか。

帝京大学教授 渡邊 啓貴(わたなべ・ひろたか) 1954年福岡県生まれ。東京外語大フランス語学科卒。パリ第1大大学院修了。東京外語大教授、同大国際関係研究所所長などを歴任。2008~10年に在フランス日本大使館公使。19年から現職。専門は国際関係論、文化外交論。著書に「ミッテラン時代のフランス」(芦書房)「米欧同盟の協調と対立」(有斐閣)「アメリカとヨーロッパ」(中央公論新社)など。

(Kyodo Weekly 2024年12月30日・2025年1月6日合併号より転載)

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