「特集」「Jコンテンツ」第3次ブーム 自動車産業に並ぶ大黒柱へ
「自動車一本足打法」と言われてきた日本経済で、ゲームやアニメ、漫画、音楽といったコンテンツ産業を新たな稼ぎ頭にする計画が動き出した。コンテンツの海外売上高は2023年が約5兆8千億円。政府は33年までに3倍超の20兆円と大幅に伸ばし、現在の自動車産業に匹敵する規模を目指す。日本の「Jコンテンツ」は世界的な第3次ブームとされ、国際競争に勝ち抜き、産業の大黒柱に飛躍するか、正念場を迎えた。
「新かわいい」 女性ファン急増
「なりたい自分になってと発信し、かわいくて自然体」―。昨年10月上旬に台湾・台北郊外で日本の女性アイドルグループ「FRUITS ZIPPER(フルーツジッパー)」のコンサートが開催された。会場を夫とともに訪れた、近くに住む元塾講師の張雅恵さん(25)はグループを一番に推す理由をこう熱く語った。
会場には地元客ら約1800人が詰めかけた。日本からの遠征組は一部にとどまり、香港、フィリピンなど近隣のアジア地域のファンも加わった。張さんは韓国の女性KーPOPアイドルに対し「肌の露出が多く、セクシーさを強調するグループが目立ち、好きになれない」と話す。以前はアイドルに興味はなかったが、一昨年末に交流サイト(SNS)で動画を見かけ、すぐにはまったという。
開演前から並ぶファンの列の約4割は女性。準備に当たった梁秩誠ソニー・ミュージックソリューションズ戦略顧問は「従来、台湾では日本の女性アイドルファンの約9割が男性だったが、このグループはファンの女性比率が格段に高い」と指摘する。
「FRUITS ZIPPER」はメンバーの個性や多様性を平等に尊重、肯定し、内面も含む新しいかわいさを提示する「NEWKAWAII」路線をSNSなどで発信。日本では男性のほか、女性ファンも急増したが、その流れは海外にも広がっている。今回の初の海外ツアーは台湾に続き、昨年11月上旬に中国・上海、昨年11月末にはKーPOP本拠地の韓国・ソウルで公演し、主催者の当初予想を上回る盛況ぶりだった。

FRUITS ZIPPER(フルーツジッパー)=提供写真
JーPOP、幅広く海外で人気
海外でのJーPOPの人気はお家芸の「かわいい文化」にとどまらず、さまざまなジャンルに広がっている。昨年4月下旬、マレーシアの首都クアラルンプールの中心部にある音楽ホールには、午後6時開演の半日前の朝から数百人の観客が長蛇の列を作った。
イベントに参加した男性2人のヒップホップユニット「Creepy Nuts(クリーピーナッツ)」は海外でも人気が急上昇。昭和歌謡の要素も取り入れたセーラー服姿の女性ダンスグループ「新しい学校のリーダーズ」、アニメ主題曲のヒットで一躍スターとなったロックをベースにした楽曲の「キタニタツヤ」も海外の知名度が着実に高まっている。

Creepy Nuts(クリーピーナッツ)=提供写真
クリーピーナッツのファン3人組の1人、マディハさん(21)は「他のアーティストとは全く違う独自の楽曲に引かれた」と力説。日本の別の歌手も好きで、日本語を独学した。JーPOPは「カラフルで開放的。曲や歌詞が多様」なのが推し活を続ける理由だ。

マディハさん(左)ら3人組
新しい学校のリーダーズのファンという同国マラッカ州に住む45歳の男性は「ライブの圧倒的なエネルギーが魅力」と語る。この日は朝6時に自宅を出て高速バスで駆けつけた。公演の立ち見スペースの前列を確保しようと午前9時には開場を待つ列に加わった。
公演本番は終始、熱気に包まれた。大とりのクリーピーナッツがラストに人気アニメの主題歌で国内外で大ヒットした「BlingーBangーBangーBorn」を披露すると、詰めかけた観客から日本語の歌詞の大合唱が何度も聞かれ、アジアでの人気の盛り上がりを見せつけた。
アニメと連動、SNSも活用
会場となった日系企業が運営するホール「Zeppクアラルンプール」の本多真一郎支配人は「地元のJーPOP人気は拡大の一途」と自信を示す。日本が得意なアニメのヒットと連動し、主題歌を歌うアーティストの評判が一気に高まる例が目立つと語る。
タイ出身のヴィニットポン・ルジラット青山学院大准教授はそもそも「日本の音楽業界はSNS対応で後手に回った」と指摘する。韓国の「KーPOP」は最近までファンが動画投稿サイトのユーチューブで楽曲の動画を世界に拡散させ、宣伝に一役買った。著作権保護を重視し厳しく制限した日本の業界とは対照的だったという。
だが、その後日本側もSNS活用に動き、新型コロナウイルス禍を自宅で過ごす「巣ごもり」が世界に広がると、JーPOPの人気はKーPOPに後れを取った分、一気に燃え上がった。日本ではSNS先行組の「YOASOBI」「米津玄師」などのアーティストが、起用された人気アニメの主題曲とともに欧米、アジアで人気が定着。クリーピーも昨年秋に韓国、台湾、中国を回る初の海外ツアーを終え、今年4月に米国、メキシコの北米ツアーに乗り出した。
癒やしキャラが世相に合致
昨年9月下旬、上海中心部の繁華街に日本の人気漫画「ちいかわ」のぬいぐるみや小物などのキャラクターグッズを売る大型店がオープンした。海外の常設のちいかわグッズ店開業は初めて。泊まりがけで開店初日に訪れた江蘇省蘇州の女性(29)は「1760元(約3万8千円)分のグッズを買った」と満足そう。ちいかわTシャツを着た上海のエンジニアの男性(33)は「仕事が忙しく、けなげに仲間と暮らす『ちいかわ』の姿に癒やされる」と話す。
アジアのちいかわファン急増を受け、同様のグッズ店は昨年末に台北、今年2月末にはソウルと相次いで開店した。「Jコンテンツ」に関する多くの著書があり、慶応大非常勤講師も兼ねる社会学者の中山淳雄氏は「ちいかわ人気は一昨年から中国や台湾、韓国などに広がった。こうした地域の経済成長の減速や競争激化を受け、安らぎを求める世相に合致した」と分析する。
「ちいかわ」はコロナ禍に見舞われた20年にSNSで本格的な連載が始まった。中山氏は「生活苦など困難の中で懸命に生き、かわいく小さな幸せを求める主人公らの物語が読者の心をつかんだ。翌年から日本で人気に火が付き、アジアにも波及した」とする。
世界一のソフトパワー、戦略分野に
ゲーム、アニメ、漫画、JーPOP、キャラクター…。中山氏は「Jコンテンツ」の人気が世界に急速に拡大する現状を「第3次ジャポニスム(日本趣味)」と表現する。現在の世界的なブームは浮世絵などの日本美術が欧米に強い影響を与えた19世紀後半の第1次、ポケットモンスター(ポケモン)やハローキティの人気が高まった2000年前後の第2次に続く巨大な波というのだ。
長年外国人の目で「Jコンテンツ」を考察してきたヴィニットポン氏も「日本のソフトパワーは世界首位」と太鼓判を押す。ただ、欧米に加え、韓国、中国、台湾といったライバルの追い上げは急速で、国際競争は激化する一方だ。例えば韓国はKーPOPなどの音楽やドラマ、映画の分野が強く、中国もゲームなどで力をつけている。
経済産業省は昨年「エンタメ・クリエイティブ産業戦略」を発表。コンテンツ産業の現状は輸出額に当たる23年の海外売上高が約5兆8千億円と、半導体(約5兆5千億円)や鉄鋼(約4兆8千億円)を超えた。戦略では33年までに3倍超の20兆円に引き上げる目標だ。達成できれば最大の輸出産業の自動車(23年は約21兆6千億円)に迫り、日本経済の大黒柱に成長する。高市早苗首相もコンテンツ産業を日本経済の17の戦略分野の一つと位置づけ、官民が連携して世界展開を図る。
業界では「官は金は出すが、極力口は出さない黒子に徹するべきだ」(コンテンツ企業幹部)との声が大勢だ。作品を生み出すクリエーターらの育成や給与、労働時間などの労働環境の改善、共通の悩みの種である海賊版対策やリスクの大きい海外公演の支援など課題は山積する。政府が試行錯誤を繰り返しながら、長期にわたって柔軟で地道な後押し、援助を続けられるかが目標実現の鍵となる。
NNA編集委員 飛世良範(とびせ・よりのり) 1962年生まれ。1985年早稲田大学政治経済学部卒。NHKを経て87年社団法人共同通信社。宇都宮支局、大阪支社経済部を経て92年経済部。電機、商社、流通などの産業界、銀行、保険、証券業界、日銀や運輸省(現国土交通省)、総務省、経済産業省、財務省などの経済官庁を取材した。経団連などの財界も長く担当。共同通信グループでアジアの経済情報を配信するNNAに移り、2022年より現職。共同通信客員論説委員。
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