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幅広い年代で血糖値が改善!新しい糖尿病治療薬「イメグリミン」の有効性を実臨床データで確認

メトホルミンとの安全な併用用量を提案

2025年12月24日
岐阜大学

幅広い年代で血糖値が改善!新しい糖尿病治療薬「イメグリミン」の有効性を実臨床データで確認  -メトホルミンとの安全な併用用量を提案-

 

 

本研究のポイント

・ 糖尿病治療薬イメグリミンは、若年層から75歳以上の高齢者まで、1年間にわたり安定した血糖改善効果を示したことを実臨床データで確認しました。

・体重、中性脂肪、肝酵素などの複数の代謝指標も同時に改善し、血糖マネジメントに加え、包括的な代謝改善効果が示唆されました。

・メトホルミンとの併用は概ね安全である一方、1,000 mg/日以上の高用量では消化器症状が増加し、750 mg/日以下での併用がより安全である可能性が示されました。

 

 

研究概要

 岐阜大学大学院医学系研究科 糖尿病・内分泌代謝内科学の藤澤太郎大学院生、加藤丈博准教授、恒川新教授、中部国際医療センターの髙見和久糖尿病センター長、京都大学大学院医学研究科 糖尿病・内分泌・栄養内科の矢部大介教授らの研究グループは、新規糖尿病治療薬イメグリミンの実臨床における効果と安全性を検証しました。

 イメグリミンは、インスリンの働きを助けるとともに、細胞内のミトコンドリアの働きを整えることで血糖値を下げることが期待される新しいタイプの薬です。しかし、発売から日が浅く、特に高齢者での実臨床データは不足していました。

 本研究では、イメグリミンを1年以上継続した79人の2型糖尿病患者を後方視的に解析し、年齢層別の有効性・安全性およびメトホルミン併用時の消化器症状増加の要因について検討しました。

 本研究の結果、75歳以上を含むすべて年齢層でイメグリミンは同等の有効性と安全性を示し、血糖値の改善だけでなく、体重や脂質、肝機能など幅広い代謝指標にも良い影響を与えることを示しました。さらにメトホルミン1,000 mg/日以上との併用で消化器症状が有意に増加した一方、750 mg/日以下では安全に併用できる可能性が示されました。

 高齢者は薬剤選択が難しいことが多く、安全性が確認されたことは実臨床において大きな意味があります。イメグリミンは、体への負担が比較的少なく、複数の代謝改善作用を持つ新しいタイプの薬剤です。今回の結果は、日常診療における有望な選択肢としての可能性をさらに裏付けるものとなりました。

 本研究成果は、現地時間2025年12月16日にFrontiers in Clinical Diabetes and Healthcare誌で発表されました。

 

 

研究背景

 日本国内の糖尿病患者は1,000万人を超え、特に高齢者人口の増加に伴い、高齢患者が急速に増加しています。高齢者では若年者と比べて薬物有害事象のリスクが高いため、安全性の高い治療薬の選択が重要となっています。

 イメグリミン(*1)は2021年9月に世界に先駆けて日本で発売された、ミトコンドリア(*2)機能の改善により血糖値を改善する、これまでにない作用機序を持つ糖尿病治療薬です。しかし発売からの期間が短く、実際の医療現場でのデータは十分ではありませんでした。特に、昨今急速に増加する高齢2型糖尿病患者に対する実臨床での有効性と安全性評価が求められていました。さらに、第Ⅲ相臨床試験であるTIMES2試験(*3)では、糖尿病治療薬で使用されることの多いメトホルミン(*4)との併用で消化器症状の頻度が増加することが示されており、より安全な併用の条件を明らかにすることが課題でした。

 本研究ではイメグリミンを1年以上使用した79人の2型糖尿病患者の実臨床データをもとに、この課題を後方視的に検討しました。

 

 

研究成果

 イメグリミンを開始して1ヵ月後にはHbA1cは有意に低下し、この傾向は12ヵ月後まで継続しました。有害事象により中止した6人を除いた73人の12ヵ月後の時点で、体重・HbA1c・ALT・AST・γ-GTP・トリグリセリドが有意に低下を認めました。

 参加者を65歳未満(29人)、65-74歳(27人)、75歳以上(23人)3群に分けて比較したところ、HbA1cの推移、HbA1cの変化量、治療目標達成率は同等でした(図1参照)。いずれも年齢による差は認めず、高齢者でも若年者と同様の効果が確認されました。また、副作用発現率も年齢群間で有意差はなく、消化器症状による中止率も同程度でした。

 

図1. 年齢別におけるイメグリミンの有効性の比較

 

 参加者79人中49人(62%)がメトホルミンを使用していました。そこで、メトホルミンの投与量で層別化(750 mg/日以下:26人、1,000 mg/日以上:23人)したところ、1,000 mg/日以上で有意に消化器系有害事象が高頻度でした(図2参照)。メトホルミンの化学構造がイメグリミンと類似していることが、副作用増加の一因と考えられます。

 

図2. イメグリミン開始時の消化器系有害事象とメトホルミン投与量との関係

 

 本研究は、イメグリミンが高齢者を含む幅広い患者層で安全に使用でき、血糖値の改善だけでなく、体重や脂質、肝機能など幅広い代謝指標にも良い影響を与えることを示しました。そして、メトホルミンとの併用は概ね安全である一方、高用量(1,000 mg/日以上)では胃腸症状が増える傾向が確認され、併用時の適切な用量調整の重要性が示されました。

 

 

今後の展開

 イメグリミンは、体への負担が比較的少なく、複数の代謝改善作用を持つ新しい治療薬です。本研究は単施設・後方視的研究ではありますが、高齢者を含む幅広い患者に対して有望であることを実臨床で示しました。

 今後は、多施設共同研究、前向き研究、メトホルミン併用最適化の検証などにより、本研究結果の再現性と実践的な治療戦略の確立を目指します。

 

 

用語解説

*1 イメグリミン

 膵臓にあるβ細胞を刺激してインスリンの分泌を促し、血糖値を改善します。また、細胞内のエネルギー工場と呼ばれる「ミトコンドリア」の働きを整えることで肝臓や筋肉での糖の取り込みを促すことでも、血糖値を改善する効果があります。

 

*2 ミトコンドリア

 細胞の中にある「エネルギー生産工場」のような存在であり、イメグリミンは、この機能を整えることで、血糖値の調節に寄与すると考えられています。

 

*3 TIMES2試験

 イメグリミンの有効性・安全性を評価した第Ⅲ相試験群のひとつで、TIMES2試験は既存の経口糖尿病薬との併用効果を検証したものです。

 

*4 メトホルミン

 世界的にも最も使用されている糖尿病治療薬のひとつです。イメグリミンと類似した化学構造式であり、併用時に消化器症状が増えやすいことが知られています。

 

 

論文情報

雑誌名:Frontiers in Clinical Diabetes and Healthcare

論文タイトル:Real-World Effectiveness and Safety of Imeglimin: A Single-Center Retrospective Cohort Study in Japan

著者:Taro Fujisawa, Takehiro Kato*, Kazuhisa Takami, Shinya Fukuda, Risako Imai, Tomoya Kawashima, Ryosuke Horita, Katsuhisa Sakai, Akiko Yamada, Shin Tsunekawa, Daisuke Yabe(*Corresponding author)

DOI:10.3389/fcdhc.2025.1694522

 

  • 図1. 年齢別におけるイメグリミンの有効性の比較
  • 図2. イメグリミン開始時の消化器系有害事象とメトホルミン投与量との関係

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