AIが解き明かす水稲の収量変動の秘密
―半世紀に渡る長期連用試験からの新知見―
2025年9月5日
京都大学
岐阜大学
AIが解き明かす水稲の収量変動の秘密 ―半世紀に渡る長期連用試験からの新知見―
概要
京都大学大学院農学研究科 桂圭佑教授、岐阜大学応用生物科学部 山口友亮助教らの研究グループは、フィリピンで1962年から続く世界最長の長期連用栽培試験のデータに人工知能(AI)を適用し、水稲収量を持続させる要因を明らかにしました。1968年から2017年までの50年間、150作に渡る連続栽培データを解析した結果、窒素施肥管理や日射量が収量維持の鍵となる一方、その効果は作期ごとに大きく異なることが示されました。乾季作では生殖成長期・登熟期の夜温、前期雨季作では栄養成長期の気温、後期雨季作では病害リスクや同一品種の連続作付けがそれぞれ収量変動に大きく寄与していました。さらに、1970–80年代の収量低下は窒素不足だけでなく夜間の気温の上昇も原因となっていたことが新たに判明しました。本成果は、アジア2,200万ヘクタールの灌漑水稲単作地帯における気候変動への適応や食料安全保障に直結する知見です。
本研究成果は、国際学術誌「Field Crops Research」に2025年8月25日に掲載されました。
図:50 年間、150 作にわたる連続栽培データを学習させたAI から、収量変動の要因を抽出した。
日射量や窒素施肥量が共通する要因として特定された一方で、作期特異的な要因も存在することが明らかとなった。
1.背景
アジアの主食であるコメは、人口増加と気候変動の中で安定生産が求められています。フィリピンの国際稲研究所で実施されてきた長期連続栽培試験は、1962年から今日まで三期作のイネを多様な肥培管理で栽培し続けてきた世界唯一の圃場試験であり、作物生産の持続性を検証する貴重な資源です。しかし、数十年規模のデータを活かしきるには解析上の限界があり、複雑な気候・施肥・品種の相互作用を解き明かすことは困難でした。
2.研究手法・成果
研究チームは、AI分野における最新の手法の1つである説明可能なAIの活用を着想しました。気温・日射量の気象要因、窒素施肥量、品種交代の頻度、病害の発生リスク等と収量の関係を、全てのデータおよび乾季作・前期雨季作・後期雨季作の作期別に解析しました。その結果、窒素施肥、品種の更新、日射量が収量維持に重要であること、作季ごとに異なる環境要因が収量を左右すること、夜間の高温が過去の収量低下の隠れた要因であったことなどが明らかになりました。これにより、従来の統計手法では見えなかった長期的・複雑な要因が初めて整理されました。
3.波及効果、今後の予定
本研究では、乾季作には高温耐性を持つ品種育成、雨季作には高湿度・低日射条件に耐性のある品種開発、頻繁な品種更新の必要性があること示しました。これらはアジア全域の灌漑稲作地帯での持続的生産に貢献します。今後は、気候変動下での地域別適応戦略の設計に応用される見込みです。
4.研究プロジェクトについて
本研究は、農林水産省の戦略的国際共同研究推進委託事業(ドイツとの共同研究分野)(JPJ008837)の委託と、国際稲研究所で実施された「ASEAN諸国におけるカーボンニュートラルと食料安全保障に向けた稲作システムの開発」プロジェクトを通じての日本政府の支援を受けて行われたものです。
用語解説
長期連用栽培試験:1962年からフィリピン・国際稲研究所で続く世界最長の水稲連続栽培試験。
説明可能なAI:AIの判断や予測の根拠を人間が理解できる形で説明する技術。
研究者のコメント
「50年にわたる詳細なデータをAIで解析することで、これまで指摘されてきた要因を改めて確認するとともに、それらの相互作用を包括的に捉えることができました。本成果は、農家や研究者にとって季節ごとの課題をより明確に理解する手がかりとなり、将来的な稲作の持続性や食料安全保障に貢献すると考えています。」
(京都大学大学院農学研究科 桂 圭佑 教授/共同責任著者)
「AIの判断根拠を数値化する説明可能なAIのポテンシャルが、農業ビッグデータの解析において示されました。今後、農学分野においてより信頼でき、実用的な知見が抽出できる技術の発展と応用が期待されます。」
(岐阜大学応用生物科学部 山口 友亮 助教/筆頭著者)
論文タイトルと著者
タイトル:Machine learning reveals drivers of yield sustainability in five decades of continuous rice cropping
(機械学習が明らかにする50年にわたる水稲連続栽培の収量持続要因)
著者:山口友亮(岐阜大学)、Olivyn Angeles、齋藤和樹(IRRI)、飯泉仁之直(農研機構)、Achim Dobermann(IFA)、桂圭佑(京都大学)
掲載誌:Field Crops Research(Elsevier)
DOI:10.1016/j.fcr.2025.110114
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