山暮らしの大敵は野生動物 赤堀楠雄 林材ライター 連載「グリーン&ブルー」
5月末に田植えをしてから1カ月ほどたったある朝のこと。田んぼや畑を見回りに行こうと戸外に出ると、すでに一仕事を終えたらしい隣人がいて、「〇〇ちゃんの田んぼ、シカにでかく入られちまったみたいだぞ」と声をかけてきた。
〇〇ちゃんの田んぼは、当家が借りてコメ作りをしている田んぼの隣だ。隣人は「お宅の田んぼもやられてやしないか」と続ける。慌てて見に行くと、シカが歩き回った形跡はあったが、幸いなことに食べられてはいなかった。
一方、隣り合う〇〇ちゃんの田んぼは、青々と茂り始めた稲の背丈が不揃(ふぞろ)いになったためのまだら模様が全体に広がっている。明らかにシカに食い荒らされた痕で、これは大変なことになったと頭を抱えたくなった。
農作物に対する野生動物の食害は年々ひどくなっている。それを防ごうと、〇〇ちゃんと相談してふたつの田んぼを柵で囲っていたのだが、それを飛び越えでもしたのか、とうとうシカに入られてしまった。〇〇ちゃんの田んぼがやられたということは、味を占めたシカに今度はウチの田んぼがやられる可能性は高い。
その日の日中、○○ちゃんは自分の田んぼを電気柵で囲い、私は柵の高さを2メートル以上にかさ上げする作業に追われた。稲は小さいときに葉を食われても、旺盛な成長力でまた葉を茂らせ、最終的にはちゃんとコメを実らせる。だが、穂が出る直前や出た後に食べられでもしたら、その年の収穫が見込めなくなってしまう。幸い、その後は被害がなく、現在、稲は穂を実らせて頭(こうべ)を垂れつつある。
一方、今年は畑がひどくやられてしまった。トマト、ナス、オクラは丸裸と言ってもいいくらいのありさまで、サツマイモも葉がだいぶ食われた。もちろん、柵で囲っているのだが、こちらはシカだけではなく、ハクビシンやアナグマの類いも入ったのか、山間の当地に移住してから15年間で最悪と言ってもいいくらいの被害を受けてしまった。
秋には大根や白菜、野沢菜といった冬野菜の栽培が始まる。葉物は食害イコール収穫ゼロになりかねないし、地中の大根も葉が食われるのはうまくない。柵を堅固にするか、電気柵を導入するか、何らかの対策を講じなければならない。「ピィー、ピィー」と、夜ごと響き渡るシカの鳴き声に神経を尖(とが)らせる日々が続いている。
【KyodoWeekly(株式会社共同通信社発行)No.33からの転載】
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