安田顕 さらば平賀源内!「心の中の源内さんと会話しながら演じてきました」【大河ドラマ「べらぼう~蔦重栄華乃夢噺~」インタビュー】
NHKで好評放送中の大河ドラマ「べらぼう~蔦重栄華乃夢噺~」。“江戸のメディア王”と呼ばれた“蔦重”こと蔦屋重三郎(横浜流星)の波乱万丈の生涯を描く物語は、快調に進行中。4月20日放送の第16回「さらば源内、見立は蓬莱(ほうらい)」では、蔦重や田沼意次(渡辺謙)に大きな影響を及ぼしてきた希代の天才・平賀源内が、何者かの陰謀によって殺人のぬれぎぬを着せられた末、獄中で非業の死を遂げた。ここまで源内を演じてきた安田顕が、撮影を振り返ってくれた。
ー第16回では、さまざまな出来事が源内の身に降りかかった末、非業の死を遂げました。その中で、特に印象に残ったシーンを教えてください。
牢屋の中に白湯が差し出されたシーンは印象的でした。窓の外にはらはらと降る雪を見ながら、寒さの中で孤独に「あめつちの手をちぢめたる氷かな」と、辞世の句を詠む。その直前、牢屋に面会に来た田沼様の前で号泣しながら思いを打ち明けて和解したことで、心は落ち着いていたと思います。そんなとき、ぽっと湯気の立つ白湯が差し出される。それを見て、人生の最後に源内さんはきっと救われたのではないでしょうか。
ー源内の最期を演じる上で、どんなことを心掛けましたか。
今回は、長期間演じる役作りの一環として、自分の心の中の源内さんと「源内さん、今どうしたい? あ、そうだよね」と会話しながら演じてきました。その上で、あらかじめわかっている源内さんの最期は、視聴者の皆さんに楽しんでいただき、「べらぼう」のその後につなぐにはどうすればいいのか。考えた末に出した結論が、落差を大きくした方が、人間らしさも出ていいのでは、ということでした。
ー具体的にはどのようなことでしょうか。
ひょうひょうとして個性的だけど、憎めない、面白い人。そして、なぜか目を離すことができず、誰もがうわさ話をしてしまう。源内さんは本来、そういう人なんですよね。そんな自由な生き方を貫いていたはずの源内さんが、ちょっとしたことで疑心暗鬼に陥り、幻聴が聞こえるようになり、立身出世を果たせなかった悔いを残して、最後はおびえながら死んでいく。その落差です。
ー確かにそれまでの源内を思うと、悲しい最期でした。
でも僕は、そんな生き方をした源内さんを褒めてあげたい。自分を全面的に肯定できるのは、自分だけですから。だから、「あなたの功績は数々の発明だけでなく、他の人にはない自由な発想を持ち、自由な生き方をした人柄が今も語り継がれ、愛されていますよ」とずっと心の中の源内さんと話をしていました。そして最後は、「僕はあなたを肯定し続けます」という気持ちで演じさせていただきました。
ー見事な名演でした。
うれしかったのは、数々の大河ドラマや朝ドラに参加されてきたメイクの方が、「亡くなるときの源内さんは、こういう状態だったのでは」と、いろいろと考えてくださったことです。かつらを担当されている床山の方も、「牢屋に入ったときは、髪を少し乱れさせよう。ひげもつけたい」とおっしゃって。皆さんお忙しい中、そんなふうに色々な提案をしてくださり、とてもありがたかったです。

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