スパイ映画の今~『ミッション:インポッシブル』最新作へのカウントダウン
2大シリーズの行方

『ミッション:インポッシブル/ファイナル・レコニング』 (C)2024 PARAMOUNT PICTURES.
そんな2本の異色スパイ映画を経て、いよいよ5月23日から真打ちとなる『ミッション:インポッシブル/ファイナル・レコニング』が公開されるわけだが、そこへ行く前に、スパイ映画について簡単におさらいしておきたい。スパイ映画は、1930年代のイギリス映画でヒッチコックやキャロル・リードによって花開いた。007シリーズは、その流れの中から60年代に生み出されるのだ。全盛期は、その60年代。一時下火になるものの90年代半ばに、ピアース・ブロスナンの5代目ジェームズ・ボンドや『ミッション:インポッシブル』の登場によって復活を遂げた。
スパイ映画は、戦中から戦後はナチス・ドイツ、冷戦期にはソ連が敵となるなど世界情勢が色濃く反映され、多様性をはじめ価値観の変化にも敏感な映画ジャンルだ。その意味で、『アマチュア』のマッチョとは真逆の主人公チャーリー・ヘラーは今の時代を映すキャラクターで、シリーズ化の可能性は十分にある。そもそもスパイ映画はシリーズ化されやすいジャンルなのだ。エージェントという肉体的にも頭脳面でも秀でた主人公とその仲間の活躍(「ルパン三世」は泥棒一味だが、イメージはあの感じ)を描くだけに、1作目がヒットすれば観客も製作サイドも続きが見たくなる。スパイ映画は主に冒険アクション系とシリアス系に大別できるが、特に前者でその傾向が強く、『ミッション:インポッシブル』と007のほかにも、『ボーン・アイデンティティー』『キングスマン』『オースティン・パワーズ』などがシリーズ化されている。
それでは、いよいよ『ミッション:インポッシブル』の最新作『ファイナル・レコニング』だが、そもそもは『デッド・レコニング PART TWO』という副題で昨年の夏に公開されるはずだったことからも分かるように、シリーズ8作目にして初となる前作の完全な続編。前作では、謎のAI・エンティティを巡って文字通りそのカギを握る“二重の鍵”の争奪戦が繰り広げられた。結局、イーサン・ハント(トム・クルーズ)は鍵を2つとも手に入れたものの、潜水艦もろとも海に沈んだエンティティの場所を知るのは因縁の敵ガブリエルだけ、というところで終わった。ロシアの潜水艦から始まってクライマックスがオリエント急行というのは、まるで007史上の最高傑作とされる『ロシアより愛をこめて』へのオマージュに思えてならない。
シリーズは今作をもって完結するといううわさもあるが、トム自身はまだまだ続編に意欲を示しているらしい。対する007も、ダニエル・クレイグの6代目ボンドが5作で完結した後、新たなボンド役がなかなか発表されず、じらされている状況が続いている。いずれにせよ、今後もこの2大シリーズがスパイ映画を引っ張っていくことは間違いない。
(外山真也)