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甲状腺未分化がんの発生に、がん細胞の“初期化”が関わることを発見 iPS細胞の技術を応用したマウスモデルで解明

ーがん細胞に本来の性質を取り戻す“再分化”治療への手がかりもー

2026年10月27日
三重大学
岐阜大学

甲状腺未分化がんの発生に、がん細胞の“初期化”が関わることを発見
 iPS細胞の技術を応用したマウスモデルで解明―がん細胞に本来の性質を取り戻す“再分化”治療への手がかりも―

 

 

・甲状腺未分化がん※1は、診断後の平均生存期間が3〜6か月とされる最も悪性度の高いがんの一つで、比較的おとなしい甲状腺乳頭がん※2から生じることが多いものの、その仕組みは不明でした。

・ヒトの甲状腺未分化がん42例を調べたところ、甲状腺の細胞らしさを決めるタンパク質NKX2-1※3が失われ、多くの例でiPS細胞※4などの多能性幹細胞に特徴的なタンパク質が検出されました。

・マウスモデルでiPS細胞の作製に使われる4つの遺伝子(山中4因子)を甲状腺で発現させたところ、BRAF遺伝子変異※5をもつ甲状腺の細胞が、従来のモデルで用いられてきたTP53遺伝子変異※5がなくても、未分化がんに似た状態へと変化しました。

・未分化がん細胞でNKX2-1を再び働かせると、増殖が抑えられ、乳頭がんに近い性質へ部分的に戻る(再分化)ことを細胞・マウスの実験で確認しました。

 

 

概要

 三重大学大学院医学系研究科 耳鼻咽喉・頭頸部外科学の柴田博史教授と、岐阜大学大学院医学系研究科 耳鼻咽喉科学 大学院生の川浦僚さん(当時)、宇野女亜香里さん、および岐阜大学高等研究院の富田弘之教授の研究グループは、極めて悪性度の高い甲状腺未分化がんが生じる過程で、がん細胞が発生初期の未熟な細胞のような状態へと“初期化(胚性リプログラミング)”されることが重要な役割を果たしていることを明らかにしました。iPS細胞の技術を応用した新しいマウスモデルで、初期化によって甲状腺乳頭がんが未分化がんに似た状態に変化することを示すとともに、遺伝子NKX2-1を再び働かせることで未分化がん細胞が甲状腺乳頭がんに近い性質を部分的に取り戻すことを確認しました。本研究成果は、2026年10月26日に国際学術誌「Cell Reports」に掲載されました。

 

背景

 甲状腺乳頭がんは進行がゆっくりで5年生存率が90%を超える一方、甲状腺未分化がんは急速に進行し、5年生存率は10%未満です。未分化がんは長年存在した乳頭がんから変化(未分化転化)して生じることが多く、BRAFやTP53などの遺伝子変異の関与が指摘されてきましたが、甲状腺がんは遺伝子変異が比較的少ないことから、遺伝子(ゲノム)以外の仕組みも関わると考えられていました。そこで研究グループは、遺伝子の配列を変えずに細胞の性質を司る「エピゲノム」に着目しました。iPS技術は遺伝子の配列を変えずに細胞のエピゲノムを変換することで細胞の性質を初期化(胚性リプログラミング)する技術です。この技術を用いて、未分化転化のメカニズム解明を試みました。

 

 

研究内容

 ヒトの甲状腺未分化がん42例を調べたところ、甲状腺の細胞らしさを保つNKX2-1は全例で失われ、多能性幹細胞に特徴的なタンパク質LIN28BとSALL4がそれぞれ76.2%、66.7%の症例で検出されました。公開データの遺伝子発現解析でも、未分化がんは乳頭がんの性質を残しつつ、ES細胞やiPS細胞に似た特徴を示しました。

 次に、BRAF変異により乳頭がんを生じるマウスに、甲状腺特異的に胚性リプログラミングができるように遺伝子を改変しました。BRAF変異+胚性リプログラミングを誘導したマウスでは9匹中7匹で未分化がんに似た腫瘍が生じ(非投与の8匹では0匹)、甲状腺細胞の性質の低下や増殖能の上昇がみられました。この変化はTP53変異がなくても起こり、投与中止後も持続しました。

 さらに、ヒトおよびマウスの未分化がん細胞でNKX2-1を再び発現させると、増殖が抑えられ、多能性細胞類似の形質も解除されました。マウスに移植した腫瘍では乳頭がんに特徴的な細胞核の形態が再び現れるなど、乳頭がんに近い性質へと部分的に戻りました(再分化)。なお、胚性リプログラミングによる未分化転化誘導は実験的な手法であり、ヒトの未分化がんで同じ現象が起きていることを直接示したものではありません。

 

 

今後の展望

 本研究は、甲状腺未分化がんを「細胞が本来の性質を失い、未熟な状態に戻ったがん」として捉える新しい視点を示しました。NKX2-1による再分化の結果は、がん細胞に本来の性質を取り戻させて悪性度を抑える「再分化療法」などの開発につながる可能性があります。ただし、今回の成果は細胞や動物を用いた基礎研究の段階であり、治療への応用にはさらなる研究が必要です。

 

 

用語解説

※1 甲状腺未分化がん:がん細胞が本来の甲状腺細胞の性質を失った甲状腺がん。進行が非常に速く、極めて予後不良。

※2 甲状腺乳頭がん:甲状腺がんの代表的なタイプ。甲状腺細胞の性質をよく保ち、進行は比較的ゆっくり。

※3 NKX2-1:甲状腺の細胞が甲状腺の細胞として働くために必要な「マスター転写因子」。

※4 iPS細胞:体の細胞に4つの遺伝子(Oct3/4、Sox2、Klf4、c-Myc:山中4因子)を働かせ、さまざまな細胞になれる状態に「初期化」した細胞。

※5 BRAF遺伝子・TP53遺伝子:BRAFは細胞の増殖に関わる遺伝子で、乳頭がんで変異が多くみられる。TP53は代表的ながん抑制遺伝子で、未分化がんで変異が多くみられる。

 

 

論文情報

掲載誌: Cell Reports

掲載日: 2026年10月26日(オンライン掲載)

DOI: 10.1016/j.celrep.2026.118195

論文タイトル: Embryonic reprogramming drives anaplastic transformation in thyroid carcinoma

著者:  Ryo Kawaura†, Akari Unome†, Hiroyuki Tomita*, Hiromasa Ishihara, Masashi Kuroki, Shingo Komura, Koki Kato, Shigeo Takashima, Naoki Nishio, Mayu Shigeyama, Tomoya Hirata, Ryo Ishii, Shioko Kimura, Shin Tsunekawa, Haruhiko Akiyama, Akira Hara, Yasuhiro Yamada, Takenori Ogawa, Hirofumi Shibata*(†共同筆頭著者、*責任著者)

 

 

謝辞

本研究は、JSPS科研費(JP24K22140、JP22K09703、JP24K19767)およびJST 創発的研究支援事業(JPMJFR220W)の助成を受けたものです。

 

 

 

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