KK KYODO NEWS SITE

ニュースサイト
コーポレートサイト
search icon
search icon

女性不在の地方創生 藤波匠 日本総合研究所調査部上席主任研究員 連載「よんななエコノミー」

 東京圏(埼玉県、千葉県、東京都、神奈川県)の転入超過数が、高い水準で推移しています。転入数から転出数を引いて求める転入超過数ですが、東京圏では、高度成長期以降、マイナス、すなわち転出超過となったのは、バブル崩壊後の1994年と95年の2年間だけです。

 足元の東京圏の転入超過数は、若い世代の地方定着を目指した地方創生政策が動き出した2015年頃に比べても、高い水準にあり、その大半が30歳未満の若い世代となっています。このように地方創生政策によっても、全体として東京への人口流入を押しとどめることはできていません。

 ただし、年齢別に詳しく見ると、足元で、40歳以上の世代が東京圏から出ていく動きが顕在化していることが分かります。そのきっかけは、コロナ禍です。新型コロナウイルスの感染拡大とそれに伴う緊急事態宣言によって自宅で過ごす時間が増え、働き方もリモートワークが普及したことなどに伴い、地方暮らしが注目されたのです。

 中高年の地方志向はコロナ禍が収束した今でも根強く、どうやら定着しそうな印象です。コロナ禍以前には2千人足らずであった40歳以上の東京圏の転出超過数は、2021年に1万7千人に跳ね上がり、2024年になっても1万3千人と高い水準で推移しています。

 興味深いのが、中高年の転出超過数に占める男性の割合が87%と高い水準にあることです。コロナ禍を経て、地方創生政策の柱にも位置付けられている〝地方移住〟を実践できているのは中高年男性であり、女性や若者にそうした傾向はあまり見られません。実際、石破茂前首相がスタートさせた地方創生2・0の基本的な考え方の一つとして「若者と女性にも選ばれる地域」が前面に押し出された背景にあるのは、これまで力を入れてきた地方移住や地方リモートワーク、2地域居住などが、どちらかと言えば男性に好まれたり、実践しやすかったりするライフスタイルであったことです。

 たとえ地方暮らしというライフスタイルへの憧れに性差がないとしても、実際に地方移住を決断できる人は、男性の方が多いことは容易に想像されます。例えば、働き方として、リモートワークを実践できる人は、中高年男性が多いと考えられます。女性は、窓口や売り場においてお客様に対してサービスを直接提供するような、リモートワークにそぐわない仕事に就いている人が多いとみられます。また、地方に女性の高度人材を積極的に採用してくれるような職場が少ないこともあるでしょう。

 加えて、女性は「ママ友」以来のつながりなど、現住地にしっかりとしたコミュニティーを築いている場合が多い一方で、男性は職場関係でのつながりが強いため、退職後の移住への向き合い方に男女で大きな差異が生じるのは当然です。あるいは、多くの女性が、パートナーが望む2地域居住によって管理する家が増える負担は、結局自分が負わされるとネガティブに考えているのかもしれません。

 移住や2地域居住頼みの地方創生は、限界に来ています。雇用や仕事の面から地方創生の再考を図ることが必要です。

【KyodoWeekly(株式会社共同通信社発行)No.43からの転載】

編集部からのお知らせ

新着情報

あわせて読みたい