スイッチOTCで成長を加速 エスエス製薬のカルラ社長
創業1765年の老舗製薬会社エスエス製薬(東京都新宿区)のニクヒレッシュ・カルラ社長(51)に、健康意識の高まりを見据えて同社が力を入れるスイッチOTC医薬品事業や社長就任後の4年間で女性管理職比率を2倍にした社内改革の取り組みなどを聞いた。
―社長就任前に抱いていたエスエス製薬のイメージは。
解熱鎮痛薬「EVE(イブ)」のようなマーケットをリードする薬を開発した強いブランド力と強固な技術力を持つ会社の印象を持っていました。歴史的なことは就任後に知ることも多く、例えば創業以来「科学の力で社会に奉仕する」役割を果たした長い歴史を具体的に学びました。現在力を入れている、医療用医薬品の成分を自らの有効成分に転用した市販薬「スイッチOTC医薬品」の事業も、この長い歴史に続くものであり、弊社は引き続き重要な役割を社会で果たしていきます。

エスエス製薬の主力製品「EVE(イブ)」=千葉県成田市の同社成田工場、同社提供
▽典型的なドメスティック企業からグローバル企業へ
―社長就任後、社内で最も変わったことは。
一番大きな変化は社内の多様性です。これまでの弊社は全社員がほぼ日本人で管理職の大半を男性が占める、典型的な「ドメスティック企業」でしたが、現在は多様化が進み、社員の約35%は女性です。出身国も14カ国ほどに広がりました。また他社での経験を弊社に生かしてくれる“転職組”も増えました。その結果、例えばインターネット通販による医薬品販売の拡大など、今までと異なる取り組みが増えました。
―処方箋なしで薬局やドラッグストアで買えるOTC医薬品(市販薬)の日本市場の特徴は。
中国やインドに比べれば日本のOTC医薬品市場の規模は小さいですが、医療用医薬品限定の成分を市販薬用に転用するスイッチOTC医薬品に関していえば、厚生労働省が後押しする日本のスイッチOTC医薬品市場は、アジア内では成長の余地が大きい。その意味で、弊社の親会社であるヘルスケア世界大手オペラ(フランス)にとって日本は非常に重要な市場です。

日本のスイッチOTC医薬品市場を重視するエスエス製薬のニクヒレッシュ・カルラ社長=東京都新宿区、2026年2月26日
▽スイッチOTCで治療ニーズ創出
―スイッチOTC医薬品の拡大戦略は。
エスエス製薬は市販薬を通じて成長してきた歴史のある会社であり、親会社オペラも世界で85以上の転用を行いました。このエスエス製薬の経験と、スイッチOTC医薬品を世界展開するオペラのノウハウを組み合わせる取り組みを進めています。例えば勃起不全(ED)治療薬「シアリス」(一般名タダラフィル)をスイッチOTC医薬品として製造販売する承認の了承を厚労省の専門部会から日本で初めて得ました。スイッチOTC医薬品の販売は、将来的に調剤薬局やドラッグストアで適切な服薬指導を行うなど薬剤師が果たす役割が大きくなると考えていますので、薬剤師会などを通じて普及に向けた啓蒙活動を弊社でもお手伝いしたい。また弊社医薬品販売の多くを占めるドラッグストアの販売を促進する取り組みをさらに強化していきます。
―人口減少の影響は。
我々が何もしなければ市場は縮小していきますが、打てる手はたくさんあります。その一つがスイッチOTC医薬品の強化です。例えば、ED治療薬「シアリス」はこれまで埋もれていた治療ニーズを顕在化させる可能性があります。これまで処方箋がないと買えなかったED治療薬がドラッグストアなどで買えるようになるからです。これはED治療人口の増加を意味します。人口減少の時代でも製薬市場を成長させることはできると考えます。大事な点は、自身の症状に対して十分なセルフケアや治療をしていない人は多いということです。小売りの皆さまと協力して、消費者の皆さまの治療に向けたセルフケア意識を高めていけば、ビジネスチャンスはあります。

錠剤の瓶詰めライン=エスエス製薬成田工場、同社提供
―健康を維持するセルフケア意識を高める方策は。
課題は二つあります。一つは自分で治療することへの不安、障壁です。例えば鎮痛剤の使用に関しては副作用を心配する人がいます。この点は科学的証明と使用の長い歴史を消費者の皆さまにきちんと伝えきれていないコミュニケーション不足があると思います。もう一つは、いわゆる消費者の皆さまの健康リテラシー(健康分野の知識・能力)を高めることです。先進国の中では、日本の健康リテラシーは比較的低い状態にあると思います。これらの課題に対処するには、例えば製品パッケージの説明を簡素化して消費者に理解しやすくする、また学術的な用語を少し減らして伝わりやすい表現に変えることなどが考えられます。これら以外にもSNS(交流サイト)のキャンペーンやウェブサイトで健康分野の情報を普及させるなど、健康リテラシーを高めるさまざまな方法があると思います。このような方策で、消費者の皆さまのセルフケア能力を高めることができるのではないかと考えています。

生産ライン上で動く「EVE(イブ)」のパッケージ=同社成田工場、同社提供
▽社内外でDEIの取り組みを推進
―女性が働きやすい職場に向けた取り組みは。
女性が“なりたい自分”になる際の疎外要因は、子どもの世話や高齢者の介護に関する責任が夫に比べて女性の方が大きく、家庭内の責任分担の比率がゆがんでいることです。このため弊社では、子どもの育児に関するサービスなどいわゆる家事サービスを弊社の負担で提供しています。このサービス利用で生まれた時間を女性は自由に使います。仕事に使う人もいれば、家族との関係を深める時間に充てる人もいるでしょう。女性が“なりたい自分”になれる時間を得られるよう配慮する取り組みをしています。また女性が“なりたい自分”になる際のもう一つの疎外要因として、お手本となる「ロールモデル」の不在が言われますが、弊社では過去2~3年の間に、例えば、若い女性社員がお手本にできる先輩女性社員は増えています。女性管理職は全体の25%ですが、4年前と比べればその割合はほぼ2倍になっています。現在も女性社員に対して、管理職やリーダーの地位に就くよう促しています。また家事の責任分担の公平化という意味でも、男性の育児休暇もとても大切です。これはお父さんが子どもたちのお手本になるという意味で、またその子どもたちが将来担う社会の在り方にとっても非常に重要なことです。

製品の品質チェック部門で働く女性=エスエス製薬成田工場、同社提供
―DEI(多様性、公平性、包摂性)の取り組みは。
女性管理職の拡大は弊社内でのDEIの取り組みですが、社外でのDEI活動にも積極的に取り組んでいます。例えば、「目標を掲げて生きる女性が、本来持つ力を発揮し、前へと進み続けられる未来をつくる」ことを目的とするプロジェクト「BeliEVE PROJECT」の一環である「BeliEVE Mentoring Program」です。弊社以外の他社の女性がキャリアをあきらめずリーダーシップを発揮できるよう促す活動で、女性がなりたい自分になるための経験知、知見を社外に広げていく試みの一つです。

使用電力を100%再生エネルギーに転換したエスエス製薬成田工場=同社提供
―循環型社会推進の取り組みは。
弊社の成田工場(千葉県成田市)では、二酸化炭素など温室効果ガス(GHG)の排出削減に取り組んでいます。成田工場のGHG排出削減幅は、親会社オペラが掲げる世界のグループ工場の削減目標幅を大きく上回っています。また成田工場の使用電力を100%再生エネルギーに転換しました。さらに廃棄物もほとんど出さない「ゼロエミッション」にも取り組んでいます。これらはオペラグループが掲げる「持続可能なケアの誓い」の一つ「健康的な地球」に貢献する活動の一環です。
―市販薬と効能や成分が似ている「OTC類似薬」の保険適用除外に向けた政治動向への見解は。
これは非常に複雑な問題だと思います。高齢化で医療費が上がっていく一方で、保険適用除外となれば、患者にとっては負担増になります。物価が上昇する現在のインフレ下の日本で、患者の負担増は考慮する必要があると考えます。もう一つ重要な点は消費者の認知度です。OTC類似薬への認知度が低いので、これを高めることも必要だと思います。
▽経営者に必要な“成長マインド”
―経営者として大切なことは。
一番重要なのは成長するためのマインドを持つことだと思います。常に過去と比べて成長していたいと考えています。これはプライベートでも心掛けています。“個人として成長し続ける”ということが一番大切だと思います。私はそこに重きを置いています。
―健康法は。
仕事の時間と休みの時間の切り分けを強く意識しています。休みの時は仕事のことは考えないよう努め、しっかり休みます。例えば、休みの時間はスマホで仕事関係のメールやメッセージを見ないように努めています。このようにすることで仕事とプライベートの程よいバランスを保っています。また週3~4回、スポーツや運動で体を動かすよう努力しています。あとは毎日最低7時間ほど寝ることですね。これは私にとって結構重要です。
―社長就任から4年が過ぎました。日本の印象は。
日本人は周りの人に対してとても思いやりがあると感じます。思いやりのある人の印象が強いです。日本で4年間を過ごした私の中にもその日本人のような思いやりが身に付いたらいいなと思っていますし、日々その思いやりを心掛けてはいます。今後の人生でも人に対する思いやりを心掛けていきたいと思っています。
―この4年間、日本国内を旅する時間はありましたか。
富士山には登り、とても特別な体験をしました。富山県では両側が高い雪の壁の道を通りました。この“雪の壁”は私にとっては今まで見たこともない光景でした。日本はとても美しい国だと思いますので、行かないといけない、見ないといけない所はまだまだたくさんあると感じています。
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Nikhilesh Kalra インド出身。イギリスの日用消費財大手レキットベンキーザーやアメリカの大手食品メーカーゼネラル・ミルズなどを経て、2016年12月フランスの製薬大手サノフィ入社。前職含め欧州・アジアの計6カ国で勤務し、ゼネラル・ミルズではアジア地域の主要ブランドの戦略とイノベーションを主導。サノフィではインド市場に適した医療用医薬品事業の確立に貢献した。22年1月から現職。51歳。
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