走ることについて語ること 【平井理央 コラムNEWS箸休め】
秋の岩手・盛岡を走る―そんな魅力的なオファーをいただいたのは、まだ寒さの残る季節だったと思います。春を待ちながら想像したのは、爽やかな秋風の吹く不来方(こずかた)を駆け抜ける自分の姿。景色を楽しみながら走るのは、さぞ気持ちがいいだろうと胸が高鳴り、二つ返事でお受けしました。
過去に2度フルマラソンを完走し、その体験をまとめたランエッセイを出版したこともあってか、ときどき大会へのお誘いをいただきます。フルマラソンはお祭りのような華やかさがあり、とても楽しいのですが、しっかり準備をしなければ膝や身体に大きな負担がかかります。相応の覚悟なしには臨めない距離です。正直、もうフルは走らないだろうと思っていました。そんな中、今回は12キロのファンランの部があると知り、ぜひ挑戦したいという気持ちになりました。
「走るのが好きです」と口にすると、速いランナーを想像されることが多いのですが、実際のところ、私は決して速くはありません。普段のペースは1キロ7分後半。いわゆる早歩きの限界値に近いスピードです。それでも、日常的に走っているので「好き」という言葉は偽りなく使えます。走ることの魅力を挙げるなら、まず心身への効果でしょう。私は浮腫(むくみ)やすい体質なのですが、走ると汗とともに余計なものが流れ出ていくようで、身体が軽くなります。30分顔のマッサージをするより、30分走った方が断然スッキリする。そんな実感があります。
さらに面白いのは、走っている時の脳の働きです。ランニング中の脳波は、人がひらめく瞬間の脳波と似ていると言われています。確かに、考えが煮詰まっていた時に走りに出ると、不思議と頭が整理され、新しいアイデアが浮かんだりします。私にとって走ることは、身体のためだけではなく、思考のリセットや創造の時間にもなっています。
そして何より、ランニングは圧倒的にコスパが良いのです。家の近所を走るだけなら、必要なのはスニーカー1足。予約も不要なので、雨が降れば「今日はやめよう」と柔軟に調整できる気楽さもあります。しかも無料で走り放題。この手軽さとリターンの高さを考えると、今の私にとってこれ以上の運動法はありません。
今回の盛岡の大会では、走ることそのものに加え、完走後の楽しみも待っています。それは盛岡名物の冷麺。大きな達成感とともに食べる冷麺の味を想像すると、すでに頬が緩んでしまいます。走る時間も、その後の一杯も、きっと秋の盛岡の思い出を鮮やかに彩ってくれることでしょう。
【KyodoWeekly(株式会社共同通信社発行)No. 38からの転載】
平井理央(ひらい・りお) 1982年東京生まれ。2005年、慶應義塾大学法学部卒業後、フジテレビ入社。スポーツニュース番組「すぽると!」のキャスターを務め、オリンピックをはじめ国際大会の現地中継などに携わる。13年フリーに転身。ニュースキャスター、スポーツジャーナリスト、女優、ラジオパーソナリティー、司会者、エッセイスト、フォトグラファーとして活動中。