「障がいと健常」とコミュニティダンス 菅沼栄一郎 ジャーナリスト 連載「よんななエコノミー」
赤と青と透明など四つの大きなビニールのボールに、またがったり、うつぶせにかぶさったりして、ボンボン跳ねる。その間を、アップテンポの曲に合わせて、母親たちがスキップしながら通り抜けた。
埼玉県加須市。騎西(きさい)城の桜が散り始めた文化センターの小ホールで、ダンスグループ「ベストプレイス」の約30人が練習していた。男女や年齢、障がいや健常の区別はない。最高齢は85歳の女性だ。
お気に入りの黄色いボールの前に座り込んだ、ダウン症のしほちゃんは、指で耳の上の髪をかき上げるのがくせだ。曲が変わると、指先の動きが速くなった。音や周りの人たちの動きに反応して、彼女の体内のエネルギーがどう動くのか。さっきまでボールにお尻を乗せて跳ねていたリズムの先は未知数だ。
「お母さんたち、動き過ぎかもしれません」。声をかけたのは、主宰者の竹中幸子(ゆきこ)さん。あまり口出しはしない。メンバーが話し合いながら動きを工夫する姿を尊重する。
「ベストプレイス」を立ち上げてもう25年になる。地元の障がいのある子の母親たちから「音に合わせて動くことが好きな子どもたちに向けたレクリエーションを」と頼まれたのが始まりだった。
竹中さんは、英国の「コミュニティダンス」のワークショップに参加し、「何より障がいのある方と踊る、その場に身を置く心地よさにはまった」。自分の周りにもできる場はないか、考えていたところだった。
当初から参加しためぐさんは、今やベストプレイスのイニシャルのような存在だ。公演中は、自由に歩き回る。気が付くと、うわーッと声を出して跳ねて突進する。一緒に踊るメンバーも、ふだんは勝手に歩いてもらっているが、いきなり動いた背中に合わせて、一斉に全体のパフォーマンスを表現する。プロのダンサーを超える動きもしばしば。予測できないからよけい難しく楽しい瞬間だ。
しほちゃんの後ろでさっきから、動きを合わせようとしていたのがダンサーの