KK KYODO NEWS SITE

ニュースサイト
コーポレートサイト
search icon
search icon

平成25年度 厚生労働省 第3次対がん総合戦略研究推進事業 市民公開講演会「発がん機序からがん予防まで ~研究成果と課題~」

IMG_9351

 第3次対がん総合戦略研究推進事業「市民公開講演会」(主催・公益財団法人がん研究振興財団)が3月29日、東京・中央区の国際研究交流会館で開かれた。「発がん機序からがん予防まで~研究成果と課題~」をテーマに、がん研究の専門家による成果報告や、講演、座談会が行われ、今後のがん予防に向けて意見交換した。
 司会は、モデルやプロデュース業などで活躍するかたわら、乳がんにより右の乳房の全摘出と再建手術を行い、がん予防の啓蒙活動などを行っている藤森香衣氏。

【開会あいさつ】

上田龍三・運営委員長(愛知医科大医学部腫瘍免疫寄附講座教授) 対がん戦略は30年前から脈々と続いてきた厚労省のがん対策の中心の一つ。がんは今や国民病で、今後どうすべきかということについて、内閣府も相当力を入れてくれている。(講演会は)そういうものに対してアカデミア、行政などに今後の夢も語ってもらうという企画だが、がんになっても怖がらなくてもいい社会を作るために、一緒に考える時間を持ちたい。

【第1部 成果報告―対がん戦略が果たした役割―】
座長 吉田輝彦・国立がん研究センター研究所副所長

<総括> 中釜斉・国立がん研究センター研究所所長 

 1981年にがんが日本人の死因のトップとなり、それ以降、日本社会の高齢化に伴ってがん患者数は年々増えている。現在の日本人の男性の54%、女性の41%が一生のうちに一度はがんになる。平均すると2人に1人で、がんは普通になる疾患として、医師だけでなくて国民全体で対策に取り組む必要がある。 

 国は1984年から10カ年戦略を1次、2次、3次という形で30年にわたって支援。今年が第3次対がん戦略の最終年にあたる。
 84年から93年までの第1次は、主にがんはどういうものか、がんの本質について研究が進められた。94年から2003年までの第2次は、がんの本体を解明すると同時に、がん克服に向けて展開するために国も多く金を投入した。
 
 04年からスタートした最終の第3次は、より積極的に罹患率死亡率を減らすことを目指してかなり出口を強く意識し、がんの実態を把握し、実態に基づいて戦略を立て、革新的ながんの医療技術を確立するという目標に向かって実態に基づいた対策が進められてきた。

 また、得られた成果は国民に発信する必要があるということで第3次の中では情報発信も非常に力を入れてきた。その成果を紹介すると、例えば大腸がんでは、マイクロRNAという血液中にある小さなRNAを患者、健常者と比較することで、早期診断のマーカーの候補として検診レベルで使えるか実証していく必要があるところまで成果が出ている。

 あるいは、悪性か良性かわかりにくい肺の小さながんを見えるようにする超拡大CTというような機器開発も行われてきた。
 それから治療法としては、肺がんだけに特徴的にみられる異常な遺伝子があって、こういう遺伝子がある患者については、すぐに新しい治験に入れるというようなことが従来にも増して非常に迅速に展開できるようになってきた。

 予防法としては、予防のための薬を開発する。がんになりやすい原因が分かっていれば除去する。また、禁煙することで明らかに予防できるわけだから、生活習慣を変えることから予防できる。これを具体的に実証するには、非常に長期的なスタディが必要になってくるが、こういうことを進め、将来的にがん患者を減らす。これが究極の目標であるわけだ。

 一方、対がんの推進事業として「がん研究振興財団」が若手の研究者を30年に渡って支援してきた。これは非常に大きな成果があり、トータル800人近くが支援を受けて対がんに取り組んだ。こういう若手研究者を育成する事業を今後とも継続していただきたい。

<成果1「胃がんとヘリコバクター・ピロリ」> 浅香正博・北海道大大学院医学研究科がん予防内科学講座特任教授

 がんは老化現象の一つ。60歳を過ぎると急に罹患率が増えてくる。遺伝子の異常ががんの原因で、年を取ればとるほど遺伝子の異常が起こりやすくなるためだ。胃がんや大腸がんの発生率のピークは、昔は70代とか60代と言われが、これは寿命に関係していて、今日本人の寿命が85歳以上になったので、さまざまながんの発生率のピークは85歳以降になっている。

 がんの原因は今までは生活習慣。喫煙も入れたら生活習慣で7割から8割と言われていたが、日本では感染症に基づくがんが欧米から見ると多い。25%くらい存在する。肝炎ウイルスに基づく肝がんが10%くらい、パピロマーウイルスによる子宮頸がんが2、3%。ピロリ菌に基づく胃がんが15%くらいを占める。

 感染症由来のがんは、感染を潰せばいいのだから容易に予防できる可能性がある。中でも、ピロリ菌と胃がんの関わりは、胃がんの新常識。日本では年間5万人亡くなっているが、ピロリ菌感染が重要な危険因子となっていて、わが国で約98%といわれている。

 胃がんは、日本と中国と韓国、東アジアの3国で全世界の56%を占める東アジアの地方病と言われるくらいのがんで、韓国の調査でも95%がピロリ菌感染であるということで、東アジアの胃がんの大半はピロリ菌ということになる。だから、ピロリ菌対策さえすれば予防ができる可能性があるというわけだ。

 ピロリ菌に感染すると、数週から数カ月で100%の人が慢性胃炎、これはちょっと胃の調子が悪いという胃炎ではなく、病理学的な胃炎、白血球が出てくる慢性活動性胃炎になる。これが、今回保険が通ったピロリ感染胃炎という病気だ。
 これが長く続くと日本人の場合は83%以上が萎縮性胃炎というものに変わり、その中から0.1%から0.4%が分化型の胃がんになる。

 日本は世界で初めて、ピロリ菌除菌によってピロリ菌に関連する胃がんを含めた全ての胃の病気を抑制できる素晴らしい機会を得ることができた。ピロリ菌は除菌をしなければ一生その人と付き合っていくと言われているので、ピロリ菌を除菌しない限りは胃炎の状況は改善しない。

 大分医大のデータだが、除菌すると、いっぱい出ていた白血球が半年以内に0になる。それから10年間そういう状況が続く。萎縮の場合はもう少し遅れるが、10年くらいで8割くらいが改善する。

 ただピロリ菌除菌によって100%胃がんを抑制することはできない。これは年齢によっても違うが、若いほど抑制でき、年齢が高くなると抑制率が減るが、1割、2割、3割という形で除菌がいいというのは間違いない。
 なぜピロリ菌感染者全員を除菌しなければならないかというと、毎年5万人亡くなっている胃がんの大半はピロリ菌に基づいているからだ。
 除菌療法を行わない。ピロリ菌をやっつけないで炎症だけ薬で抑制しても発がん作用は改善しない。従って除菌は必須のものであるというのが基礎研究から明らかになった。

 胃がん撲滅計画を日本人にしているのは、日本人の早期胃がんの診断能力、それから治療能力だ。意外と皆さん知らないが、胃がんの国別の生存率、日本人は60%くらい、がんセンターは70%超えている。他の国は10から20%くらいで、日本だけが胃がんが助かる病気だ。早期胃がんの概念を作ったのも日本人で、日本の消化器内視鏡医の早期胃がんの診断能力は極めて高い。

 保険が昨年2月に通ったから、若年者とそれ以外に分けたらいい。若年者はほとんど除菌だけで決着がつく。ピロリ検査で若年者の陽性というのは5%しかいない。だから、ピロリ菌感染の除菌療法を行い、あとは経過観察でいいのではないか。これをやると、30年後、40年後に日本から胃がんが消えていくと思う。

 2020年は東京オリンピックの年だが、それまでに胃がんが5万人死亡していたのを3万人くらいに減らせれば世界中から高く評価されるのではないか。私は昨年、これを世界保険期間(WHO)で言ってきたので、国際公約みたいになった。ぜひ非実現したいと思う。

<成果2.「子宮頸がんとヒトパピロマウイルス」> 神田忠仁・理化学研究所新興・再興感染症研究ネットワーク推進センターチームリーダー

 ヒトパピロマウイルス(HPV)が子宮頸がんの発症にどうかかわるのか、それと現在、子宮頸がんの予防にどういう戦略を持っているのかを話す。

 子宮頸がんは子宮の入口、出口にできるがんで、WHOの試算によると、年間45万人の新規患者が出て、27万人が死んでいる。女性のがんでは、乳がんに次いで多い。日本では約1万2千人が発症し、2500人から700人が死んでいる。昔はわりと高齢女性のがんだったが、最近20代の後半から40代前半の子宮頸がんが増えている。

 パピロマウイルスはいろんなウイルスの、だいたい大きさに比例しているが、非常に小さいDNA型のウイルス。大きさは直径で、インフルエンザウイルスの4分の1くらいのウイルスだが、インフルエンザウイルスのような脂質を含む膜を持っていないので、アルコールとか洗剤に耐性があり、なかなか死活しない丈夫なウイルスだ。

 パピロマウイルスは今まで、人から200くらいの遺伝子型が分離されているが、そのうち15種類ががんと関係あることが分かっている。

 パピロマウイルスは、性行為などでできた小さい傷から侵入し、基底細胞の中に入る。基底細胞の中ではウイルスの増殖は起こらず、潜伏した状態でゲノムが核の中に入ってじっとしている。この細胞が分裂するときに、一つは自分と同じ幹の細胞、幹細胞になり、もう一つは分化して垢になっていくが、パピロマウイルスのゲノムも細胞分裂と一緒に複製して二つの細胞に分配される。

 したがって、一度潜伏感染を起こすと治らずに、潜伏感染状態が非常に長期間にわたって続く。分化に向かって進んでいくゲノムは、かなり終盤でウイルス増殖が起きる。この終盤の細胞というのは基本的に死にかかった細胞で、これをもう一度よみがえらせてウイルス増殖が起こる。それをするために細胞のDNA合成系を止めているRBという遺伝子産物をE7タンパク質が不活化する。

 もう一つ、異常なDNA合成などを止めるための細胞の装置としてP53というたんぱく質があるが、E6タンパク質がここに結合してこれを分解してしまう。つまりこの状態というのは本来死にかかった細胞が蘇ってウイルス増殖に役だっているというか、ウイルスはそれを使って増殖しているという状況になる。このE6E7タンパク質というのが発がんに決定的に寄与する。

 もう一つ大事な点、パピロマウイルスというのは子宮頚部だけでなく膣壁とか外陰部の粘膜、男性の生殖器、生殖器以外にも感染するが、目立つ病変は起こさない。従って一旦感染して潜伏感染が起きるとたまにちょろっと増える。ちょろっと増えると自分の身体の内部の別の場所に潜伏感染を起こす。これ繰り返すわけだから、これ免疫系がある程度抑制していることもわかっているが身体の中のウイルスというのは一度感染すると時間とともにじわじわ増えてきてしまう。それと同時に発がんのリスクもじわじわと上がってくる。免疫系がある程度抑制しているというのは年をとって免疫系が少し能力を失うと、子宮頸がんが増える。あるいはHIVの感染で、免疫が抑制された人というのは、パピロマウイルスの検出率が非常に上がってくる。
  
 パピロマの感染を婦人科医はどうやって検出しているかというと、頸管部を含む生殖器の内側をブラシのようなものでこすって細胞をはぎとってそこにパピロマのDNAがいるかどうかを診る。
 しかし潜伏している細胞を採取するというのはほとんど不可能なので、実際にもし感染して増殖しているときにこの時に検体をとっていれば陽性になる。またしばらく、6カ月とかおいて検体をとったときに、やはり増殖しているタイミングにぶつかれば、また陽性なので持続感染という言葉で診断される。

 しかし二度目に、増えていない時に検体とってしまうと、陽性にならないので、これはパピロマは排除されたという誤解されたことになる。はじめからタイミングが合わないと感染していないという判定をすることになってしまう。
 従って今のパピロマウイルスの検出に関していえばパピロマ陽性というのは明らかに感染の証拠です。しかし陰性というのは必ずしも感染していない証拠にならないということも覚えておいてほしい。

 ここまでパピロマウイルスと子宮頸がんの関わりが分かったが、次にではどうするという問題だ。一つは感染をワクチンで防ぐ。
 もう一つは、前癌病変の細胞というのはパピロマウイルスのE6E7タンパク質が発現している。細胞レベルの実験で発現しているE6E7を例えば短いRNAなんかを使って落としてやると細胞の増殖は止まる。だからパピロマウイルスで前癌病変になるあるいはがんになった細胞というのはE6E7に依存しているので必ず発現している。それを標的とする治療方法がないか。

 もう一つは前から言われている検診。検診によって前癌病変を見つけて、ここで早期治療をするということ。
 結構誤解があるのでクリアにしたいが、検診とワクチンによる予防というのは本質的に違う。検診は普通の状態だといろんなパピロマウイルスが繰り返し感染する。我々のデータだと何等かの異常があって婦人科を受診した2000人くらい調べると、ほぼ全ての人にパピロマウイルスがいる。しかも3割くらいの人は、二種類三種類、複数のパピロマが検出される。

 それは先ほどのパピロマウイルスの検出のやり方からいくと、大変なことで、要するに常時身体の中で何種類ものパピロマウイルスが増えてるような状態だ。そういう人がたくさんいるということ。そういう状態というのはいつか頸管部にパピロマウイルスが感染してCIN1の病変を起こす。これは組み込み等が起こらなければ治る。
 これを繰り返しているうちにE6E7遺伝子の組み込みが起こるとほっとくとがん化するのでここで治療をする。これ治療後も検診で検出するわけだが、再発する。
 あるいは頸管部を円錐型に切除することがあるが、それをやると、妊娠の継続に支障が出る。つまり検診というのはこの部分は放っておいて、ここでたまたま組み込まれて悪くなったものを見つけて治す方法だ。
 ワクチンはあらかじめ抗体を作らせておいて感染を阻止しようという方法だから、対策としては予防法としてはこちらは完璧だ。

 現行のワクチンは7割くらい欧米では子宮頸がんを抑制する効果があると考えられている。アジアも同じだが、今のワクチンでは日本ではおそらく半分程度しか効果がない。
 今武田薬品と一緒に全ての発がん性パピロマ、実はもう少し幅広く効きそうだが、そういうワクチンの臨床試験の準備をしている。これは世界規模で特許を申請している、あるいはすでに取得できたところもある。

 もう一つが前癌病変の細胞にはE6E7発現してそこで乳酸菌の表面にE7を発現させてこれを熱で殺して飲ませるという。これは腸管の中で免疫応答が起きてE7を発現する細胞を攻撃するCTRができる。これを前癌病変の患者に対して前癌病変を攻撃できるかどうかという予備的な実験をやったら結構有望で今年の1月から有効性を確認する実験をしている。これうまくいくと手術をしないで検診等で前癌病変ということがわかればこのワクチンを飲むことで前癌病変をやっつけることができる。

<成果3.「肝がんとC型肝炎ウイルス」> 溝上雅史・国立国際医療研究センター肝炎・免疫研究センター センター長

 日本は肝がんが多いか。2000年のデータだが、アメリカと日本を比べるとC型肝炎の感染率は同じ。ところが肝がんの比率というのが全然違う。肝がんは、アメリカ4000人、日本は3万6000人。人口比を合わせる20倍という信じられないくらいの数字だ。

 C型肝炎は日常生活で、それから性感染もほとんどうつらない。母子感染もほとんどない。ところが針刺し事故とか刺青、静脈注射、輸血になるとほぼ100%うつる。B型肝炎は性交渉でうつるからよく間違えられるが、C型肝炎はほとんどそういうことはない。

 3割くらいは自然に治るが7割くらい慢性化する。これが10年くらい無自覚無症状の状態。トータルで20年くらいして肝硬変ができあがり、それから10年くらい20年くらいかかって肝臓がんになる。
 従って最終的にC型肝炎に感染しても3分の1くらいが何もしなければ肝がんになるということで、C型肝炎に感染したからといって全部が全部なるわけではない。
 もう一つ何を意味するかというと、感染してからがんになるまで時間がかかるということだ。

 世界中に6つの型がC型肝炎ウイルスがある。日本には黄色いタイプと赤いタイプの3種類ある。日本には1880年前後に入って、1920年ごろから急に増え始めまた。
 そして1990年ごろにたーっと止まりました。なぜかと言うと、1989年にC型肝炎ウイルスが見つかったわけだ。

 では、広がり始めたのは何かと言いうと日本住血吸虫。1940年代まで100万人くらいの日本住血吸虫がいたと言われている。1922年に宮川教授が東大医学部の教授だったんですがアンチモンという特効薬を開発したが、これを一週間ぶっつづけて注射すると虫は100%死ぬ。これが特効薬。
 ただし、注射器は1920年代、同じ注射器を並べてブスブス、その中に1人でもC型肝炎の人がいたら後ろ4,5人がやられる。
 1960年代は増える一方。これは何かと言うと、日本では主にヒロポンを中心とする興奮剤、アメリカではコカイン。

 当時の日本の一番の国民病というと結核。結核は肺を切除するということになるとどうしても輸血するという事態になる。その輸血というのはその当時は売血制度で、輸血した人の2人に1人は輸血後肝炎いわゆる黄疸が出たと言うし、売血から献血に変わっても3人に1人、B型肝炎ウイルスが見つかっても更に減るという日本の状況だった。
 この典型例がライシャワー大使で、15年前にこの方は刺されて輸血して虎ノ門病院で輸血して、そして15年前に肝がんで亡くなっている。

 C型肝炎の人で、ヒロポンもやってないのにじゃあ何なんだということをよく言われるが、日本におけるC型肝炎の拡散要因というのは社会的要因が運悪く色々重なっていって、そして最終的にこういうC型肝炎ウイルスの今の日本のような状況になったということが分子進化学に表明できる。

 アメリカでは1900年ごろに入ってきて1960年ごろから広がり始めいまだに増えている。ABOの血液型が発見されたのが1900年で、世界で一番初めに始まった輸血センターがNYのブラッドセンターで1903年。そこからどうも広がったようだ。

 そしてどうもアフリカから来たようだが、1960年代はベトナム戦争の真っただ中。ゴールデントライアングルの中で1ドルでいくらでも買えて、アメリカに麻薬が入っていった。
 もう一つは血液が売買血のシステムがいまだにあるので、そういうところで広がっていったと思われる。この典型例がエイズ。もちろんC型肝炎も入っていったわけだ。

 こういう形で広がっている状態だ。それで今やアメリカの製薬会社の一番のターゲットはC型肝炎。現在C型肝炎で新しい薬が日本でも治験が始まり、3カ月飲むと95%治る。副作用もほとんどない。朝1錠3か月飲めば95%。
 ただし、1錠10万円。アメリカでは。その結果C型肝炎の治療はほぼ確立されたというところまで来ており、明らかに2006年から2012年までのデータをとると減ってきている。
 しかもその中身はC型肝炎はガタ減り。ところが生活習慣病関係、糖尿病をもととする肝がん、それからアルコール性、ノンアルコール性、こういう肝がんがどんどん増えてきている。
 あと10年もあればこの95%治る薬を上手く使えば更に10分の1になると思われる

<質疑>

(質問者) ピロリ菌の除菌、若年でやると効果が高いとおっしゃっていたが、若年というのは何歳くらいでやると効果が高いのか。

(浅香) それがまだわかっていない。ただ常識的な線では20歳くらいまで大きな病気特にがんは発生しないと言われているんので、20歳くらいまでに行えばいいと。

ただ小学生とか幼稚園とかでは、例えば何かあった時の内視鏡が非常に難しいということで、中、高校生あたりを対象にしてやろうということで始まっている。実際に岡山県の真庭では中学生、北海道の稚内でも中学生を対象にしてやってみようということになっている。

 
【第2部 「がんを防ぐための『12カ条』から『新12カ条』へ」】
津金昌一郎・国立がん研究センターがん予防・検診研究センター センター長

 がん対策基本法という法律があり、国民の責務として喫煙その他の生活習慣ががんに対する正しい知識というのをきちっと持つと、がんの予防に注意を払うとともにがん検診を受けるように努めなければならないというのがある。

 正しい知識を国民の皆様に知ってもらうということが重要で、正しい知識は何なのかというのは、一つは人類の発がん因子かということと、実際それが我々の発がん因子かという二つのことがあるだろうと考えていまして、これがハザードかどうか、実際これが自分のリスクになるかどうかというこの二点から考えていく必要がある。

 なかなか発がん性がないと言い切るのは難しいが、発がん性があるとなったのが111ある。主なものを少しピックアップすると、例えば生活環境で言えば環境タバコ煙。

 ご主人のタバコの煙、最近は大気汚染。日本も含む世界中の大気によって特に粒子状は肺の発がん性があるということも間違いないと評価されている。
 それからダイオキシンとかホルムアルデヒドとかフラトキシンという化学物質。ダイオキシンは職業的に大量に曝露すると発がん性が分かっているが、一般的な環境における発がん性に関してはわかっていない。
 アフラトクシンもあるナッツや穀類に混入したカビ毒ということで肝臓がんの発がん性があることが明らかになった。主にヒ素とか無機ヒ素。これは井戸水にあるところには発がん性がある。職業的曝露する。それから染料工場でのカドミウムとかアスベストだ。

 これを全部避けようとすると、受動喫煙を避けるのはいいが、大気汚染の少ない町に住むとか、魚を食べるとダイオキシンが入っているのので魚は食べ過ぎないとか、アフラトキシンを避ける。ヒ素というのは日本人の海藻なんかが接種源だから、ヒ素を減らすためには海藻を食べるなって話しになるし、カドミウムも日本の米にたくさん入っているので米を食べ過ぎない。こういう話しになってしまう。

 ただそういう普通の量では発がん性は分からないので、余りそこを避けるということを一般に生活している人たちがそこまで気を付ける必要はないという問題がある。

 次に大事なことはそれが我々の発がん因子になるかということを評価するということが重要で、それは我々が日常的に曝露しえるレベルの範囲内においてそれにさらされることによってヒトのエビデンスをもって科学的証拠ということになる。

 重要な容量反応関係とどれだけ曝露してるかこの二つを合わせること。それによってリスクになりえるか。我々のリスクになりえるかという評価をする。これはリスク評価というが、非常に重要だ。発がんリスク評価、例えば発がん物質に域値と。これ以上ではがんのリスクが高まらないけどこれ以上では高まるというような状況であれば低用量であればリスクがない。こう容量ではリスクがある。それでリスク管理としては基本的には域値よりも超えないようなレベルであれば大丈夫という話しになる。

 ただ一般的に発がん性というのは域値というのはなかなか考えられなくて、こういう比較的容量反応関係が直線的な関係になる。こういうような物質をどう扱えばいいか。そうすると低用量であれば発がんリスクは小さい。過剰発がんは100万人曝露すると1人くらいががんになると評価せざるを得ない。それから高容量であれば大きい。過剰発がんが10人に1人程度であるというような評価をしてリスク管理としては合理的なレベルまで曝露を低く抑えるということになる。

 一番わかりやすい例として放射線の発がんリスクということを少し示すが、基本的に広島長崎の原爆被爆のような100ミリシーベルトを超えるような大量な放射線をいっぺんに曝露するとがんのリスクが高まるということがわかっていて、これは直線的な関係に100ミリシーベルト以上では直線的な関係になって1000ミリ被ばくすると1.5倍高くなるということがわかっている。

 ただ100ミリシーベルト未満のところではがんのリスクがあるかわからない。というのは1000ミリシーベルト1.5倍だから、100ミリシーベルト未満は1.0何倍という話しになるのでとても検出するのが難しいというようなところがある。
 別な言い方をすればリスクは余り大きくないということになる。放射線は発がん物質であると。そうすると0にしなきゃいけないということをやっていると、何もできなくなってしまうことになって、ある程度曝露が小さければリスクは余り大きくないと考えて放射線と向き合っていかなければならないというのが現実問題として日本の状況だ。

 ダイオキシンだってカドミウムだって我々の生活から排除することは絶対にできないので、量を少なく抑えることによってリスクを減らすということを考えなければならない。

 100ミリシーベルト以下の被ばくというのは普通に生活しているだけでも2ミリシーベルト年間被ばくしたりとか、胃の検診を受ければ2ミリとか3ミリ被ばくするし、CT検査を受ければ10ミリを超える被ばくがあると。これ以上にすることは絶対ダメだが、これよりも下のレベルにおいてはある程度上手に他のリスクとか考えながら向き合っていかないといけないということになるだろうと考えている。

 それで我々第三次対がんが始まった時にやはりちゃんとどういう生活習慣が我々日本人のがんのリスクを高めるのか、高めないのかということをある程度はっきりさせないといけないだろうということになって、いわゆる疫学研究とか基礎研究で行われたことを実際の予防に結びつけるための橋渡し研究ということをずっとやってきた。

 何をやってきたかというと日本人においてこれは発がんリスクが高くなるかを評価する。例えば受動喫煙と肺の腺がん、その前の国立がんセンターの初代部長が受動喫煙でがんのリスクが高くなるということを示したが、我々のコンフォート研究でも非喫煙者の女性を3万人追跡するとその人の肺腺がんのリスクは、主人がタバコを吸うか吸わないかによってリスクが違っていて、20本以上吸うと2倍高くなるということがわかった。

 全肺がんのリスクは1.3倍高くなる。世界中においても1.3倍ということになっているので、受動喫煙のレベルでも間違いなく人間の肺がんのリスクを高めるということは間違いないということがわかっている。

 酒との関係だが、基本的には飲めば飲むほどリスクは高くなるが、1日46グラム、日本酒だったら毎日2合くらい飲むようなレベルよりも下であれば過去の因子を除外することで、だいたい日本酒だったら1合、ビールだったら大びん1本、このレベルまでだったら大きながんのリスクを上げないだろうと判断している。

 肥満度との関係だが、太れば太るほどリスクが高くなるという関係が見られていて、アメリカでは、実はBMIが30以上越している人は3人に1人、女性では40%を占めるが、25を超えてる人が7割くらいいる。アメリカの場合。

 日本人みたいに痩せてる人、BMIが低い人たちがいる社会になると、太ってるところでは真っ直ぐにリスクが上がるが、痩せてると逆にリスクが上がるということがわかっていて、がんのリスクが上がらない範囲としては21から27。27というのは実は肥満なんだが、実際データとしてはこういうことになる。

 アメリカなら3割とか4割いたBMI30越す人が、日本人では2%か3%しかいない。だから、日本人は肥満も、すごく太ってる肥満はがんのリスクが高くなるが、実は痩せててもがんのリスクが高くなるということを見落としてはいけない。

 アメリカだったら気にしなくて、ただひたすら国民全体を痩せさせることががんのリスクを下げることに重要だが、日本はそうではなくて、すごく太っている人を痩せさせて、ある程度痩せている人もちゃんと食べてもらって体重を増やさなければならない。

 それから肉の話だが、日本も韓国も牛肉の消費量が増えている。だが、アメリカには全然追いつかないレベルだ。
 ヨーロッパの人45万人の追跡調査のデータをみると、肉をたくさん食べれば食べるほど死亡リスクが高くなるし、循環器が特にがんの死亡リスクは高くなる。

 だから、ヨーロッパでは肉を減らした方がいいということになるが、日本で、アジア130万人のデータだが、肉を食べてる方が死亡リスクが下がるし、がんのリスクも下がるし、循環器疾患も下がる。

 日本の場合は、昔は肉が少なすぎて、コレステロールが少なすぎて、血管がペラペラで破れていた。それが肉を食べることで脳卒中を克服してきたということがあって、だけど日本人、アジア人も、アメリカ人みたいに食べると、心筋梗塞なんかは増えるが、今のレベルにおいては食べていた方がどちらかというといい、という話しになる。ということでいいか悪いかじゃなくて量の問題が重要ですね。

 タバコは基本的には受動喫煙レベルでもリスクになる。飲酒は適量を超えるとリスク。体形は肥満だけじゃなくて、痩せててもダメ。それから身体はなるべく動かした方がいい。

 野菜果物は食べれば食べるほどいいという話しではなくて、不足するとリスクだと。食塩はなるべく少ない方がいい。肉は日本人の1,2割は食べ過ぎることによって、日本人の大半は食べないことによって、病気のリスクを上げてるということが考えられる。サプリメントは不足するのを補うのはいいが、摂りすぎてはいけない。

 リスクが何倍大きいかという話しと、タバコを吸う人は国民の50%いるという話しを掛け合わせることによって日本人ががんになった場合、原因として何が何%であるかということを推計した。

 一番多いのは男性ではタバコ。日本人のがんの原因として一番多いのがタバコで、2番目が感染、3番目が飲酒。女性は感染が1番で、2番目がタバコ。受動喫煙も無視できない数字であるということだ。

 対策の優先度として1番はタバコ対策で、2番目が感染対策が日本人の対策において重要で、次に飲酒がくる。

 がんを全て防ぐことはできないので、二次予防としてはちゃんと定期的な健診を受けなければならない。身体の異常に気付いたらすぐに受診。これも非常に大きくて、日本は皆保険制だから、早期に診断できるということも非常に大きい。すぐに病院に行くと。症状があったらすぐに病院に行くということも重要だ。

 

第3部 座談会「次期戦略への課題と期待~政府の取り組み」
座長:中釜 斉 国立がん研究センター研究所 所長
演者:佐藤敏信・厚生労働省健康局 局長
   堀田知光・国立がん研究センター 理事長
   門田守人・がん研究会有明病院 院長

中釜 それでは第3部「次期戦略への課題と期待~政府の取り組み~」というタイトルで、次の対がん戦略をどうするのかということを、まず最初に厚労省における意思決定の推進の中枢である健康局長の佐藤先生にお話しいただきたい。

佐藤 平成26年度からはがん研究の10か年戦略が始まる。死亡原因が第1位であるがんについて総合的かつ計画的に推進するということだ。
それからがんの根治、がんの予防と合わせて、がんとの共生ということで大きく三つのキーワードで実現していくということになる。がんによる死亡者の減少、それから全てのがん患者さんの苦痛の軽減、療養生活の質の維持・向上。患者さんの生活というものに着目した全体目標が立てられるようになっている。
今後のあるべき方向だが、これまでのがん研究の流れと基本的には一緒で、本体を解明すること。それと合わせて実用化という話しだ。そして疾患研究として推進していくこと。臨床現場からニーズを抽出していく。また、研究成果を国民の皆さんに伝えていくということになる。

 それからここは非常に難しいところだが、研究推進において企業との関係、利益相反と申しているが、そういったところは一言で言うと、身ぎれいにやっていくということだ。

 それで重視する観点は今申し上げたことの繰り返しになるが、根治を目指す、患者さんたちの苦痛の軽減、予防と早期発見をしてがんとの共生となる。

中釜 次の10か年戦略としてがんの根治予防、さらにはがんと共生する社会の構築という新しい考え方が提示された。

堀田 昨年、私共が戦略のもとになる有識者会議でとりまとめた報告書をもとにしてこの戦略を立てていただいたが、一番私共が視点として置いたのはこれまで第1次、第2次第3次、それぞれ10か年戦略をやってきて治療法の開発は進められてきた。
 死亡率は全体として下がってきたが、発生そのものはむしろ下がってなくて増えている。特にがんは高齢者疾患ということを考えますと高齢化社会の中でがんの発生と死亡数そのものはこれからも増え続ける。おそらく2025年から2030年に向けてがん死亡はまだ増えるだろうという予測の中でこういったがんにどう立ち向かったらいいのかということはがん対策基本計画に基づいて作ろうというのが基本的な骨格だった。

 純粋な学問的なものももちろん骨格だが、プラスアルファで、サバイバーシップであるとか、ライフステージにもっと着目して、普通の年代だけじゃなくて、高齢者あるいは小児に向けても目を広げていくということで、これまでどちらかというと5大がんを中心にやってきたが、希少がん、難治がんといったところにも視点を広げていくそういった意味合いを持っている。

門田 どちらかというと技術のイノベーションの話しは簡単だが、社会体制の構築いわゆるソーシャルイノベーションというものが難しいがために、なおざりというか後に回されるという危険性があるということを、是非今後も研究としてやっていただきたい。

 

編集部からのお知らせ

新着情報

あわせて読みたい