グイ・ルンメイ、真利子哲也監督「お互いが思い合うからこそすれ違う。でもそこには愛があるという家族の形を描きたかった」『Dear Stranger/ディア・ストレンジャー』【インタビュー】
-ルンメイさん、夫・賢治役の西島秀俊さんの印象はいかがでしたか。
ルンメイ 今回西島さんと一緒にお仕事ができたことはとても光栄でした。西島さんは経験豊かな方なので、私は現場でとても安心して演技をすることができました。西島さんがいろんなエネルギーを与えてくださったので、私は自分を全開にするような形で、それを受け止めようと考えました。どのテイクでも、私の演技はコロコロと変わっていましたが、西島さんは毎回安定した形で、それを受け止めてくださいましたね。
-今回、一緒に仕事をした日本のスタッフはどんな印象でしたか。
ルンメイ 日本のチームは、本当に皆さん真面目でしっかりとしていて、全く時間を無駄にしません。とにかく一生懸命に仕事に専念するところは、全員が同じ船に乗っているような気がして、それがとても好きでした。監督、スタッフ、役者、皆がお互いに尊重し合って、相手の言葉をよく聞いて、現場はとても開かれた感じがして、自由で多元的で多様性のある現場で、とても幸せでした。
真利子 人形劇は、大きなパペットの制作から始まり、稽古ではルンメイさんが初めての挑戦というだけでなく、ろうあの俳優もいるので手話もありで、みんな一丸となって取り組み、指導されたブレア・トーマスさんとルンメイさんを中心に、本当に素晴らしいチームになっていきました。自分や他のスタッフたちにもその真剣さが伝わってきて、自分たちもやらなきゃいけないという気持ちになれました。それこそインクルーシブ(包括的)に、手話や英語の通訳があっても、みんな本当に抵抗なくやれているというか。ああすごい空間だなと。それが画面にも出ていると思います。
-これから映画を見る方々や読者に向けて、見どころも含めてメッセージをお願いします。
真利子 今を懸命に生きる、ジェーンと賢治の関係性がこの映画の見どころだと思います。ラストシークエンスで、ルンメイさんが演じたジェーンの素晴らしい人形劇の後、ダイナーの外でむき出しの感情を吐き出して、そこから西島さんの賢治の魂の叫びがあって…。目まぐるしく感情が渦巻くようなラストシーンに至れたことに自分でも震えました。崩壊していく夫婦の話とありますが、廃墟を美しいと見つめる賢治と壊れたパペットを修復するジェーンの家族だからこそ、そこから未来を見据えることができるラストだと思っています。
ルンメイ この映画はジェーンと賢治の2人の愛の物語を描いていますが、果たして何が理由で2人の関係がだんだんと崩壊していくのか、あるいは愛があるからこそ2人が、また未来に向かって進んでいけるのかを探求する映画だと思います。2人が、お互いに考えたり、反省したり、あるいはぶつかり合ったりしながら自分自身を再発見しようとする姿を見て、恐らく皆さんも、自分がこれまで生きてきた過去を思い出したり、他人との関係や問題について考えさせられる場面がたくさんあると思います。監督はとても巧みに、この物語をサスペンス風に語りながら、いろんなところを工夫しています。例えば、ジェーンがなかなか口にできないことをパペットを通して観客の皆さんに語ったり、あるいは2人の関係を通して、崩壊と再建をどうしていくのかを考えさせられます。見どころがたくさんありますのでどうぞお見逃しなく。
(取材・文・写真/田中雄二)

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