浦井健治&小池徹平、ベストセラー小説のミュージカル化に寄せる思い 「色彩豊か」な楽曲に彩られた新作ミュージカル「ある男」【インタビュー】
-納得というのは、「Xがなぜそうした選択をしたのか?」という部分ですか。
小池 そうですね。(城戸たちが)どういう人間なのか追い求めてきた答えが流れないようにしたいです。ただ歌っただけで終わりたくない。
浦井 二幕の中盤までみんなで「Xはこうだった、ああだった」と探していて、それで物語が成立していきます。その後にみんなでたどり着いた過去が描かれていき、Xにつながります。そうした構成の台本になっているので、最後に「なるほどそうだったのか。だから、Xはこうしたのか」という納得感、説得力をきっと徹平は求めているんだよね。
小池 そうなんです。自分の今の表現ではちょっと足りていない気がしていて。
浦井 しかも、われわれは、映画で描かれていたようなXの幼少時代やその後の生活を見ることはできないんですよ。Xは過去に生きているけれども、城戸たちは現在に生きていて、決して交わらないから。過去の壮絶な出来事があったということを知るだけで、そこから学んでいくというシーンになっている。
小池 なので、すごく難しいシーンだなと思っています。
-城戸とXは決して交わらない時間軸で生きていますが、お二人でのシーンというのは?
浦井 一幕のラストで歌われる「暗闇の中へ」という楽曲がありますが、そのくらいかな?
小池 絡みはそのくらいですね。ただ、幻想的な描き方をしているので、時間軸は交わらなくても一緒にステージには立っているという場面はあります。同じ場所には点在していたり、一緒に歌う楽曲はありますので、そのあたりは期待していただければと思います。
-お二人が一緒に芝居をするにあたって楽しみにしていることを教えてください。
小池 改めて「この人は化け物だな」と驚いています。別の作品の公演の合間に、圧倒的な出番とせりふの量、歌の量がある作品の通し稽古までしてしまう。それも新作です。「大変だった」とも言わず、当たり前のようにやってのけてしまうんです。きっと地方公演を終えてホテルの部屋に帰ってきて勉強をしないといけなかったと思います。稽古に100パーセントをかけていた僕たちでさえも、楽曲を覚えるのに必死で、それでも間違えたりしているのに。本当にすごいなとカンパニーみんなが思っていると思います。“浦井健治という怪物”です。
浦井 皆さんに追いつけるようにやらなくてはいけないという思いでいっぱいなだけです(笑)。でも、そういうときに、僕の異変を察して声をかけてくれるのが徹平なんです。稽古場で「チョコ食べる?」とか「おいしいものを食べてきなよ」って。徹平は常に周りの人のことを見ていて、気遣っているのを改めて感じます。この現場はさまざまな作品を経験してきた人たちしかいない稽古場なので、「この人に今、必要な言葉はこれだ」と阿吽(あうん)の呼吸でみんな分かってくれるんです。徹平もそうした人間味にあふれた人です。彼を見ていると、改めて自分を見直さなくてはいけないと思います。
-では、お二人がもし、Xのように別人として生きることになったら、どんな人生を送りたいですか。
浦井 僕はこの業界ではない職種についてみたいですね。今年、25周年なんですよ。もし、この25年間、違う職種についていたら、どんな状況なんだろうと考えます。
-どんな職種に興味がありますか。
浦井 例えば、先生とか未来に幸せをギフトしていくことができる職業はいいなと思います。学びの場というのは改めてすごいところだと思いますし、それが引いては国力にもなっていく。とても大切な仕事ですよね。
-小池さんはいかがですか。
小池 普段、子どもたちと出かけると、動物や生き物と触れ合う機会が多いのですが、そうしたときにガイドをしてくださる方がすごく楽しそうにされているのを見ていいなと思いました。生き物を追い求めるガイドさんってすてきですよね。みんな本当に好きなことが伝わってきます。芸能以外のことだったら、動物や自然に関わる仕事が楽しそうだなと思います。
(取材・文・写真/嶋田真己)
ミュージカル「ある男」は、8月4日~17日に都内・東京建物Brillia HALLほか、広島、愛知、福岡、大阪で上演。