女性の働き方と健康の両立、睡眠改善でサポート パラマウントベッド 大槻朋子さん

女性が社会で生き生きと活躍するために欠かせない要件の一つが、キャリアとヘルスケアの両立。しかし体調不良が起きやすい更年期世代では、健康課題が職場を離れたり昇進を辞退したりする原因となり、企業にとっては人的資本の損失につながっているという。睡眠に関するデータを基に、女性の生涯にわたる支援に取り組むパラマウントベッド(東京都江東区)は、更年期世代に着目した新たな活動「Silent SHIFT(サイレントシフト)」をスタートさせた。国連が制定する国際女性デー(3月8日)を前に、取り組みの狙いや背景について、同社経営企画本部バリュークリエイトグループ事業開発チームマネージャーの大槻朋子さんに聞いた。
▼見えない課題を可視化し変革促す
-サイレントシフトとは、どういう意味ですか?
2025年5~6月に更年期世代の女性2000人を対象にアンケートをした結果、約半数が不眠症状を抱え、ほてりやめまいなどの体調不良が働き方のパフォーマンスに影響していることが分かりました。女性が健康課題により職場を離れる「静かな諦め」や「人的資本の沈黙」といった見えにくい「Silent」な課題に対し、企業が気付いて健康支援や職場環境の整備へとShift(変革)するよう促そう、という意味を込めています。
-静かな諦め? 人的資本の沈黙?
更年期の悩みは口に出しにくく「言っても仕方がない」「自分はこうやっていくしかない」とボソボソ言って終わってしまう。そんな諦めに近い思いを持ちながらキャリアから離れていくことを「静かな諦め」と表現しています。また、企業が支援の取り組みを変えていれば、もっとモチベーション高く働け、活躍できたかもしれないのに、それができていないのが「人的資本の沈黙」です。
▼睡眠わずか4、5時間
-活動のきっかけは何だったのでしょう。
当社では睡眠データを基に女性を支援するプロジェクト「Sleep×Femtech(フェムテック=女性特有の健康課題を最新技術で解決に導く製品やサービス)」を2023年から進めていますが、始まりは2019年でした。健康・美容関連の展覧会に出展することになり『私たちの専門である睡眠と女性の健康・体でアウトプットを作ろう』と、社員5人の生理周期と睡眠データを分析してみました。
-新しい知見が得られましたか?
生理のときに睡眠状態が悪化していることが分かりました。過去に研究されていたのと同様の傾向でしたが、結構、反響があったのです。睡眠と女性をかけ合わせたテーマに取り組んでいるところが他になく、自分の体として経験的に分かっていても体系的には知らなかった、と共感してもらったのかもしれません。

展覧会で反響を得てSleep×Femtechのきっかけとなったパネル
-そこから進んでいったのですね。
スタートは私とパラマウントベッド睡眠研究所のメンバー、デザイナーの3人でした。当時、私たちは睡眠のことはよく知っていても、女性の健康のことは分かっていない。まず専門家や一般の方の声を聞くことから始めました。そして、マットレスや布団の下に敷く睡眠計測センサーを1カ月から2カ月使ってもらい、就寝と起床の時刻、夜中に起きた回数や時間などのデータを収集しました。
-そこで得られたものは?
睡眠時間が本当に短いという事実です。2021年の経済協力開発機構(OECD)の睡眠時間調査では、日本人は加盟33カ国中で最短の7時間22分でしたが、私たちの研究では日本人女性は4時間、5時間台がざらでした。短いと予想していましたが驚きでした。私たちは聞き取り調査ではなく、センサーを使い日常生活の中で客観的データを得たので、これほど違ったのではないでしょうか。
それとともに、睡眠改善のプログラムをやるとすごく良くなる人がいることも分かり、自信や喜びが得られました。
▼データと対話で自覚、無理せず改善
-睡眠改善のプログラムとは?
カウンセリングがメインです。睡眠改善インストラクターと一緒に、睡眠データを見て、対話しながら、自分に合った改善のポイントを探していく。更年期症状については一般的な指標を活用して自分の状態を把握してもらい、必要に応じて医療機関の受診を勧めるなどサポートします。

-具体的には何をすればいいのでしょうか。
朝起きる時間を一定にする、朝日を浴びる、夜は部屋の照明を白色灯から暖色系に変える、アロマを導入するなど、結構シンプルです。無理なくすぐにできることが大切なのです。
更年期世代の9割以上は、更年期障害の手前の更年期症状を抱えていると言われていますが、睡眠というアプローチを取ると、すごく効きます。平たく言えばよく寝てもらうだけなのですが、分かっているけどできない。どうすればできるようになるか。それが私たちの工夫のしどころです。
▼ライフステージごとに支援
-サイレントシフトで更年期の女性に注目した理由は?
2000人アンケートから更年期の女性の多くが何らかの不眠症状を抱えていることが確かめられ、当初からこのテーマに取り組むことを考えていました。ホルモンが変動すると、自律神経を含めて乱れが起き睡眠に大きな影響が出ますが、変動は小児期、思春期、成熟期、更年期、老年期で異なります。
成熟期の産後と更年期は、睡眠とのかけ合わせでは、痛みがすごく強いのです。ライフステージごとに違う悩みを支援し、みなさんがネガティブに捉えている更年期を、ニュートラルに捉えられるように持っていきたい。

女性のライフステージと健康課題
-男性も睡眠の悩みを抱えていますが。
女性でも眠くなるのが生理前の人もいれば生理中の人もおり、個人差があります。しかし男性のホルモンは加齢とともに緩やかに変動するのに対し、女性はジェットコースターのようにゼロになっていきます。男性と女性とでは、睡眠の状態もものすごく違うのです。
▼“部活”から業務へ
-こうした取り組みは会社の事業になっているのですか?
始まりは会社の仕事というより部活のような形でしたが、2024年に会社のプロジェクト新規事業開発チームとして正式に認められました。現在、Sleep×Femtechでは、サイレントシフト以外に大きく三つの取り組みが並行して走っています。
「わたしとねむり研究所」は一般生活者向けに、眠りに関する正しい知識と最新情報を発信しています。「ねむり共創リサーチ」はさまざまな業界のパートナー企業とともに、睡眠・健康データを活用した価値創造を推進。企業向けプログラム「Menorista.(メノリスタ)」は、従業員の体調不良やリズムの乱れに対し、研修や睡眠計測、カウンセリングにより働きやすさや生産性向上を支援します。

Sleep×Femtechプロジェクトの概要
-サイレントシフトの今後の展開を教えてください。
サイレントシフトは、更年期を入口にして、女性の健康課題全般と働き方への理解を醸成し、企業の意識変革を促していく場です。人手が減っていく中で辞めないでよく働いてもらえるよう、当社も含めて考えて答えを出していく場と考えています。分かりやすく語ってもらうカンファレンスや小さめのセミナー、レポート発行などを行い、「女性の生理や働き方? はてな」という状態の企業の意思決定層や社会に届けたいと考えています。
2025年11月には東京で、福島県国見町で地域資源を活用する企業「陽と人(ひとびと)」と共同で、第1回カンファレンスを開催しました。企業の経営者や担当者、研究者らが参加し、2000人アンケートの最新の調査結果を公表し、キャリア継続に対する意識や働き方の見直しについても議論を深めました。
▼自分に合った睡眠で快適な日々を
-悩んでいる女性たちに一言お願いします。
自分に合った睡眠を取れると、朝は目覚まし時計がなくても起きられ、夜はすっと眠くなる。日中も集中力が続き、活動中に眠くなることもない。そういう一日が訪れるのです。一度でも経験すると、自分にとってベストな状態が分かり、おのずと良い状態を作りやすくなります。そういう日々を過ごしていただきたいな。目の前にいる人が、睡眠データも生活も表情も変わる。それが私たちのチームの一番の喜びなのです。

大槻朋子(おおつき・ともこ) 1983年神奈川県生まれ。早稲田大卒。パラマウントベッドに入社後、介護領域セールスの担当を経て健康事業部門で、よりよい眠りの提供を目指す「Active Sleep」のブランドプロジェクトに参画。経営企画本部へ異動し「Sleep×Femtech」を立ち上げ、人生を通じて女性の健康を睡眠でサポートする取り組みを展開中。2023年から現職。


















