和食だしでハッピーに食生活改善 久原本家と大阪大が共同研究の公開イベント
糖尿病など慢性疾患とたたかう患者が、自発的に楽しみながら食生活習慣を改善できるよう、和風のだしを活用する取り組みが進む。茅乃舎だしで知られる久原本家グループ本社(福岡県)と大阪大学大学院医学系研究科が5月23日、共同研究プログラム「ティーチングキッチン」の公開イベントを大阪市内で開催。全国の医療関係者約50人がだしを使ったメニューを試食しながら、同プログラムに理解を深めた。
糖尿病や生活習慣病の要因になる肥満の予防には食事療法が必要だが、カロリーや塩分の摂取を制限する自己管理や調理の手間から、やる気がそがれる人は少なくない。ティーチングキッチンは、ハーバード大学公衆衛生大学院が中心となり、米国で始まった。プロのシェフと考えたレシピを使う料理教室と、栄養や運動の効果、心を整える「マインドフルネス」などを学ぶ座学を組み合わせたプログラムで、参加者が体に良い食生活を自らつくることを目指す。米国では、学校、病院のほか、企業にも広がり、大手IT企業グーグルは社員向けティーチングキッチンを18カ所で運営する。
ハーバード大学栄養学部への留学時に同プログラムを知った大阪大学大学院医学系研究科ライフスタイル寄付講座の馬殿恵准教授が、帰国後に日本版ティーチングキッチンを開発する中で、和食のだしに着眼。久原本家グループ本社と協力して栄養疫学のエビデンスに基づいた食材を使った独自のレシピを作成した。馬殿准教授は「日本のだしは昆布、干しシイタケ、かつおぶしなど複数の栄養成分が入っているため、うまみの体への感じ方が非常に強く、塩分、甘み、油を減らした場合の満足感が得られることもデータ上で明らかになっている。これを生かさない手はないと思った」と、だしを取り入れた理由を説明する。
公開イベントでは、参加者が3グループに分かれ、塩分量の高い市販のルーを使わず、だしでうまみを高めた「和風だしのチキンカレー」、ゴマ油を絡めたナスとオクラをレンジで加熱することで揚げたような風味を出す「レンジで揚げ浸し風」の2品を実際に調理し、味わった。包丁を持ったことがない参加者にも取り組みやすいよう、どちらも短時間、簡単な手順として調理のハードルを下げているのが特徴だ。
日本版ティーチングキッチンでは、食の嗜好(しこう)を尋ねる質問票をつくって個人に合わせた助言をするほか、対面とオンラインの組み合わせ、食事や運動量を記録・計測するウエブアプリも使用して脱落者が出ないよう工夫している。2023年に肥満者20人を対象に行ったティーチングキッチンでは、計4回のプログラムで、体重、血圧、体脂肪量を減らしながら筋肉量は維持する理想的な成果が得られた。
さらに、プログラム終了から3カ月後の測定でも、気持ちの面を含めた生活の質(QOL)に改善が見られており、馬殿准教授は「家族と一緒に喜ぶことができ、人生が変わったと言う人もいる。楽しんで体験をすることで食と健康を結び付け、自然に習慣が変わっているというのが、ティーチングキッチンの特徴」と話す。肥満者に対するティーチングキッチンの研究成果は同年の国際学術誌で公開しており、糖尿病の患者を対象にした研究成果も近く公表される見通しだ。
イベントのパネルディスカッションでは、久原本家グループ本社・研究開発本部の山下貴稔副本部長をコーディネーターに、馬殿准教授、ティーチングキッチンの提唱者であるハーバード大学公衆衛生大学のデイビッド・アイゼンバーグ准教授、公益財団法人Well-being for Planet Earthの石川善樹代表理事が「だしを生かした健康的な食生活はなぜ続けやすいのか?」をテーマに意見交換した。
アイゼンバーグ准教授は、日本版プログラムで使用されるだしについて「塩分を減らすために非常に有効。米国では政府がジャンクフードを病院などで使用しないよう促す動きがあり、料理人はうまみやだしを活用してみたくなるのではないか。その場合、和食だけでなく、欧米の料理でだしを使えるレシピの考案が大事になる」と指摘。Well-being for Planet Earthの石川氏は「味を足すのではなく、素材本来の味を引き出すのが日本のだし。調理の技術だけでなく、思想として“引き算”することの素晴らしさがうまく伝わると、日本らしいものが世界に出ていくのではないか」と、だしの可能性を語った。
大阪大学大学院医学研究科は今後も、日本版ティーチングキッチンに関心を抱く研究者、病院、民間企業などとの協力をさらに広げていく意向。子供から高齢者まで多くの世代を念頭に、食を通じてウェルビーイングや病気の予防を広く体験してもらう機会をつくっていきたいとしている。
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