【はばたけラボ 先輩に聞く】阿蘇で農家民泊を営む笹木絵美さん 今ある大切なモノを残し、生かして未来につなげる
未来世代がはばたくために何ができるかを考えるプロジェクト「はばたけラボ」。食べること、暮らすこと、周りと関わること、ワクワクすること…。今のくらしや感覚・感性を見直していく連載シリーズ。
雄大な山並みを背に、青々とした田園風景が広がる熊本・阿蘇。生まれ故郷で家族とともに農家民泊を営む笹木絵美さんに、この地の恵みや魅力、受け継がれてきた資産を生かして暮らすことの楽しさを聞いた。
Q1.茶蔵の宿を開くまでのことを教えてください。
コメや野菜づくりを代々続けてきた笹木家には、築200年を超える米蔵や納屋、古民家があります。それをリノベーションし、野菜や特産の赤牛を使った料理を出すレストラン、カフェを始め、2016年の熊本地震と、その後のコロナ禍を経て、21年に1棟目の民泊施設「茶蔵の宿」をオープンしました。「茶蔵」は、笹木の「笹」と蔵の「蔵」からとり、「笹木さんちの蔵」を意味しています。
阿蘇の農家では昔から母屋、納屋、米蔵などの建物を農業に有効活用していましたが、農協を通してコメを売るようになり、今は使い道がなくなっています。老朽化して、残すにも壊すにもお金がかかるのですが、笹木家は宿泊業に活用しました。日本の大切な伝統家屋を守る活動にもつながると思っています。
Q2.茶蔵の宿のこだわり、他の宿泊施設にない魅力は。
阿蘇は寒暖の差が大きいので、断熱性能はしっかりしています。また、梁(はり)など伝統建築ならではの部分は分かりやすく表に出した設計にしました。今の時代に一から作ることは難しいものを、見て感じていただきたいです。
屋外にあるプールの水は地下から湧く冷泉で、飲めます。それを飲んで、横にあるサウナに入ってもらう体験は、他ではなかなかできないかと。それから、子供連れのお客さまなら、焚き火をしながらマシュマロを焼いてあげたり、花火をしたり。ごはんは米が育った地の水で炊くのが一番おいしいので、うちの田んぼでとれたお米を置いています。畑の野菜を夜ごはんで食べてください、とお客さまにお持ちすることもあり、宿泊プラスアルファを意識しています。
Q3.民泊をして、うれしかったことはなんですか。
国内外からのお客さまが、目の前にある田んぼの稲穂や風景、お米のおいしさにすごく感動されることが、やりがいにつながっています。レストランは、ランチやディナーのひと時をプロデュースする仕事ですが、宿泊事業は、お客さまの滞在中の生活をコーディネートできるのも魅力です。
最初に訪れた時は小さかった子が、次に来た時には少し大きくなっていて、私のことを覚えていてくれる。「あの時のごはんがおいしかったから来ました」「この景色を見たかった」と伝えられると、泊まっていただいた方の記憶に残してもらっている、とすごくありがたい気持ちになります。仲良くなったお客さまが帰られる時には、泣いてしまうことも。一緒に撮った写真を送ってもらったり、季節の果物を送ってもらったり、あちこちに親戚がいるみたいです。
Q3.農家民泊は経済にどんな効果があると思いますか。
最近は、昔からその土地にあった建物が老朽化したり、必要なくなったりして、すぐに壊されてしまう。日本中どこも大きなドラッグストアやコンビニ、ホームセンターがあるような同じ景色になってきていると思います。
でも、古い建物を活用して生かすことは、地域ごとの伝統建築を守っていく活動になる。古民家の再生は、1棟で数千万円単位とすごくお金がかかりますが、宿泊業で活用すると不動産としての価値も上がる。熊本には熊本、北海道には北海道の景色がないと、観光資源もどんどんなくなっていくと思うので、日本の昔ながらの家に泊まれるという価値をつくり、それを守りたい。コメ農家の稼働時期は5月の田植えから9月の稲刈りの時期までが中心ですが、それ以外の時期は宿泊業に注力するのも、一つのやり方かもしれません。Airbnbさんの力も借りながらホストを増やし、建築物を負の遺産じゃなくて資産として使う人が出てくると、経済も良くなると思います。
Q4.改めて、阿蘇の自然の素晴らしさって。
「茶蔵の宿」の標高は500メートルほどで、夏の日中に摂氏40度ぐらいになる熊本市内と比べても10度ぐらい低い。寒暖の差が激しいですが、そのおかげで農作物が糖分を蓄えるんです。また、水がとても奇麗で、火山地帯なので鉄分などのミネラルも豊富。鉄分が多く水が赤い地域もあり、そこで育つ野菜もミネラル豊富です。お客さまから、野菜もお米も甘いと言われますね。
阿蘇は噴火口の跡でもあり、もともとは農作物が育つような土地ではなかったのですが、先祖が野焼きをしたり、放牧をしたりして地を肥やしてきました。今、農業ができているのは、その進化の過程で積み重ねられた結晶です。
毎朝、一緒にペットの犬と散歩に行く時に見える阿蘇の山、空に、いつも感動して「うわあ、阿蘇っていいな」って毎日、言っています。その自然っていうのは自分たちが作ってできるものじゃない。本当に、阿蘇にいてよかったなって思います。
Q5.7月末に起きた熊本地震の影響はありましたか。
震度4~5ぐらいの揺れはあったものの、被害はほとんどありませんでした。ただ熊本県内でも被害の激しかった地域の映像がテレビなどで流れることでの、風評被害はあります。阿蘇へつながる交通アクセスは寸断されていないのですが、宿泊のキャンセルはかなり出ました。
これからの秋は、訪れるのに、すごくいい時期です。そんな暑くもないし、寒くもない。稲刈りがちょうど始まって、その風景を含めて、阿蘇の山、阿蘇の風を感じてほしいです。トンボがいっぱい飛んでいるのも、面白いですよ。やっぱり、来てもらわないと分からない。正確な交通情報を発信し、阿蘇に行きたいって思っていただけるお客さまにはちゃんと来てもらい、喜んでいただけるモノとサービスを、提供しようと心がけています。
Q6.これからの夢は。
阿蘇も高齢化してきて、多くの同級生も地元に残っていないんです。4人の子がいますが、働く場所や生計を立てられる仕事があり、Uターンできる場所にしていきたい。阿蘇の素晴らしさにもっと磨きをかけて、子供たちが戻ってきたいと思えるふるさとにしていきたいです。
Q7.最後に「未来を作っていくために必要なもの」は。
今あるものをうまく活用して、今の時代に合う形にして残していくこと。昔からやっていることや暮らしをそのままではなく、より良い形で残していくのが必要で、これからの未来につながっていくと思います。
そのためには、物事をポジティブに捉えること。ボロボロの納屋がある、ではなく、納屋を活用したらもっと良くなるんじゃないかって、宿やレストランにする。負をマイナスと捉えず、どうやったらプラスに持っていけるか考え、「壊す」でなく「生かす」選択をしていくのが大切だと思います。
プロフィール 笹木絵美(ささき・えみ)/熊本県阿蘇市生まれ。高校時代の同級生である夫の貴史さんと夫婦でのレストラン経営を経て、2021年に納屋や古民家を改装した民泊施設「茶蔵(さくら)の宿」を開業。宿泊予約プラットフォーム「Airbnb(エアビーアンドビー)ホストとして農家民泊2棟を義父母とともに運営。4人の子どもがいる。
#はばたけラボは、日々のくらしを通じて未来世代のはばたきを応援するプロジェクトです。誰もが幸せな100年未来をともに創りあげるために、食をはじめとした「くらし」を見つめ直す機会や、くらしの中に夢中になれる楽しさ、ワクワク感を実感できる体験を提供します。そのために、パートナー企業であるキッコーマン、クリナップ、クレハ、信州ハム、全国農業協同組合連合会、日清オイリオグループ、雪印メグミルク、アートネイチャー、ヤンマーホールディングス、ハイセンスジャパン、ミキハウスとともにさまざまな活動を行っています。
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