〝歌う絆創膏〟上野大樹 意外な十八番と直近目標 【山崎あみ コラム音楽の森】
ラジオ局のスタジオ、目の前でシンガー・ソングライター上野大樹(うえの・だいき)さんが弾き語り、私はぷるぷるして腕に鳥肌が・・・。歌声は息を多く含んでやわらかく、かすかに震える繊細さの奥に、力強さも感じさせる。私の中に湧いた温かいもの、これはいつかも感じたことがあるぞと思いを巡らせると、咳(せき)こんでしまった時、おばあちゃんが背中をトントンしてくれた、あの時と同じでした。

シンガー・ソングライター上野大樹
1996年生まれ、山口県出身の上野さんは、2020年リリースのアルバム「瀬と瀬」に収録した楽曲「て」が、ストリーミング再生2500万回を超え、自宅で制作した「ラブソング」もYouTubeで500万回以上再生されるなど、口コミで広まり、23年にメジャーデビュー。昨年春には、杉咲花(すぎさき・はな)さん主演のテレビドラマ「アンメット ある脳外科医の日記」のオープニング曲に「縫い目」が起用されました。
元々はサッカー少年で、U-14の西日本選抜に選ばれるほどでしたが、怪我(けが)や病気でサッカー選手への夢を断念。家に引きこもっていた時、お兄さんのギターを手にしてみたことから音楽を始めたそうです。挫折や孤独がテーマの曲にリアリティーがあるのは、自身が通ってきた道ゆえなのでしょう。
楽曲「て」の始まりは、「ねえ悲しい時に笑わないで」「その誰にも見せない孤独な瞬間 君が君でいられる場所に行こう」。最後まで聴いてみてください。歌がきっと、傷をふさいでくれる。上野さんは歌う絆創膏(ばんそうこう)です。
プライベートについて伺うと、好きな映画は 「リトル・フォレスト」「南極料理人」「マイ・インターン」「きいろいゾウ」「夜明けのすべて」。カレーはスパイスを合わせるところから作る本格派。カラオケの十八番(おはこ)は意外にも、40年前にさかのぼる、小林明子さんの「恋におちて Fall in love」だそうです。
今後は「いつか誰もが直面する、生や死、愛など、それぞれ個人で解釈の変わるものへの自分なりの答えを示せる作品を描きたいです。ただそれはきっともっと先の話だと思う、50歳とか60歳の(笑)。直近で言うと、みんなを揺らす、踊らせる曲に挑戦したいです!」と上野さん。ライブの時は「日常では出すことが難しい感情を出してもらえるように、また僕自身がステージの上でも等身大でいることで、みんなもそれでいていいんだよと思ってもらえるように努めています」。ぜひ絆創膏を貼ってもらいに行ってください。
【KyodoWeekly(株式会社共同通信社発行)No. 20からの転載】
山崎あみ(やまざき・あみ)/ 1997年生まれ、東京都出身。音楽大卒。モデル。
interfm(東京)「MUSIClock+」(金曜午前7時)およびJFN制作FM番組「みゅ~じっくろっく」DJ。YouTube番組「山崎あみ『うるおう』リコメンド」(略称うるりこ。共同通信社制作)出演。