ある映画が問いかけてくるもの 【サヘル・ローズ✕リアルワールド】
最近、ある映画と出会った。
観終わったあとも、なぜか画面が消えた気がしなかった。日常に戻っているはずなのに、どこかに引き留められているような感覚が、静かに残り続けていた。
それは強い衝撃というよりも、気づかないうちに心の奥に居残り、あとからじわじわと広がっていくような感覚。いま、観なければならない映画に必然的に出会ったのだと私は確信しました。
映画『父と家族とわたしのこと』は、戦場を描いてはいない。けれども、確かにそこには戦争がある。しかもそれは、過去のものではなく、いまも続いている「戦争」。
登場する「父」は、戦場を生き抜いた人間である。しかし、家族が向き合うのは、「英雄」でも「加害者」でもない存在。理由のわからない沈黙、夜にうなされる声、突然遠くを見るまなざし。触れたいのに触れられない距離が、日常の中に息づいて離れない。家族は、その見えない戦争とともに生きることになる。戦争は、人の命を奪うだけではない。
言葉を奪い、関係を断ち切り、愛する力すら奪ってしまう。そしてその影響は、一世代では終わらない。悲しいことに、静かに次の世代へと引き継がれていく。
いま世界では、戦争や紛争、差別や迫害が続いている。ニュースは「停戦」や「終結」という言葉で区切られていく。けれど、本当に終わるものは何なのだろうか。
瓦礫は片付けられるのかもしれない。街は再び、人々で溢れていくのかもしれない。それでも、残された人の中にある戦争は、一生、終わらない。帰ってきた身体の中に戻ってこないものがある。その一部は、いまも戦場に置き去りにされたままなのかもしれない。
だからこそ、私は「戦争反対」と言い続けたい。その言葉が、現実の前ではあまりに無力に見えることがある。「世界はそんなに単純ではない」と言われることもある。それでも、言葉を手放してしまったとき、私たちは何を目標に、未来を選べばいいのだろうか。
戦争のあとに残るものは、数字では見えてこない。語られなかった記憶、理解されなかった痛み、支えられなかった孤独。それらは個人の中にとどまらず、やがて社会の深い傷となる。
日本には、その痛みを経験してきた歴史がある。そして、その中から生まれた憲法第9条は、「戦わない」という選択を表したものだと感じています。
理想だと言われるかもしれない。それでも、人が人を傷つけないという意思を持ち続けることは、現実から目をそらすことではなく、現実と向き合うための意志だと思う。
この映画は問いかけてくる。戦争は、本当に終わったと言えるのか、と。
見えない場所で続く戦争に、私たちはどこまで想像力を持てるのか、と。
戦場に残されたものが、少しでも帰ってこられるように。
そして、これ以上、新たな何かが置き去りにされないように。
そのために、私はこれからも言い続ける。
戦争に、反対だと。
それが、どれほど無力に見えていたとしていても。

サヘル・ローズ 俳優・タレント・人権活動家。1985年イラン生まれ。幼少時代は孤児院で生活し、8歳で養母とともに来日。2020年にアメリカで国際人権活動家賞を受賞。
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