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トヨタ自動車が低炭素鋼材を採用 鉄スクラップをアップサイクル 独立系電炉の東京製鉄

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自動車リサイクル促進センター

 「脱炭素」「カーボンニュートラル」という言葉が、どこか遠い世界の目標のように聞こえていたのは、もう過去の話です。今、私たちの生活のあらゆるシーンで、目に見える形での変化が始まっています。

 その中心にあるのが、人類が数千年にわたって使い続けてきた素材である「鉄」です。鉄は地球上で最も多く利用されている金属です。

 日本は「資源の乏しい国」といわれます。鉄を作るための鉄鉱石も、エネルギー源となる石炭も、そのほとんどを海外からの輸入に頼っているのが現状です。しかし、視点を変えてみれば、日本は世界有数の「資源大国」でもあります。

 街を走る自動車、空高くそびえるビル、家の中の家電製品など、これらはすべて、形を変えた「鉄の塊」です。役目を終えたこれらの鉄がスクラップとなった時、それはゴミではなく、国内で循環させることができる「資源」へと姿を変えます。

 この「鉄リサイクル」の分野で、関係者から熱い視線を浴びている企業があります。日本最大の独立系電炉メーカー「東京製鉄」です。

日本の鉄鋼循環図

▽リサイクルしやすい特性

 そもそも「鉄」とは何でしょうか。鉄は、青銅とともに古くから人類によって用いられてきた金属の一つです。地球の重量の3分の1を占めるともいわれていて、世界中に広く存在する豊富な資源です。毒性はなく、強度や加工などの扱いやすさに加え、リサイクルしても品質があまり低下しないという特性を持っていることから幅広い用途に使用され、私たち社会の生活基盤を支えている優れた素材といえます。

 鉄は、含まれる炭素の量や添加元素によって「純鉄」「鋳鉄(ちゅうてつ)」「鋼(はがね)」の3つに分類されます。実は、私たちが日常、「鉄」と呼んでいる金属は、多くの場合は「鋼」を指します。熱処理によって強度や硬さ、靱性をコントロールできるので、生活用品から長大な構造物まで幅広く利用されています。

▽電炉の鉄は自動車に使えないという、過去の「常識」

 鉄の作り方には大きく分けて二つの方法があります。一つは、天然資源である鉄鉱石を石炭で溶かして新しい鉄を作る「高炉」方式。混合物が少なく、自動車のボディーのような薄くて丈夫な板を作るのに適しています。しかし、欠点は石炭を大量に使うため、製造過程で大量のCO2を排出することです。

 もう一つが、鉄スクラップを電気の力で溶かしてリサイクルする「電炉」方式です。東京製鉄が得意とするこの手法は、高炉方式に比べてCO2の排出量を25%程度に抑えられるという圧倒的な環境優位性を持っています。

高炉法と電炉法の違い

 長い間「電炉の鉄は自動車には使えない」というのが業界の常識でした。なぜなら、街中から集まってくるスクラップには、銅やアルミ、プラスチックなどが混ざってしまうからです。これらがわずかでも混じると、鉄はもろくなり、自動車に必要な強度や美しさを保てなくなります。そのため、これまでのリサイクル鉄は、主に工事現場の鉄筋など、多少の混合物が許容される「建材」として使われてきました。

▽目指す「アップサイクル」

 東京製鉄が「Car to Carプロジェクト」をスタートさせたのは2012年。同社の執行役員経営管理本部長、津田聰一朗氏は振り返ります。「当社は独立系のメーカーとして、高炉メーカーとは異なる独自の道を歩んできました。当社は、比較的安価で手に入りやすい『建物由来』の鉄スクラップを主力原料としています。一方で、自動車においては、高炉メーカーが作るような、極めて純度が高く高級な鉄スクラップを使うのが当たり前、という時代が長く続いていたのです。安価な低級スクラップが自動車に使えるなんて、当時は誰も信じていませんでした」。

 かつて電炉材は、多少の混合物が許容される工事現場の鉄筋などの「建材」に使われるのが一般的でした。同社が目指してきたのは、単なるリサイクルではありません。元の製品よりも価値を高めて再生する「アップサイクル」です。

 武器は、長年培ってきた「目利き」と「精錬技術」です。全国から集まる建物由来の鉄スクラップの中から、どんな混合物が含まれているかを徹底的に分析。さらに、電炉の中で、混合物をも生かしきる独自のプロセスを磨き上げました。

 特に注目すべきは、建物の解体現場から出る鉄スクラップを、含有合金元素のメリットを積極的に活用して再び自動車用鋼板を製造する「アップサイクル」への取り組みです。これにチャレンジしているのは国内では同社だけといわれています。

 「建物から建材へ」というこれまでの流れを止め、「建物から車へ」。これが実現すれば、理論上、私たちは新しい鉄鉱石を掘り出さなくても、今ある鉄を回し続けるだけで、ほぼ永遠に新しい車を作り続けることができるようになります。

▽トヨタが「低炭素鋼材」を採用

 この挑戦が単なる夢物語ではないことを証明するニュースが、2025年11月に業界を駆け巡りました。トヨタ自動車が、東京製鉄の電炉材を採用することを決めたのです。

 この鋼材は、鉄スクラップ100%を原料とし、電炉法により製造された低炭素鋼材の酸洗コイルです。製造時の二酸化炭素(CO2)排出量は約400キロ/tと、従来の高炉法に比べ約5分の1に抑えられました。このニュースは、世界一厳しい品質基準を持つといわれる自動車メーカーが、リサイクル鉄の品質を認めたという、モノづくりの歴史的な転換点となりました。実際、トヨタ向けの鋼板は、表面品質、寸法精度、機械的性質などの要求レベルが他の鋼材と比べて高いといわれています。

 酸洗コイルとは、熱延して作られた鋼板(ホットコイル)の表面にあるスケールと呼ばれる酸化皮膜を酸で洗い落とした鋼板のことです。見た目が滑らかで、加工性や塗装性に優れているため、自動車部材や産業機械の部材などとして、幅広く利用されています。

東京製鉄が電炉法で製造した酸洗コイル

 津田氏によれば、このプロジェクトの過程で大きな戦略転換があったといいます。「最初はわれわれも、自動車由来などの鉄スクラップを集めて、自動車に戻すという『Car to Car』の枠組みで考えていました。しかし、それだけでは高炉メーカーがやっていることと同じ土俵に乗るだけです。われわれの強みは何かと考えた時、あえてコストの安い、そして雑多な混合物のある『建物由来』の鉄スクラップを使い、それを自動車用鋼板にまで磨き上げることにあると確信しました。これは、高炉メーカーには真似できない、電炉専業としての矜持でもありました」と成功の背景にあったのが、大きなマインドチェンジだったと振り返ります。

 銑鉄や還元鉄、上級スクラップなどで銅を希釈せずに原料が100%スクラップで、老廃スクラップを使いこなして自動車向けの鋼板を生産することは世界的にも他に例をみないといい、「老廃スクラップだけを原料にすれば成分や性能もばらつくとも言われるが、原料調達から製鋼・圧延までばらつきをコントロールして安定した品質の鋼板製造する技術を確立できた」と津田氏は胸を張ります。

 将来的には、トヨタ自動車以外の自動車メーカーからの受注も期待するが、当面は、トヨタ自動車に安定的に納入していきたいという意向といいます。

東京製鉄の津田聰一朗執行役員経営管理本部長

▽「混合物は敵ではない」という発想転換

 今回の成功の源には「発想転換」がありました。混合物を「敵」として排除するのではなく、混入していることを前提に、独自の精錬技術と成分配合の「レシピ」を磨き上げる。「以前は混合物をどう取り除くかばかりに目が行っていましたが、今は違います。混ざっているものをどうコントロールし、他の素材と調和させて、狙った通りの強度や粘りを持たせるか。この『インクルーシブ・マテリアル』という考え方に至るまでには、10年以上の試行錯誤と、現場の技術者たちの執念がありました」(津田氏)。

 水平リサイクルに取り組んでいた同社は、2022年に「Car to Carプロジェクト」から「グリーンEV鋼板事業推進プロジェクト」に発展させ、高炉メーカーが使う高級なスクラップではなく、比較的安価なスクラップで自動車向けの鉄を作ろうという方針を強化。準備室を作り、チームが始動しました。

 国内最新鋭の薄板専用工場である田原工場(愛知県)で試行錯誤を繰り返しました。電炉内のスクラップの攪拌や温度調整、そして高温になった鉄をどうやって、何度まで冷ますのかなどの「レシピ」を完成させました。同社のこの独自技術である「レシピ」が今、同業他社を圧倒し、業界をリードしています。鉄スクラップの高度循環に向けた取り組みが、次のステージへと進んでいます。

田原工場の電気炉

▽新しい低炭素鋼材ブランド「ほぼゼロ」

 東京製鉄の環境に対する取り組みの「結晶」が、2024年7月に誕生した低炭素鋼材ブランド「ほぼゼロ」です。電炉でリサイクル鋼材1トンを製造する際、発生するCO2を約0.4トンに抑えることができます。そのうち約0.3トンが製造時の電力起因によるCO2です。「ほぼゼロ」は、電力起因のCO2排出量を非化石証書やデマンドレスポンス(上げDR)などを活用して最大限に削減し、製造時のCO2排出量を約0.1トンにまで削減することに成功しました。

 このユニークな名称について、事業に深く携わる総務部総務課係長の有賀優氏は、その誕生の舞台裏を熱く語ります。「ブランド名を決める際、社内でも議論がありました。世の中には『カーボンゼロ』や『ネットゼロ』といった言葉があふれています。でも、私たちはそこに対して、うそをつきたくなかった。製造工程で電気由来のCO2は再生可能エネルギーで極限まで減らせますが、物理的にどうしても、今の技術では消せない0.1トンほどの排出が残ります。これを無視して『ゼロ』と呼ぶのは、東京製鉄の誠実さに反するのではないかと」。

 有賀氏は、外部の環境保全団体や有識者とも対話を重ねました。「外部から排出権(クレジット)を買ってきて数字を埋める手法は、本質的な削減ではありません。自分たちが今できる限界を正直に、かつ最大限に表現する言葉として、あえて『ほぼゼロ』を選びました。この名前をお客さまに説明すると、最初は驚かれますが、理由を話すと『それこそが信頼できる』と言っていただけます。この正直さが、販売開始からの数百件という成約と、2万トン近い出荷という数字につながっているのだと感じています」。「ほぼゼロ」価格は、鉄鋼製品1トンあたりプラス約5900円と、リーズナブルな設定にしているのも特徴。そして今年に入って、大手ゼネコンからの受注で「ほぼゼロ」の思想で作られた第1号の施設が完成したばかりといいます。

東京製鉄の有賀優総務部総務課係長

▽資源循環の加速の先頭に

 かつて「鉄は国家なり」と言われましたが、今は「鉄は循環なり」の時代です。現在、多くの企業が「サーキュラーエコノミー(循環型経済)」への転換を急いでいます。これからの消費者は、単に燃費やデザインだけでなく、「この車は日本の街から集められた鉄でできており、作る時のCO2も少ない」という「物語」に価値を感じるようになるでしょう。

 津田氏は今後の展望について「自動車での成功は、あくまで一つの通過点です。これからは最新のデータセンターなど、社会のあらゆるインフラを『リサイクル鉄』で支えていきたい。日本国内で眠っているスクラップを、高品質な『国産資源』として蘇らせる。これは、資源の乏しい日本が世界に対して示すことができる、新しい成長モデルです。高炉メーカーの真似をするのではなく、独立系としてのフットワークの軽さと、電炉の技術で、世界の脱炭素をリードしていく。その覚悟はできています」と資源循環加速の先頭に立つ意欲をみせます。

▽CO2排出量取引制度も追い風

 国内では4月からCO2の排出量取引制度が本格的に始まります。これはCO2の排出枠に価格をつけて売買することでCO2の削減を促進するカーボンプライシングの枠組みの一つです。排出量が少ない企業ほど有利になるため、電炉メーカーの東京製鉄は相対的に優位になります。一方、高炉メーカーはコストが上昇し、価格競争力が低下する懸念もあります。世界的な脱炭素の流れが電炉メーカーに追い風となっています。

 しかし、課題もあります。解体現場での効率的な分別や、世界的な鉄スクラップの争奪戦など、解決すべき壁は存在します。世界中の企業が「リサイクル鉄こそが脱炭素の鍵だ」と気づき始め、これまでは「ゴミ」として輸出されていた日本の高品質なスクラップが、戦略物資として奪い合いの対象になりつつあります。日本国内の貴重な資源を、いかに国内で循環させるか。これは国家レベルの課題といえます。

▽「東鉄が、やらねばならない」

 スクラップを積んだトラックを見かけたら、少しだけ想像してみてください。あの鉄が数カ月後には、私たちの新しい愛車のドアや、家族を守るフレームに生まれ変わっているかもしれないという未来を。

 「鉄鋼メーカーが、やらねばならない」「電炉が、やらねばならない」「東鉄が、やらねばならない」。東京製鉄のホームページには「資源リサイクルの最前線に立つわたしたちこそ、気候変動対策に真剣に取り組まなければならないと考えます」と決意がうたわれています。

 日本に古くから伝わる「もったいない」という精神を、最新のテクノロジーで具現化した東京製鉄の挑戦。一度役目を終えた鉄が、再び命を吹き込まれ、次世代の愛車へと生まれ変わる。そんな「鉄が無限に巡る社会」は、今、力強く動き出しています。

 

 

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