若手漫画家ら30人に年120万円 助成金、アスリート水準に増額 若者の夢実現を応援、上月財団
上月財団(東京都港区)は7月28日、原則15~25歳の次代を担う若手漫画家・アニメーターらを発掘・支援する23回目の「漫画家・アニメーター育成事業」(旧称・クリエイター育成事業)の2026年度助成対象者30人を決定した。8月から来年7月まで30人の創作活動を応援するため、1人当たり月10万円、年間120万円を支給する。
この日は応募者203人のうち一次選考を突破したいずれも“実力者”の40人が、東京都内で行われた「実技」と「面接」(5分)からなる最終選考に臨んだ。実技はこれまで、当日発表の複数テーマの中から各自が任意のテーマに沿って絵などの作品を制作する方式だったが、今回はテーマを設けず各自の自由な趣向で作品を制作してもらう“自由方式”にした。
40人は机を並べた同じ会場で、昼食や1人5分の面接を間に挟みながら、午前9時50分~午後3時20分、現時点に持ちうる限りの才能を作品制作に注ぎ込んでいた。
助成対象者30人を決定した選考委員会は、委員長を務める東京藝術大学 大学院教授の伊藤有壱さんのほか、漫画家の吉住渉さん、コナミデジタルエンタテインメントの2人、出羽昌司・専務執行役員と古市直彦KONAMI animation統括プロデューサー、上月財団の村田哲也常務理事の計5人で構成。

講評を述べる選考委員会委員長の伊藤有壱・東京藝術大学 大学院教授(中央)。左奥は来賓の椎名ゆかり・文化庁芸術文化調査官。右奥は上月財団の村田哲也常務理事=2026年7月28日、東京都中央区のコナミリバーサイド
選考委員会を代表して講評を述べた伊藤委員長は「一次選考を通過した皆さんは全員選ばれた者(優れたクリエ―ター)です。今回の審査で感じたのは、力強くワンランク、レベルアップした若き才能です。今回の実技のお題は(テーマを設けない)フリーになりました。どうなるかと心配していましたが、皆さんの制作の様子を見た時に、その心配は吹き飛びました。皆さんからは、(フリーテーマになって自身の才能を解放する)伸び伸びした”新しい風”、迷いを断ち切る新たなスイッチや自分に足りなかったものを手に入れる力強さを感じました」と話し、今回、最終選考に臨んだ40人が“粒ぞろいの猛者”だったことを振り返った。最終選考は難航した模様で、選考委員会は結論を出すまで予定より20分近く会議を延長している。

助成対象者に選ばれたインディーゲームクリエーターの道を進む大瀧佳実さん(左)と世界の人を楽しませるアニメーターを目指す岡田一那さん
助成対象者に選ばれた、アニメーターを目指す岡田一那さん(23)は「アニメの勉強をするため、フランスに留学するので、その費用に今回助成金を使います」と喜んでいた。個人や少人数のチームで制作するインディーゲームのクリエーターの道を進む大瀧佳実さん(24)は「今回の助成金は、ゲームの制作に必要なプログラマーの人件費などに充てたい」と話した。
同じく助成対象者に決まった近藤仁さん(20)は漫画家を目指し、徳島県から大阪に出て漫画の腕を磨いている。「人の心を動かす漫画、人の気持ちにつながり支えになるような漫画を描けるようになりたい。本格的に漫画を描き出してから1年なので、ストーリー構成など未熟さを自覚しています。今回の助成を生かして、今の自分に足りないものを補い、プロの漫画家になる力をつけていきたい」と語った。

漫画家を目指す近藤仁さん
助成対象者30人に助成の「認定書」を手渡した上月財団の村田常務理事は、今回助成対象者に選ばれなかった10人の健闘もたたえ「残念ながらあと一歩及ばなかった方は、この経験をこれからの創作活動に生かし、来年も再びこの助成事業にチャレンジされることを願っています」とエールを送った。
来賓として認定書授与式に臨席した文化庁の椎名ゆかり・芸術文化調査官は「皆さんは、さまざまな選択と決断の果てに自分のやりたいことに向き合った結果、この場にいるのだと思います。素晴らしいことです。今日の経験を糧にますますこれからも活躍してください」と祝辞で述べ、人々を感動させる表現者の道を選んだ若者たちの奮闘に敬意を表した。
実技・面接終了後は、6年前の2020年度助成対象者である漫画家の@カリカリうめさんが、実技・面接を終え緊張の解けた40人を前に、プロになるまでの道のりやプロとなってからの心構え、漫画制作の技法など、自らの体験を踏まえた話を、コナミグループの脇田昌代広報室長を対談相手に披露した。

自作のキャラクターは家族同然と話す@カリカリうめさん(右)。左はインタビュアーを務めたコナミグループの脇田昌代広報室長
@カリカリうめさんは21年9月から、ぶんか社の無料マンガサイト「マンガよもんが」に連載漫画「竜と歩む成り上がり冒険者道~用済みとしてSランクパーティから追放された回復魔術師、捨てられた先で最強の神竜を復活させてしまう~」(原作:岸本和葉/キャラクター原案:シソ)を掲載。この作品は現在6巻目まで単行本化され、現在も連載は続いている。
多忙を極めている@カリカリうめさんへの質問タイムでは、漫画を描く人の共通の悩み、座りっぱなしによる腰痛予防の相談があった。@カリカリうめさんは「腰痛を防ぐには椅子にこだわるよりも机により投資した方が良い。机にお金をかけるべきです。僕は腰痛防止のため時々立って漫画を描きます。だから机は高さを移動できる昇降式がお勧めです」と具体的にアドバイスした。
神奈川県出身の@カリカリうめさんが、本格的に漫画家を目指したのは高校卒業時で、比較的遅いスタートだった。「毎日満員電車に揺られて通勤する会社員の自分はまったく想像できませんでした。僕には無理だなと思った。唯一この道ならと将来の職業としてイメージできたのは漫画家とイラストレーターでした」と進路に迷っていた高校時代を振り返った。
進路を漫画家1本に絞ったのは20歳ぐらいの時。@カリカリうめさんが、今も忘れることはできない創作者の原点、譲れない一線というべき“核”を強烈に意識した「キャラクター殺し事件」がきっかけという。
「僕は家族同然と言うべき、自らデザインしたキャラクターを見殺しにしてしまった。ある企業が、僕のデザインしたキャラクターを自社のキャラクターに採用したのですが、企業側が僕がキャラクターに込めた設定をどんどん変え、当初のキャラクターコンセプトとはかけ離れた僕にとってはあり得ないとんでもないものが出来上がってしまった」と述べ、“怪物”を生み出したフランケンシュタイン博士のような自責の念に駆られたという。
「自作のキャラクターを破壊されたのは初めての経験で(商業主義の前になすすべなく敗れた)自分に失望しました。この企業との仕事は途中で降りた。キャラクターを大事にして仕事をしなければならないとこの経験から学びました。制作したキャラクターの本質を貫徹するには漫画家になるしかないと思い至った」と@カリカリうめさんは言う。
「漫画家にとってキャラクターは家族同然。僕はそれを守れなかった。殺してしまった」と語る@カリカリうめさんのキャラクター愛は強烈だ。だからこそ、上月財団の助成金を生活費に充て、漫画家のアシスタントの仕事を半減させた翌年の21年にプロデビューの栄冠を手にできたのかもしれない。
@カリカリうめさんは、創作にかける一本筋の通った熱い心棒が体を貫いている。最後にこれから活躍する後輩に、 “花と土”の対比が強く印象に残る含蓄ある言葉を残して、拍手の中を静かに退出した。泥の中で咲くハスの凜(りん)とした美しさを知る人の言葉である。
「われわれ漫画家もアニメーターもキャラクターに生かされていると思う。僕にとってキャラクターは家族同然です。キャラクターを“魅力的な咲く花”にするために、(漫画家は)“泥臭い立派な土”になってほしい」
キャラクターを“魅力的な咲く花”にするため、漫画家は“泥臭い土”であれと語った@カリカリうめさん
上月財団は、コナミグループ会長の上月景正氏が1982年に創設。創設時の名称は「上月教育財団」で2013年に改称した。財団の運営資金はコナミグループの株式配当金を充てている。
漫画家やアニメーターらクリエーターを目指す原則15~25歳の若者を支援する「クリエイター育成事業」(今年度から「漫画家・アニメーター育成事業」に改称)は04年度に開始。全国の応募者の中から、将来有望なクリエーターを毎年選び助成している。事業開始以来の助成対象者は今回含め延べ764人。最近の物価高騰などを踏まえ、24年度から助成額を毎月1万円増やし、年間で12万円増額の72万円にした。
さらに今年度から月10万円、年間120万円と前年度比1.6倍余に引き上げた。年間120万円の助成支給額は、上月財団が五輪で活躍するアスリートを数多く輩出することに貢献してきた、有望な若手アスリートを支援する「スポーツ選手支援事業」の支給額と同額だ。「漫画家・アニメーター育成事業」(旧称・クリエイター育成事業)でも約30人の元助成対象者が現在、漫画家やアニメーション作家、版画家としてプロの世界で活躍している。
















