転がせば見えてくる、生き物のあしあと
ローラーを用いた環境DNA採取手法「Koro-rin法」を開発
2026年10月7日
株式会社豊田中央研究所
株式会社豊田中央研究所は、陸上生物の環境DNAを手軽に採取する手法「Koro-rin法(コロリン法)」を開発しました(図1)。ローラーに巻き付けた使い捨ての不織布で地表面を拭い、回収した環境DNAを解析することで、その付近に生息する鳥類・哺乳類の種類や季節変化を把握できることを、14か月の長期モニタリングにより実証しました。この手法は特殊な器具や電源を必要とせず、場所を選ばずに採取できるため、陸域の生物多様性モニタリング調査の効率化に貢献します。
この研究成果は、Wiley社が発行する国際的な学術誌「Environmental DNA」に2026年2月1日付でオンライン掲載されました。
【研究のポイント】
図2. カメラトラップとKoro-rin法で記録された生物情報の比較
ローラーを地面に転がすだけの手軽な陸域環境DNA採取法「Koro-rin法」を開発した。
14か月間の実地調査で鳥類・哺乳類53分類群を検出し、カメラトラップによる検出結果と高い一致率を示した。
渡り鳥の飛来時期と検出結果が対応したことから、地表面の環境DNAから生物相の季節変化を捉えられることを実証した。
図1. Koro-rin法を使ったサンプリング風景
<背景>
近年、生物多様性の損失は世界的な課題となっており、自然を回復させる「ネイチャーポジティブ」の実現に向けた取り組みが広がっています。そのためには、生物がどこに生息し、どのように変化しているのかを継続的に把握することが重要です。しかし、従来の目視調査やカメラトラップによる調査は多くの人手と時間を要し、広域・高頻度のモニタリングには限界があります。
こうした課題への対応策として注目されているのが環境DNA(eDNA)です。環境DNAとは、体表から剝がれた細胞や体毛、排泄物などに由来する微量なDNAで、生物が環境中に残した“あしあと”と呼べます。環境DNAを回収・解析することで、生物を直接観察しなくてもその存在を調べることができます。特に水域では、魚類などのモニタリング手法として広く活用されています。
一方、森林や市街地などの陸域では、水域のように試料を一定量採取して広い範囲のDNAを捉えることが難しく、調査対象や環境に応じた採取手法の開発が課題となっています。特に地表面から環境DNAを得る場合、広範囲かつ高頻度に試料を採取する際の作業負担が大きいため、陸域環境DNAを効率よく採取できる技術が求められていました。
<技術概要>
このたび当社は、広範囲の地表面を効率よく調査できる陸域環境DNA採取手法として、「Koro-rin法」を開発しました。Koro-rin法という名前は、ローラーを転がすという、独特なサンプリング方法に由来します。ローラーに巻き付けた不織布で回収した粒子から環境DNAを抽出し、メタバーコーディング解析によって生物を検出します。歩きながらローラーを転がすことで、広い範囲から短時間で試料を採取できることが特徴です。
当社は、ゲノム工学をはじめとする長年のバイオ研究を通じて、微量な試料からDNAを抽出・解析する技術を培ってきました。Koro-rin法は、こうした技術と研究ノウハウの蓄積に、ローラーで地表面の環境DNAを集めるという着眼点を組み合わせて生まれた、当社独自の技術です。
本技術の有効性を検証するため、 研究チームは、愛知県豊田市にある里山「トヨタの森」において、 14 か月間の継続調査を実施しました。 3 地点の地表面から計 90 サンプルを採取し、鳥類と哺乳類を対象に環境 DNA を解析した結果、鳥類 30 分類群、哺乳類 23 分類群の合計 53 分類群を検出しました。さらに、同じ場所で実施したカメラトラップ調査で記録された 26 分類群のうち 24 分類群を環境 DNA からも検出しました ( 図 2) 。
図2. カメラトラップとKoro-rin法で記録された生物情報の比較
また、環境DNAによる検出結果は、渡り鳥の飛来時期など実際の季節変化とも対応していました。夏鳥のキビタキ属や冬鳥のトラツグミ属では、環境DNAの検出時期が現地観察で確認される出現時期とよく一致しており、地表面に残された環境DNAから生物相の季節変化を捉えられることが示されました。
<今後への期待>
Koro-rin法は、ローラーを地表面に転がすことで、陸域環境DNAを手軽かつ広範囲に採取できる手法です。カメラトラップで記録された分類群の多くを環境DNAからも検出し、渡り鳥の飛来に伴う季節変化を捉えられたという検証結果は、本手法が陸域における生物多様性モニタリングに適用できる可能性を示しています。
本手法は電源を必要とせず、様々な地表面で利用できるため、多地点で繰り返し試料を採取するモニタリング調査に適しています。今後は目視調査やカメラトラップ、水域の環境DNA調査などと組み合わせ、森林をはじめとする陸域生態系の変化をより包括的に把握できる手法へと発展させていきます。
当社は、ネイチャーポジティブの実現に向けた研究を継続するとともに、産官学の連携を通じて実証対象となる環境や生物分類群を広げ、調査手順の確立に取り組むことで、本技術の社会実装を進めてまいります。
<論文情報>
タイトル:A Ground Surface Rolling Method for Detecting Environmental DNA of Terrestrial Animals
著者:垣田真奈美1、古田芳一1、田中秀典1 (1:豊田中央研究所)
掲載誌:Environmental DNA
DOI:https://doi.org/10.1002/edn3.70248
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