行動変容、非認知能力と学力向上
大阪市の教育を事例として
2026年3月10日
神戸大学計算社会科学研究センター
行動変容、非認知能力と学力向上~大阪市の教育を事例として~
神戸大学、同志社大学、大阪市総合教育センターなどの研究チームは、大阪市の学校を対象とした分析から、児童生徒の行動基準を明確にする取組と教員の指導力向上及び授業内容の改善が、学校の落ち着きと学習環境の改善、そして学力向上につながってきた可能性を明らかにした。
大阪市小学校の暴力行為、10分の1以下に
図1は、2015年以降の大阪市小学校における児童1000人当たり暴力行為件数の推移を示している。学校安心ルール導入後、大阪市では暴力行為が着実に減少し、直近の2024年度には、全国平均の10分の1以下の水準となっている。
中学校においても同様の傾向が確認され、導入後には全国平均との差が縮小し、近年では全国平均を明確に下回る水準で推移している。
図1大阪市および全国における児童 千人当たり暴力行為件数
■ 背景:大阪市が抱えていた学校現場の課題
2010年代前半まで、大阪市の学校では児童生徒の暴力行為が多発し、学力も低迷し、教室の落ち着きや授業の成立が大きな課題となっていた。問題行動への対応に多くの時間を要する中で、安心して学習に取り組める環境をいかに確保するかが、重要な課題となっていた。
■学校安心ルールと学校環境の変化
こうした状況を受けて導入されたのが、行動基準を事前に明示する「学校安心ルール」である。学校安心ルールは、単なる規制や取り締まりではなく、「何をしてはいけないのか」と「その場合に学校がどのように対応するのか」を、児童生徒や保護者とあらかじめ共有する取組である。
行動の基準が明確になることで、児童生徒は自らの行動を調整しやすくなり、教室の秩序が回復し、学校環境の安定化が進んだと考えられる。図1に示される暴力行為件数の減少は、こうした変化を数量的に示している。
■規範意識と向社会的行動の変化
学校環境の安定化と並行して、児童生徒の行動規範や他者への配慮にも変化が見られる。図2は、「人が困っているときは、進んで助けていますか」という質問項目に対する小学校児童の回答分布を示したものである。
向社会的な行動に関する肯定的な回答の割合は、2010年代後半以降、経年的に上昇しており、向社会的行動が学校文化として定着しつつある可能性が示唆される。重要なのは、これらの変化が一時的なものではなく、複数年にわたる傾向として観察されている点である。
図2「人が困っているときは、進んで助けていますか」に対する小学校児童の回答割合(大阪市)
■ 自己評価の推移
さらに、図3は「自分には、よいところがあると思いますか」という質問項目に対する小学校児童の回答分布を示している。大阪市では、2018年以降、自己肯定感に関する肯定的回答の割合が、2014年時点と比較して高い水準で推移している。学校生活で、落ち着いた学習参加の経験が積み重なることで、自己評価にも安定した変化が生じた可能性がある。
図3「自分には、よいところがあると思いますか」に対する小学校児童の回答割合(大阪市)
■行動の変化と学力の伸びは同じ時期に現れている
大阪市では、2018年度から授業改善を柱とする学力向上事業を開始し、現在では市内すべての小学校が参加している。学力向上事業を通じて、児童が6年間で学ぶ内容を見通した授業づくりが進められてきた。
こうした取組と並行して、全国学力・学習状況調査における大阪市の成績は、全国平均との比較で段階的に改善している(図4)。本研究は因果関係を断定するものではないが、行動の変化、自己肯定感の改善、学力指標の改善が、複数のデータにおいて同時期に観察されている点を明らかにしている。
図4は、全国(公立)平均を1として、全国学力・学習状況調査より作成した。なお、2018年度調査までは、国語・算数の各科目にA・B、2種類が出題されていたため、A・Bの問題数を考慮した加重平均で「対全国比」を算出している。
■ 大阪市の事例から読み取れる教育改革のあり方
本研究が示すのは、学力向上が単一の施策や短期的な介入によって実現するものではないという点である。行動基準を整え、授業を成立させ、学び続ける行動を支える。その積み重ねの中で、学力は動き出す。
大阪市の事例は、非認知能力への間接的な働きかけが、子どもの行動の変化を通じて学力形成に結びつき得ることを示している。
■論文
上記の研究は、西村和雄(神戸大学)・八木匡(同志社大学)・古閑龍太郎(大阪市総合教育センター)・岩澤政宗(同志社大学)・谷口璃華(大阪市総合教育センター)による論文「非認知能力、行動変容と学力向上:大阪市教育改革の分析」として、国際教育学会誌 Quality Education(『クオリティ・エデュケーション』)第15巻(http://sfi-npo.net/ise/jqe.html)に2026年3月末に掲載予定である。なお、本論文は、神戸大学経済経営研究所DP2026-J01としても公開されている(https://www.rieb.kobe-u.ac.jp/research/publication/dp_ja/index.html)。



















