生活習慣の組み合わせで児童の体力に違い
2025年12月5日
早稲田大学
発表のポイント
●日本の子どもの体力は1980年代をピークに低下し、その後2000年頃から回復しつつありましたが、直近5年間で体力テストの得点が大きく低下しています。体力向上への効果的な対策が求められています。
●本研究では、小学生の体力テストのスコア(総合スコアおよび8種目のスコア)と、①身体活動、②娯楽目的のスクリーンタイム(ゲーム、テレビ、SNSなど画面を見る時間)、③睡眠の状況との関連を調査しました。
●小学校の児童307名が分析対象となり、「1日60分以上の中~高強度の身体活動(徒歩、外遊び、スポーツなど)を毎日行っている」子どもは、総合体力および多くの種目のスコアが高いことが示されました。さらに、この身体活動に加え、「1日2時間以内の娯楽目的のスクリーンタイム」や「1日9~11時間の睡眠」のいずれか、またはその両方を満たした子どもは、そうでない子どもに比べて体力テストのスコアがより高い傾向がみられました。
●これらの結果は、子どもの体力向上には「1日60分以上の中高強度の身体活動を毎日行う」ことに加え、適切なスクリーンタイムや睡眠を組み合わせることで、子どもの体力がさらに高まる可能性を示しています。
図1:人の1日(24時間)を構成する3つの行動
日本の子どもの体力は1980年代をピークに低下し、2000年頃から回復しつつありましたが、直近5年間で体力テストのスコアが大きく低下しています。体力低下の要因として、身体活動の少なさだけでなく、スクリーンタイム(ゲーム・スマホ・テレビなど)や夜更かしの増加などの生活習慣の問題が指摘されています。
早稲田大学大学院スポーツ科学研究科の内藤 隆(ないとう たかし)氏、早稲田大学スポーツ科学学術院の石井 香織(いしい かおり)教授、岡 浩一朗(おか こういちろう)教授ならびに関東学院大学経済学部の青柳 健隆(あおやぎ けんりゅう)教授らの研究グループは、小学生の体力レベルと、身体活動・スクリーンタイム・睡眠の3つの生活習慣の関連を分析しました。その結果、1日60分の中~高強度の身体活動(歩行、外遊び、スポーツなど)を毎日行う子どもは、総合体力や多くの種目で得点が有意に高いことが示されました。さらに、身体活動に加え、「1日2時間以内の娯楽目的のスクリーンタイム」や「9~11時間の睡眠」のいずれか、または両方を満たす子どもは、体力がより高い傾向がみられました。
毎日60分以上の中~高強度の身体活動に加え、適切なスクリーンタイムや睡眠を組み合わせることで、子どものさらなる体力向上につながる可能性を示しています。
本研究成果は、2025年12月3日(水)に『PLOS One』に掲載されました。
キーワード:
子ども、小学生、身体活動、運動、スクリーンタイム、睡眠、体力テスト
(1)これまでの研究で分かっていたこと
日本において、1980年代をピークに子どもの体力は低下傾向にあり、2000年頃から回復しつつありましたが、直近5年間で体力テストのスコアが大きく低下しています。
体力低下の要因として、外遊びや身体活動全般の減少、スクリーンタイムの増加(ゲーム・スマホ・テレビなど)、夜更かしの増加や短い睡眠時間、肥満の増加、新型コロナウイルス渦による活動制限などが挙げられており、身体活動以外の要因も関連することが指摘されています。
現在、「24時間行動ガイドライン」という概念が国際的に広まりつつあります。私たちの1日(24時間)は、①身体活動、②座位行動※1、③睡眠の3つの行動で構成されています。この3つの行動の推奨事項を包括的に遵守することを目指したのが24時間行動ガイドラインです。24時間行動ガイドラインは、2016年にカナダで採用され、その後、オーストラリアやWHOなどで採用が広がりつつあります。
5~17歳を対象とした24時間行動ガイドラインの推奨事項は図2の通りです。座位行動については、座位行動の一種であるスクリーンタイムが指標として用いられています。
図2:子どもの24時間ガイドラインの推奨事項
3つの推奨事項の遵守数の多さや、特定の遵守の組み合わせが、子どもにおける体力の高さ、肥満や心代謝リスクの低さ、認知機能や学力の高さ、主観的な健康感や生活の質の高さと関連することが、これまでの研究で示されています。
しかし、この24時間行動ガイドラインの遵守状況と子どもの体力レベルの関連を調べた国内外の研究は十分ではないことに加え、日本全国の小学校で実施されている新体力テストの全8種目のデータを用いて関連を検討した研究は、これまで存在しませんでした。
(2)今回の新たに実現しようとしたこと、明らかになったこと、そのために新しく開発した手法
本研究は、体力レベルと3つの生活習慣(身体活動・座位行動・睡眠)との関連を調べ、子どもの体力向上策を検討するうえで役立つ実践的な示唆を得ることを目的としました。
調査は、横浜市内の研究協力校である小学校1校の児童を対象に実施しました。体力テストのデータを取得するとともに、質問紙を用いて、①中~高強度の身体活動の時間・頻度、②1日あたりの娯楽目的のスクリーンタイム、③1日の平均睡眠時間を調査しました。小学1~3年生は保護者のサポートのもと回答し、小学4~6年生は子ども本人が回答しました。
体力テストは全8種目で構成され(図3)、各種目のスコア(各10点満点)および総合体力スコア(80点満点)のデータを取得しました。
24時間行動ガイドラインの推奨事項に基づき、3つの生活習慣の遵守状況は、以下のように分類しました。
①身体活動:1日60分以上の中~高強度の身体活動を毎日行っている場合を「遵守」、それ以外を「非遵守」
②スクリーンタイム:1日あたりの2時間以下の場合を「遵守」、それ以外を「非遵守」
③睡眠:1日9~11時間の睡眠をとっている場合を「遵守」、それ以外を「非遵守」
小学校の児童307人が分析対象となりました。3つすべての推奨事項を遵守していた子どもは全体の5%(15人)にとどまりました。一方、3つすべてを遵守していない子どもは25%(77人)に上りました。
総合体力のスコアは、「身体活動を遵守している子ども」、「身体活動とスクリーンタイムの両方を遵守している子ども」、「身体活動と睡眠の両方を遵守している子ども」、「3つすべてを遵守している子ども」が、それぞれ遵守していない子どもに比べて有意に高い結果が示されました。特に、身体活動の遵守に加えてスクリーンタイムまたは睡眠のどちらか、あるいは両方を同時に遵守している場合に、より高い総合体力スコアが示されました(図4)。
図4:24時間行動ガイドラインの遵守パターンと総合体力スコアの関連 (注)グラフ内の*は統計的に有意差があったことを示しています。
個別の体力に関しても、「身体活動を遵守している子ども」は、そうでない子どもに比べて多くの種目で高いスコアを示しました。特に、身体活動の遵守に加えて、スクリーンタイムまたは睡眠のどちらか、あるいは両方を同時に遵守している場合には、体幹筋力/持久力・敏捷性・スピード・瞬発力・巧緻性において、より高いスコアを示す傾向にありました。
握力(筋力)、長座体前屈(柔軟性)は、24時間行動ガイドラインの遵守状況と関連がみられませんでした。
これらの結果は、毎日60分以上の中~高強度の身体活動が体力向上において重要であることに加え、適切なスクリーンタイムや睡眠を促すことで、子どものさらなる体力向上につながる可能性を示しています。
(3)研究の波及効果や社会的影響
子どもの体力を高める上で身体活動・運動を行うことの重要性が改めて示されました。さらに、本研究の結果から、スクリーンタイムの適切な管理や十分な睡眠を組み合わせることで、体力がより高まる可能性が示唆されました。
身体活動だけでなく、24時間行動ガイドラインに基づき、身体活動・座位行動・睡眠の推奨をバランスよく満たすことが、子どもの体力向上に効果的だと考えられます。
そのためには、子どもたちを取り巻くステークホルダー(教員・保護者・子ども・政策立案者・事業者・研究者)が連携し、運動不足、デジタル機器の過度な利用、睡眠不足といった課題に対して、総合的な対策を進めていくことが求められます。
(4)今後の課題、展望
本研究は1校の児童のみを対象としており、調査範囲が限定的です。今後は、より多くの地域や、中学生・高校生など他の年代の子どもも含め、大規模な調査が求められます。
本研究は観察研究であるため、得られた結果について因果関係までは明らかにできません。
(5)研究者のコメント
子どもの時に体力を育むことは、心身の健康保持や認知機能の高さと関連し、大人になってからの健康の土台にもなります。体を少しでも多く動かすことに加え、毎日しっかり寝る、スマホやゲームを使いすぎないなどの生活習慣を整えることが、さらなる体力向上につながる可能性があります。
(6)用語解説
※1 座位行動
座位、半臥位または臥位の状態で行われるエネルギー消費量が1.5メッツ以下のすべての覚醒行動と定義されます(Tremblay et al., 2017)。座位行動の例として、デスクワークや学校・塾での勉強、電車や車での移動、読書や座りながら行う趣味、またスクリーンタイムと呼ばれるテレビ視聴やスマートフォン使用など画面を見て過ごす活動などがあります。
(7)論文情報
雑誌名:PLOS One
論文名:Differences in physical fitness levels by adherence to the 24-hour movement guidelines among Japanese elementary school children.
執筆者名(所属機関名):Takashi Naito* (Graduate School of Sport Sciences, Waseda University), Kenryu Aoyagi (College of Economics, Kanto Gakuin University), Koichiro Oka (Faculty of Sport Sciences, Waseda University), Kaori Ishii (Faculty of Sport Sciences, Waseda University)
掲載日時:2025年12月3日(水)
DOI:https://doi.org/10.1371/journal.pone.0337972
掲載URL:https://journals.plos.org/plosone/article?id=10.1371/journal.pone.0337972
(8)研究助成
本研究は、JP 21K11507(内藤 隆)、JP 23K10770(石井 香織)の助成を受けて行われました。
















