食欲、物欲は生きる原動力 【辛酸なめ子 コラム 直線・曲線・斜め線】
誰が最初に料理を取りに行くか・・・。ビュッフェスタイルのパーティーでは、せめぎ合いの空気を感じることがあります。先日、所属しているデザイン団体のパーティーがありました。料理は魚介系から肉料理、カレー、蕎麦(そば)、スイーツなど充実しています。広告代理店の取締役の乾杯の音頭があり、皆さん料理の方に向かわれると思ったのですが、誰も行く気配がなく、そのまま5分、10分と過ぎていきました。デザイン業界の方は、美学みたいなものがあって、料理のところに即行くのはスマートじゃない、とお考えなのかもしれません。そのうち誰かが点心をお皿に取っているのを見て、私もさりげなく料理コーナーに行くことができました。
あとから友人が「食べ物が気になって話に集中できなかった」と本音を吐露していました。ビュッフェではどうすれば良いか、過去の経験から編み出したのは、人に見られないような片隅で、とりあえず最初に思う存分食べておく、という技です。「最近はどうですか?」とか誰かに声をかけられないうちに、一気に食事を済ませて、そのあと涼しい顔でドリンクだけ持って会話に参加する、というやり方。自分では成功してるつもりで、もしかしたら誰かに一気食いを見られているかもしれませんが・・・。一応、知り合いが向こうを見ているタイミングを確認して食べています。そこまで気を使うのが面倒な場合は、行く前に適当なファストフードで小腹を満たしておくのも一案です。ただ、会場の料理が思いのほか豪華だった場合、お腹(なか)に入らなくて後悔することも。先日もあるパーティーで高級寿司がたくさん並んでいて、直前にフライドポテトを食べたことを後悔。こればかりは自分の直感に頼るしかありません。
しかし先日、富裕層が集まるイベントで意外な光景を目にしました。ファッションショーのあと「リフレッシュメント」という素敵(すてき)な風習があり、カクテルやフィンガーフードが振る舞われたのですが、セレブマダムが殺到し、5分で全てなくなっていたのです。「争奪戦ですね」と何もゲットできなかった若者が呟(つぶや)いていました。

©️2026 Nameko Shinsan
昔仕事していたサブカル出版社の忘年会でもこんな早くに食べ物がなくなることはありませんでした。食欲や物欲は生きる原動力なのだと思い、欲求に忠実な女性たちが頼もしく感じられるほどです。その争奪戦でフードを二つ取ることができた私もその一員なのですが・・・。次回も食べ物をゲットできるかどうかで自分のサバイバル能力を判定したいです。
しんさん・なめこ 漫画家、イラストレーター、コラムニスト。1974年東京都生まれ、埼玉県育ち。武蔵野美大短期大学部卒業。著書に「女子校育ち」(筑摩書房)、「スピリチュアル系のトリセツ」(平凡社)、「電車のおじさん」(小学館)、「大人のマナー術」(光文社新書)など多数。近著に「この人生、前世のせいってことにしていいですか」(幻冬舎文庫)がある。

















