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調査研究の積み重ねと今日的な視点で「新発見と再発見」 「発掘された日本列島2025」展が佐世保で開幕

 文化庁主催「発掘された日本列島2025」展(列島展)が、7月12日から長崎県佐世保市の島瀬美術センターで開催されている。本展は、全国の注目遺跡を紹介する巡回展示と、開催地域ごとに独自の視点で構成される地域展の二部構成となっている。今回の展示を担当した文化庁文化財第二課の文化財調査官・大澤正吾さんに、展覧会の見どころについて聞いた。

展示について説明する文化財調査官・大澤正吾さん

――今回の列島展にタイトルをつけるとしたら?

 「新発見と再発見」ですかね。「我がまちが誇る遺跡」がまさに継続した調査研究の積み重ねを見ていただくところ。「新発見考古速報」でも、もちろん新しく見つかったものもありますが、古く見つかっていたものを今日的な視点で調査研究することで新しいことが分かったというものもあるので、「新発見と再発見」かなと思います。

――再発見とは?

 鹿児島県の高橋貝塚は、弥生時代前期の南島貝交易の中継地・加工地として知られていましたが、弥生時代中期の様相はよく分からなかったんです。今回、調査研究が進んだことによって、弥生時代中期も一定程度交易が続いていて、ルートも(弥生時代前期の外海ルートとは異なり)有明海ルートに変わり、貝交易の中継地として継続して役割を果たしていた可能性が高まってきたという「再発見」になっています。出土遺物がどこから運び込まれたのかを分析することによって新しいことが見えてきたということです。

対馬産と想定される石材を用いて作られた弥生時代前期末〜中期の石包丁。有明湾岸を経由しての高橋貝塚への搬入が考えられる

 

――では、見た目にも珍しい新発見は?

 一番目を引くのは、熊本県の上官塚遺跡の「家形埴輪(はにわ)と囲形埴輪」。円文が施されているんですが、これは非常に珍しい例だと思います。事例を知った時にすごく驚きました。家形埴輪と囲形埴輪の円文についてはあまり例がないと思ったし、円文というモチーフが装飾古墳によく用いられるモチーフなので。熊本県自体が装飾古墳のメッカとして知られていて、装飾古墳に用いられる表現が埴輪にも使われている、地域らしさが出ている点でも感動した覚えがあります。 

熊本県の上官塚遺跡「囲形埴輪」。門と柱のような線刻のある入り口の左右に円文が見える。同県では石棺に円文を施す装飾古墳が多く確認されており、地域性が感じられるという

 

――遺物を実際に見た時の感想は?
 大きさ、サイズ感は実際に対面してみないと分からないところがあったので、「家形埴輪」の円文と「囲形埴輪」の円文で少し大きさが違うとか、赤彩されている様子も実物を観察してよく分かりました。

――他の新発見は?
 弥生時代では、福岡市の顕孝寺遺跡の銅剣・銅矛のソケット部に残欠が見つかっています。木柄というものですね。これが遺存して出土したのは初めてではないかと地元から聞いています。この辺も貴重な発見だと思います。

 同じく弥生時代後期中頃の福岡市の高畑遺跡は、青銅の「銅戈(どうか)の鋳型」が出土した遺跡です。銅戈の鋳型一対がセットで出土したのは初めてで、非常に貴重な資料になっています。「取瓶(とりべ、金属を鋳型に注入する容器)」が出土しており、高畑遺跡周辺で青銅器生産をしていたと見て間違いなく、ここは奴国(なこく)の領域になりますので、奴国での青銅器生産を考える上で非常に重要な発見です。

福岡市の高畑遺跡の「銅戈鋳型」。福岡平野に存在していたと考えられる奴国では青銅器生産の中心地として鋳型の出土事例が集中しているが、完形の広形銅戈鋳型が表裏のセットで見つかったことは大発見
展示会場のアイキャッチとなっている新潟県曽我墓所遺跡の「横型環状瓶」。足が生えた瓶という愛らしいフォルム

 

 群馬県の山名原口Ⅱ遺跡1号墳の「盾持人埴輪(たてもちびとはにわ)」は、歯を石で表現していてこれもすごく珍しいです。他にも盾持人埴輪を展示していますが、そういう表現はなくて、すごく珍しいものだと思います。

群馬県山名原口Ⅱ遺跡1号墳の「盾持人埴輪」。口の部分に石を埋め込んで歯を表現している。歯が表現された埴輪は極めて珍しく、調査官も実物を見て驚いたとか

 

 同じく群馬県の「胡坐(あぐら)する男子埴輪」は、儀式に臨む首長あるいは王の姿を表していると考えられていて、古墳時代(5世紀後半頃)のものですが、その頃の首長のあり方を考える上で面白い資料です。腰に大刀を履いています。和装の大刀で(つばのような)護拳帯がついています。

群馬県保渡田Ⅶ遺跡の「胡坐する男子埴輪」。レプリカだが精巧に作られており、赤彩が施され、護拳帯の細かい部分まではっきり観察できる

 

――パネル展示「埴輪列の世界」とは、どんな展示ですか?
 埴輪というと一般的には人物埴輪や動物埴輪を思い浮かべると思うのですが、人物、特に動物でも馬などは、古墳時代の最初からはありません。埴輪の種類は、時代を経るごとに徐々に整備されていくんです。こういった整備されていく様子を知っていただきたくて企画しました。
埴輪が並べられる場所についてもいろいろ加わったり集約されたりしていくので、埴輪を「個体」ではなく「列」として見ることで、どういう意味があるのかをご紹介しています。

――今回、佐世保会場の洞窟遺跡も扱っています。実際に佐世保に来てみた感想は?
 佐世保の地域文化、歴史文化を代表するものが洞窟遺跡だということをこちらに来て改めて思いました。海がすぐ近くにあって、少し平地があり、すぐ山になるという地形的な特徴もこちらに来てよく分かりました。

 佐世保市の考古学的な一番の特徴はやはり洞窟遺跡だと思います。福井洞窟をはじめ、泉福寺洞窟などたくさん洞窟遺跡があって、いずれも旧石器時代から縄文時代へ移行していく様子を知るために非常に重要な資料となっています。それが全国を巡回してご覧いただけますのでそこをぜひ見てもらいたいと思っています。

特別史跡福井洞窟と祠。近隣に福井洞窟ミュージアムがあり地域展を開催中。島瀬美術センターから車でおよそ40分

 

――列島展のグッズについて。

 パネルだけではご紹介しきれない遺跡の面白さがありまして、その辺を余すことなく書いているのがこちらの図録になります。ぜひ展覧会をご覧いただくとともに図録も手にとっていただいて、より深く遺跡のことについて知っていただければうれしいと思います。

 新しくグッズとしてスタンプ帳が作られています。中を開きますとスタンプが押せるようになっています。列島展でも毎年記念スタンプを作っておりますので、そのスタンプをぜひ押していただきたいと思いますし、他の遺跡等にもスタンプが置いてある場合がありますので、そういうのでどんどん埋めていって、こんな遺跡行ったなとか、この列島展に行ったなと思い返すような思い出帳にしていただけると、非常にうれしいなと思います。

列島展2025のスタンプを押したスタンプ帳

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