「特集」新聞記者がネット記事をバズらせるために考えたこと

斉藤友彦
共同通信メディアセンター企画委員
新聞記事と、インターネットに掲載される記事。内容が同じニュースでも、記事の書き方が必ずしも同じではないことをご存じでしょうか?
共同通信で新聞記者・デスクを経験し、ネット向けの長文記事の担当になった私は、試行錯誤の末に書き方を大幅に変えることにしました。なぜ書き方を変えたのか、そしてどう変えたのかを詳述します。
まず、私がネット担当初期に受けた「ある驚き」から紐解(ひもと)きたいと思います。
2021年、共同通信のネット向け長文記事「47リポーターズ」のデスク役になり、各地の記者が書いてくれた長文記事(2千~4千字程度)をネットに出す担当になりました。記事はヤフーニュースやスマートニュースといったプラットフォームで無料公開されています。
デスクとは、記者が書いた原稿を手直しして整える役目です。ただ、当初は原稿にあまり手を加えずに配信していました。
どの記事もおおむねきちんと取材されており、書き方も新聞として問題ないと感じていたからです。
ところが、プラットフォーム上で公開されても、ことごとく読まれていませんでした。どの記事も、ページビュー(PV)が著しく低いのです。
驚いて記事を読み返しましたが、おかしなところは見当たりません。よく取材され、社会的に報じる価値がある記事ばかりです。それが、なぜか読まれない。
反対に、どんな記事がよく読まれているのか。読んでさらに驚きました。「芸能人のテレビ番組内での発言がSNSで話題になっている」という、ニュースとも言えないような記事がアクセスランキングの上位に並んでいるのです。
こんな場所で、ニュースは果たして読まれるのだろうか…。悩みながらプラットフォームを眺めていると、真面目な内容のニュースを扱い、多くの人に読まれている記事も、多くはないもののありました。では自分たちの記事はどうすれば読まれるのか。
考えた末、二つの対策を実施しました。一つ目は「読まれた記事の分析」。よく読まれた記事を200本ほどピックアップし、その理由をグルーピングしたところ、特徴が5点浮かびました。
①共感や感動を呼ぶ内容
②ストーリー性がある書き方
③話題のニュースの関連記事
④タイトルとサムネイルの強いつながり
⑤SNSやコメント欄が盛り上がる記事
特に重要と思ったのは、②ストーリー性があり①共感を呼ぶ記事。非常に多く読まれています。
二つ目の対策は、読者になり得る人へのヒアリングです。若い世代を含む人々に実際に読んでもらい、感想を聞きました。
結果は惨憺(さんたん)たるものでした。「読みにくい」「こんな長文は読みたくない」「ニュース自体に興味が持てない」…。ショックでしたが、詳しく聞くと原因は大きく二つに分けられます。文章の読みにくさと、ニュース自体への関心のなさです。
「読みにくさ」については、こんな意見が多くありました。
①「第1段落から情報量が多すぎて、もうこの時点で読みたくない」
②「記事の出だしに『自民党派閥の裏金問題で~』ってあるけど、この問題をよく知らないから分からない」
③「記事の途中にある『同県教委』って何?」
驚きの連続でした。なぜなら、指摘はいずれも新聞記事の書き方そのものへの不満だからです。
新聞は「逆三角形」で書きます。重要な要素ほど先に書く形です。たとえば段落が三つある記事であれば、第1段落に最も重要な要素を書き込み、第2段落は次に重要な要素を、それ以外は第3段落に入れます。
この形は、企業や官庁の広報などのビジネス文書にも似ています。最初に全体の要約を書き、次にその理由やポイントを列挙し、例示などで各論に入っていく…、社会で広く通用している書き方と言えます。新聞ではさらに、簡潔に書くことが求められます。紙幅に限度があるためで、省略などを多用して文字数を極力少なくします。
ヒアリングで判明したのは、こうした書き方が読者に受け入れられていないことでした。逆三角形は「情報量が多すぎる」。記事の出だしの「○○問題で〜」は、この記事が何について書いているかを端的に説明しているのですが「知らないから分からない」。さらに「神奈川県教育委員会」は文字数が多いので2回目から「同県教委」と省略したら、読者にとっては意味不明の四字熟語に…。「新聞記事だから読みにくい」と言われているのと同じです。
長年培ってきた書き方が通用しない。だからネットでも読まれない。さらに、若い世代からこんな意見もありました。「ニュース自体に興味がないから」。理由は「自分の人生に関係があると思えないから」。つまり人ごとだと言っているのです。
考え方を根本から変えなければいけないと痛感しました。でも、どう書き換えればいい?
ポイントと思ったのが、共感とストーリー性です。加えて「人ごとにしない」ことも踏まえ、次の3点を書き方の方針にしました。
①主人公を1人立て、その人の目線で書く
②時系列に書く。時制をさかのぼらない
③第1段落は「要約」にせず、場面描写などから入る
狙いは、読者に共感してもらうこと。共感を得るには、読者に追体験をしてもらえばいい。出来事を時系列にし、その時々で主人公が感じたこと、考えたことを詳述することで感情移入しやすくなり、読者にとって「自分事」になる。「説明文からストーリーへの転換」とも言えます。
具体的な記事例の一部は次の通りです。はじめに新聞用記事、次にウェブ用記事の冒頭部分をそれぞれ掲載します。
【新聞用】
羽田空港で日航と海上保安庁の航空機が衝突、炎上した事故で、JRや全日空といった日航の「ライバル」企業が、乗客や空港利用者のため、独自のサポート策を緊急で実施し、滑走路閉鎖に伴うトラブルの影響を最小限に抑えようとしていた。事故から2カ月。「当然のことをしただけ」と述べた各社の担当者の言葉から、交通インフラを支えるプライドがのぞいた。(以下省略)
【ウェブ用】
1月2日夕、テレビ各局が「滑走路で爆発」という衝撃的なニュースを一斉に報じ始めた。この時、東京都内にあるJR東海の「新幹線総合指令所」に所属する指令担当課長は直感した。
「かなり大きい事態になる」
すぐに、各現場で働く同僚たちへ連絡を取り始めると、驚きの反応が返ってきた―。
羽田空港の滑走路で起きたJAL機の衝突から2カ月。日本の「空の玄関口」が長時間にわたって機能停止に陥る異常事態の中で、ライバル企業の社員たちも、事故を把握した瞬間からそれぞれが動き始めていた。
取り組んだのは乗客の救出と、滑走路閉鎖で影響を受ける人々の支援。「当然のことをしただけです」と取材に答えた当事者たちから、日本の交通インフラを支えるプライドが垣間見えた。(以下省略)
読み比べてどのように感じたでしょうか。新聞用はコンパクトに端的に要約しています。ウェブ用記事は情景描写から始まり、課長を主人公とするストーリーにしています。そのため文字数は大幅に増えました。
冒頭以外を省略したので分かりにくいかもしれませんが、ウェブ用ではほかにもさまざまな工夫をしています。ポイントは、読者のストレスを減らすこと。
ヒアリングの結果、読者が記事の文体にストレスを抱えていることが分かりました。そこで、ストレスを感じている部分を書き換えます。要約すると次の5点です。
①新聞が多用する省略形を使わない
②一文を短くする。特に主語の前に長い修飾文を置かない
③「日航」か「JAL」かなど、表記に迷ったらグーグルトレンドで比較する
④接続詞や指示語を多用し、段落と段落、文と文のつながりを明確にする
⑤誰かの発言をカギカッコで表現する場合は、発言者をできるだけカギカッコの前に置く。カギカッコの後に述語を付けない。
※一つ一つ説明したいのですが、紙幅がないためここでは割愛します。拙著『新聞記者がネット記事をバズらせるために考えたこと』(集英社新書)で詳述しています。
試行錯誤しながら記事を配信し続けた結果、長文記事はネットでよく読まれるようになりました。その過程で痛感したのは、読者の変化とデジタル空間の特性です。
ヒアリングで分かったのは「長い文章をそもそも読まない」という人が予想以上に多いこと。そんな人にも読んでもらうため、できる限り分かりやすくする必要があると考えています。
また、デジタル空間はひと言で言うと「感情の世界」です。共感が好まれ、極論を言えば、多くの人の感情さえ動かせば「バズり」ます。新聞がこれまで、知識や教訓を抑制的に伝えてきたことを考えると、デジタルは正反対の世界だとも言えます。
ここまで長々と書いてきましたが、この内容が記事以外の文章にも当てはまるのかどうかは、報道機関で働いた経験しかない私には分かりません。ただ、読者は以前と比べて変化しており、読まれる場所も変わってきています。そうした変化に合わせ、さまざまな書き手が、必要に応じて書き方を変えていくことは自然なことではないかと考えています。
共同通信メディアセンター企画委員 斉藤友彦 (さいとう・ともひこ) 1972年生まれ。名古屋大学文学部卒業後、1996年共同通信社入社。社会部記者、福岡編集部次長(デスク)を経て2016年から社会部次長、2021年からデジタルコンテンツ部担当部長として「47NEWS」の長文記事「47リポーターズ」を配信。2024年5月からデジタル事業部担当部長。2025年9月から現職。著書に『和牛詐欺 人を騙す犯罪はなぜなくならないのか』(講談社)がある。
(Kyodo Weekly 2025年11月24日号より転載)















