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【一歩踏み出した輪島】(4)  「輪島だから」の味 元気とともに発信

▽自分の役割は

 輪島の復興は順調だとはいえない。大地震に傷つき、ようやく前を向きかけた約1年前。集中豪雨により人命の被害が再び出て、芳朗さんも懸命に捜索にあたった。「町全体がダメ押しを受けた感じで、精神的にも体力的にもとても厳しかった」。筆舌に尽くしがたい状況下で、「育てていただいた輪島に何ができるのだろうと考えた。少しでも良いパンを皆さんに食べていただくことが自分の役割ではないかと」。

「噛むと歯型ができる」ほどのもっちり感が人気のクロワッサン=8月1日、輪島市

 背中を押してくれているのが、多くの新たな出会いだ。長野、群馬、和歌山など全国の同業者から届いたバターや寄付金、そして自慢のパンも。自らも大阪や東京のイベントに出店して活動の幅を広げ、「一生分の人と知り合ったのではないかというぐらいの出会いがあり、元気をもらいました」

「今までにない能登」をつくる

 再生に向けた計画がようやく立ち、街は次のフェーズに移る。足元の人口は減り、歯を食いしばる時かもしれない。そこでパンを焼くことで、「火をともしていきたい。小さな火種でも飛び火すれば大きくなる。遠くからも輝く光が見えれば、願わずして離れた人も元気になり、新たに引き寄せられる人もきっと増える」

 大阪出身の美江さんが大好きなのは、能登の比類ない自然の開放感。「大きな夕日が水平線に落ちる。こんなん本当にぜいたくやなって思います」。家族で一緒に火をともしていく。そうすれば、これから「今までにない能登が必ずできていく」はずだ。

復興へ「もえるにくまん」、収益は地域貢献に <紡ぎ組>

 「これからも皆で燃えていこう」。復興への熱い思いを込めた「もえるにくまん」をつくっているのは、輪島市の郊外・深見地区の廃校を拠点に活動するNPO(非営利法人)の「紡ぎ組」。地元の能登豚、タマネギ、タケノコが入った餡が、国産小麦のふっくらとした皮で包まれた肉まんは、約50年前、輪島朝市のあった中心商店街で人気だった肉まんの味を再現したものだ。美味しさと懐かしさが地元の人を喜ばせただけでなく、輪島市のふるさと納税返礼品にも採用されるようになった。

廃校の調理施設で「もえるにくまん」を手にする紡ぎ組の坂井さん=7月31日、輪島市

 地元の女性の力も借りてつくられている新たな名物は、販売収益が輪島の人の暮らしを支えるNPOの活動にも生かされている。震災後、市街地の学校の校庭には仮設住宅が建ち、家が損壊して仮設住宅に住む子供は大きな声を出して騒げなくなった。「拠点としている廃校の校庭は、目の前が水平線が見えるほどの大きな海、後ろはすぐに山。子どもたちが思い切り遊べる場所にしよう、と」(副理事長の坂井美香さん)。

紡ぎ組が拠点とする廃校の校庭。美しい海がすぐそばに広がる。現在は花壇を造成中だ=7月31日、輪島市

 開放感あふれる校庭を、キャンプサイトとして開放。桜の季節は着ぐるみがやってくるお花見、夏は水鉄砲遊びをしてかき氷が食べられるお祭り、秋はラジコンのサーキット場を使ったイベントも。「皆、走り回って、本当に楽しんでます。売り上げは全然上がらないこともあるけど、子どもやお母さんの笑顔が見れたらいいのかな」。

 今年4月には、「のと里山里海染め研究所」を新たにスタート。千枚田なら土、海なら海藻、里山の野菜や花々。輪島にある地域ごとのたくさんの色の素材を生かした染めものを、地域の女性を担い手につくる。「桜の枝を煮出すと見事な花びらの色がでるし、肉まんをつくるタマネギの皮なら、目の覚めるような黄色に染め上がる。どう染まっても失敗はなく、『輪島の色』というのがいい」。ハンカチなど土産物として商品化し、ゆくゆくは新たな生業につなげたい。

 山あいの廃校から始まった肉まんづくりは、あたたかな熱を帯びながら燃え続けている。

玉ねぎの皮を煮出して染めた黄色のハンカチと、肉まんがモチーフのアクセサリー


  • 麹のクラフトビールをアイテムに加えた谷川醸造の谷川貴昭さん(右)と千穂さん=7月31日、輪島市

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