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悩んでこそ政治家 【政眼鏡(せいがんきょう)-本田雅俊の政治コラム】

 17世紀のフランスの哲学者、ブレーズ・パスカルの名言「人間は、考える葦である」は余りにも有名だが、政治家、とりわけ国会議員はさしずめ「悩む葦」でなければならないのではないか。すでに政界を引退した閣僚経験者は昭和末期の税制改革国会などの例を引き合いに、「昔は地元の利益と国全体の利益、現在の責任と未来の責任の狭間で悩んだりしたが、最近の若い政治家にそうした葛藤はあるのか」と疑問を呈する。その頃、政治家はしばしば「二枚舌」などと言われたが、それは悩んだ末の結果でもあったという。

 高市早苗首相が打ち出した「飲食料品の消費減税」が8月5日に閣議決定され、必要な法案が秋の臨時国会に提出される。衆院選から半年近くも過ぎ、「やっと」の感は拭えないものの、実施されるとしても、まだ半年以上も先のことだ。社会保障国民会議での合意を求めたことやPOSレジの問題などが遅延の理由とされるが、物価高対策の点からは「スピード感がまるでない」(自民参院中堅)と酷評されても仕方がない。

 マスコミなどから批判さているのは、減税分の財源問題を含めた不十分な議論だ。自民党の税制調査会でも、最高意思決定機関の総務会でも、高市首相の“鶴の一声”で一瀉千里(いっしゃせんり)に方針が了承された。高市首相は2月の衆院選で自民党を大勝に導いた最大の功労者であり、一定の範囲内で党首の意向が尊重されなければならないのは当然だとしても、「今の自民党には唯々諾々と不承不承が蔓延している」(前出・閣僚経験者)といった厳しい見方もある。

 もっとも、実際は慎重論や反対論が少なからず出た。例えば小渕優子元経産相は「財源なき減税は無責任」「自分の知る税調ではない」などとして、“インナー”と呼ばれる非公式幹部会のメンバーを辞任した。総務会も全会一致で了承されたが、25人中、宮沢洋一元税調会長や中谷元前防衛相など、実に3分の1近くが欠席するハプニングが生じた。有村治子総務会長は「海外出張や地元活動のため」などと呑気なことを言っているが、悩んだ末の9人の“意思表示”を軽視すべきではない。

 百歩譲れば、小選挙区で戦った議員ならば、悩んだり、迷ったりしながら、自らの責任で対応を決めてもよい。秋の人事で冷や飯を食むことになっても、次期衆院選で「公約違反」のレッテルを貼られても、それは自己責任である。逆に将来の財政よりも今の物価高を懸念し、党の公約を守りたいとするのであれば、消費減税に賛同すればよい。しかし、まさに“幸運”でバッジを付けた比例単独議員は、果たして迷ったり、葛藤に苦しんだりしているのだろうか。

 税調の会合の際、首相官邸の減税方針に異議を唱える勢力を封じ込めるため、いわゆる「高市チルドレン」に動員がかけられたとのうわさが実しやかに流れている。アヒルやニワトリなどが生まれてすぐに見た動くものを“親”だと認識し、後についていくことを“刷り込み”というが、高市チルドレンはこれと似て非なる。高市首相への感謝やおかげさまの心、忠誠心は確かに美しいものだが、単に「右向け右」「右へならえ」の号令に従っているだけならば、それは「国民代表」などではなく、ただの“頭数”にすぎない。

 だが、チルドレンも、早晩、いや応なく葛藤に直面するかもしれない。秋の臨時国会のもう一つの大きな焦点は、衆院の定数削減だ。維新の会との関係を重視する高市首相は「本気モード」(官邸関係者)だというが、皮肉にも比例区の定数削減で多くのチルドレンの再選は断然難しくなる。もっとも、悩んだ末に「やむを得ない」との判断に行き着くのであればともかくも、いささかの葛藤に陥ることもなく、官邸の号令に従うのであれば、そもそもそのような議員は淘汰されて当然だろう。

 わが国の党議拘束の強さはあまりにも有名だが、それでも各議員は国会における自分の投票行動に責任を持つべきだ。何にどうして賛成したのか、なぜ反対したのかの説明責任も果たすべきだ。だが、議員たちが発信するSNSを見ていると、「〇〇を食べました」「〇〇へ行ってきました」など、まるで中高生の日記のたぐいの記事ばかりが目立ち、政策について真剣に悩んだり、理解を求めたりしているとは到底思えない。「これでいいのか」と思わずため息をついてしまうのは、自分自身が歳を取った証だろうか。

【筆者略歴】

 本田雅俊(ほんだ・まさとし) 政治行政アナリスト・金城大学客員教授。1967年富山県生まれ。内閣官房副長官秘書などを経て、慶大院修了(法学博士)。武蔵野女子大助教授、米ジョージタウン大客員准教授、政策研究大学院大准教授などを経て現職。主な著書に「総理の辞め方」「元総理の晩節」「現代日本の政治と行政」など。

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