南沙良「人間関係に悩む人たちに寄り添えたら」井樫彩監督「南さんは陽彩役にぴったり」期待の新鋭2人が挑んだ鮮烈な青春映画『愛されなくても別に』【インタビュー】

(C)武田綾乃/講談社 (C)2025 映画「愛されなくても別に」製作委員会
-陽彩はいわゆる“毒親”の母と2人で暮らすうち、自分の人生に期待を持てなくなってしまった人物です。そういう役と向き合うお気持ちはいかがでしたか。
南 陽彩にとって、親や家族は、居場所であると同時に、自分を縛る呪いのようなものでもあったと思うんです。そういうことって、毒親に限らず、いろんなところにあるんじゃないかなと。自分が身を置いている環境や大切な人、自分自身も含め、居場所になっているものが、時として自分を縛るものになってしまう。
-その点で、陽彩の境遇が理解できたということでしょうか。
南 陽彩は、自分が不幸であることに意味を見いだしている女の子で、そういう不安がむしろ自分の安心材料になっているんですよね。私の両親が毒親というわけではありませんが、似たようなところは自分にもあるので、陽彩の気持ちがよくわかりました。
井樫 “毒親”というと特別な印象を受けますが、誰もが他者と関わる中で、うまくいったりいかなかったり、傷ついたり傷つけられたりということを繰り返しながら日々を過ごしていると思うんです。その点、種類は違っても人間関係における痛みであることに変わりはない。だから、劇中にも「不幸は他人と比較できることじゃない」というせりふがあるように、特別なものとして描きたくなかったんです。もちろん、当事者の体験を記した本などを読み、事前にしっかり勉強した上でのことですが。
-劇中では、親しくなった陽彩と雅が自転車の2人乗りをするシーンが、2人の関係を象徴していて印象的でした。原作にはない映画独自のシーンですが、その狙いを教えてください。
井樫 映画にする以上、2人の関係を動きで表現したかったんです。その点、自転車であれば、2人の距離が近いにも関わらず、お互いの顔が見えない面白さがある。しかも、どちらが前に乗るかで2人の関係も表現できるなど、効果的に使えるんじゃないかなと。そんなふうにいろんな観点から考えて、自転車を使うことにしました。
南 私は自転車が苦手な上に、2人乗りなんてしたことないので、最初はヨロヨロしてしまって(笑)。撮影前に練習したおかげで、なんとか無事に運転できるようになりました。
-一見、女性同士の友情物語のようですが、この作品にはそれだけにとどまらない奥深いメッセージ性があります。その点、この映画をどんな人たちに見てもらいたいとお考えでしょうか。
井樫 陽彩が自分で人生を選択できるようになるまでの姿を描いた物語なので、さまざまな人間関係に悩む方の心に少しでも残り、前に進む力になってくれたら…と願っています。
南 生きることが難しい今の時代、人間関係に悩む方はたくさんいらっしゃると思うんです。この映画が、そんな人たちに寄り添えたらうれしいです。
(取材・文・写真/井上健一)

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