高栄養米を給食と子育て支援に―安来市 東洋ライス、JAと連携 地元産米を「金芽米」に
【ポイント】島根県安来市は東洋ライス株式会社(和歌山市)、JAしまね(松江市)と2023年5月、包括連携協定を結んだ。安来市産「きぬむすめ」を東洋ライス独自の技術で「金芽米」に加工し、同年6月から市内全ての公立小中学校と幼稚園1園の給食に導入。市によると、学校給食への金芽米導入は県内初。希望する妊婦や、乳児を育てる産婦への無償提供も行い、健康・食育の推進と地産地消による農業振興を目指す。給食での提供と妊産婦への無償提供は、2026年度も続いている。

地場産のコメを、農業振興と子育て支援の双方に生かそう―。島根県安来市は、東洋ライスの独自技術とJAしまねの精米機能を組み合わせ、地元産米を学校給食や妊産婦支援に活用している。稲作の担い手減少やコメ需要の落ち込みに対応しながら、住民の健康増進と食育も進める。農と食にまたがる課題を、自治体、JA、企業の連携で一体的に解決に導こうという取り組みだ。
農と食で課題をつなぐ
安来市が直面していたのは、地域の農業と市民の健康を巡る二つの課題だった。高齢化などで稲作の担い手が減り、耕作放棄地が増加。当時はコロナ禍によるコメの需要減少と価格下落も重なり、稲作を取り巻く環境は厳しさを増していた。
一方、ライフスタイルの多様化に伴い、栄養の取りすぎや食事を抜くこと、栄養バランスの偏りも問題となっていた。二つの課題を結ぶ鍵として市が選んだのが、地元・安来市産のコメだった。コメを軸に、農業振興と健康増進、食育を一体的に進める道を選んだ。
2023年5月、市はJAしまね、東洋ライスと「安来市、島根県農業協同組合及び東洋ライス株式会社の包括的連携に関する協定」を締結。連携項目は農業振興、健康増進、食育、地産地消、環境保全など。市、JA、企業がそれぞれの役割を持ち寄る枠組みを整えた。
民間の技術が起点
事業の中核は、東洋ライス独自の加工技術だ。通常の精米では、ぬかと一緒に「亜糊粉層(あこふんそう)」と呼ばれる層が削り取られる。「金芽米」はこの層を米粒の表面に残すことで、ビタミンやミネラルなど玄米の栄養を残した、消化の良いコメだという。ほのかな甘みも特徴としている。

地元のコメを金芽米に仕上げるのはJAしまねの役割だ。安来市産「きぬむすめ」の精米加工を担い、やすぎ精米センターでは、山陰で唯一という「BG精米製法」で、とがずに炊ける無洗米に加工している。
JAしまねと東洋ライスの協力は、今回が初めてではない。両者は「健康長寿しまね」の創造を目指す包括連携協定を結び、BG無洗米の加工時に出る肌ヌカ(とぎ汁のもととなる部分)を再利用した有機質資材「米の精」を田畑で生かす循環型農業にも取り組んできた。
給食への導入は段階的に進んだ。安来市内では2021年度、保育園8園で安来市産「きぬむすめ」を加工した金芽米の給食が始まった。2023年6月には、公立小学校17校、中学校5校、幼稚園1園の計23校・園に拡大。対象は2658人(同年4月時点)で、週4回のごはん給食に年間約36トンを使う計画とした。市によると、学校給食への金芽米導入は県内初だった。
庁内連携と財源を確保
もっとも、市は連携の難しさも認めている。株式会社共同通信社の全国自治体調査に対し、市は「庁内調整に時間がかかる」と回答。子育て・少子化対策の課題として「子育て支援と少子化対策の連携不足」を挙げた。
そこで市は、「こども家庭センター」を中核に置き、母子保健の担当部署と連携しながら、妊娠期から子育て期まで切れ目なく支援する体制を整備した。
その取り組みの一つが、2024年4月から希望する妊産婦らに金芽米を無償で届ける「マタニティ応援プロジェクト」だ。給食や子育て事業で地場産品を生かす取り組みの一環で、妊婦には出産の翌月まで、乳児を育てる産婦には、乳児が1歳の誕生日を迎えた翌月まで、毎月5キロまたは10キロの金芽米を自宅に届ける。

これにより妊婦から中学生まで途切れることなく金芽米を提供する形になった。地元の田んぼで実ったコメが、JAの精米センターで金芽米に仕上げられ、子どもたちの給食や、赤ちゃんを迎える家庭の食卓に届く。地元産米を軸に、農業振興、学校給食、母子支援が一本の線で結ばれている。
















