日本人国内旅行の再考 ―旅行市場とライブ市場の明暗― 森下晶美 東洋大学国際観光学部教授 連載「よんななエコノミー」
日中関係の悪化によりインバウンド(訪日客)観光の脆弱(ぜいじゃく)性が再びクローズアップされているが、国内の旅行消費の約8割を支える日本人にも「旅行離れ」が起きているといわれる。国内旅行者数(日帰りを含む延べ数)はこの10年で比べると2015年の約6億人から2024年には約5億4千万人と1割減少している。要因としては旅行価格の高騰やオーバーツーリズムによる混雑の敬遠などが挙げられることが多いが、果たしてそうだろうか。
この「○○離れ」という言葉は、「クルマ離れ」「アルコール離れ」など、社会環境や人々の価値観の変化などにより価値が低下したものに対して用いられる。「旅行離れ」の根本的な原因も旅行が持つ価値が相対的に下がった結果にほかならない。
では、旅行の価値とは何だろうか。人々の旅行の動機の上位には「おいしいもの」「日常からの解放」「交流」「同行者との親睦」などが挙がっており、まさにこれらが旅行に行く価値である。しかし現代においては、新鮮でおいしいものはいくらでも取り寄せができ、非日常に没入できるバーチャルコンテンツも多い。SNSを使えば世界中の人とだって交流ができる。すでに旅行の価値のほとんどは新しい代替品が存在している。
一方、同じレジャー市場でもあるコンサートやイベントなどのライブ市場を見ると、手軽にコンテンツを視聴できるサブスクリプションや動画サイトなどが代替手段となったはずだが、実際は動員数、売り上げとも大きく伸びており、動員数は2015年の4753万人から2024年には5938万人(25%増)、年間売上高では3186億円から6121億円(92%増)と好調だ(コンサートプロモーターズ協会調べ)。
このライブと旅行の明暗の違いは非再現性とテーマ性にある。ライブはリアルに演者と同じ時間と空間を共有できるからこそ参加するものであり、その体験は再現不可能な「トキ消費」である。代替は難しい。他方、旅行は見るだけではない体験型観光が人気になっているとはいえ、同様の体験を再現しやすい「コト消費」の域にとどまる。
また、ライブのファンには〝推し〟という圧倒的なテーマが存在し、そのためなら何度も参加し、関連商品を購入する〝推し活〟という言葉もすでに定着した。
しかし、旅行にこだわりのテーマを持つ旅行者はまだ少なく、そのため吸引力が弱い。
2026年の新たな年を迎え、従来路線のインバウンド拡大も重要だが、足元の国内旅行をいま一度見直す必要があるのではないか。トキ消費や旅行での〝推し〟の提案など、ライブ市場の例から見てもまだまだやれることはたくさんある。
【KyodoWeekly(株式会社共同通信社発行)No.1からの転載】















