「農政」未知数の新総裁 改革は連立次第 アグリラボ編集長コラム
自民党の新総裁に高市早苗前経済安全保障担当相が就任した。臨時国会で首相に指名される可能性が高い。高市総裁は農業政策との接点が少なく、農政への思い入れは未知数だ。石破茂首相が「農政改革は焦眉の急」と強調した「増産への転換」は、野党との連立協議次第だ。
総裁選で、農林議員の主なメンバーは林芳正候補に期待していた。官房長官として岸田文雄政権と石破政権を支え、農政を熟知し手堅い政策を期待できる。現職農相の小泉進次郎候補も農政に対する理解は深く、「最初の投票で高市候補がトップでも、決選投票では2位・3位連合で小泉候補か林候補のどちらかが選出される」(農林議員)とみるベテランもいた。
しかし、この思惑は外れた。高市総裁は農政からは「縁遠い」。通商産業政務次官や経済産業副大臣などを歴任したいわゆる「商工族」だ。沖縄・北方担当相、安全保障担当相、総務相など閣僚を歴任、内閣府特命担当相としてマイナンバー、イノベーションなどにも関わったが、農林水産業との接点はほとんどない。党務も産業政策・経済安全保障などの分野が長い。
高市総裁は従来から「食料安全保障は大事」が持論で、総裁選でも「エネルギーや食料の分野は『特定重要物資』に指定するなど、法制度の整備が必要」と訴えたが、食料を国防上の戦略物資として位置付ける経済安全保障の観点からの発言だった。総裁選の討論の中で米政策に関する発言は「精緻な需要予測を行い、それに合わせて生産する」(9月19日会見)、「農林水産業も資材価格高騰などで困っている」(23日共同会見)などにとどまった。
総裁選出直後の会見でも、石破首相が退陣表明会見で後継政権に期待した「防災庁」「賃上げ」「農政改革」のうち、農政だけは言及がなく、「苦手な分野から避けている」という印象さえ受けた。
こうした背景を考えると、高市総裁にとって農政の優先度が高いとは思えない。先に連立協議が進み、その後に農政を詰める展開になるだろう。ただ、思い入れがないだけに政策の自由度は高い。高市総裁が自民党の政務調査会会長だった時に、通産官僚出身で農業分野と無縁だった斎藤健氏を農林部会長に抜てきし、農政改革を任せたことがある。
総裁本人が農政通ではないため、誰を農相に起用するかが焦点だ。農業政策に対する知識・経験と自民党農林議員との人脈が人選のポイントだ。斎藤、小泉、林氏ら農相経験者の再登用の可能性は排除できない。
国民民主党と連立を組む場合、自民党農林議員との関係は悪くない。同党の公約である「食料安保直接支払」の導入を軸にマイルドな改革が進む可能性がある。「増産」は、「需要に応じた」範囲で漸進的に進み、米価の下落はあまり期待できない。
一方、相手が日本維新の会の場合は、急進的な規制緩和と情報技術(IT)や人工知能(AI)を駆使した大規模経営を促す方向に改革が進む。「増産」によって過剰になる米の販路として輸出促進が急務になる。米価の下落を前提とするため自民党農林議員との調整が難題だ。いずれにせよ、農林議員を束ねる森山裕前幹事長が新政権内でどのような役割を果たすのかがもう一つの焦点だ。
(共同通信アグリラボ編集長 石井勇人)