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自社事業を公共的インフラにサイエンスアーツ、32歳社長

2025年11月27日にサイエンスアーツ社長に就任した平岡竜太朗さん

 2020年初頭に始まったコロナ禍の経験は、世界中の人々に、交通運輸や必需品の小売、医療介護、保安防災、食料生産など生活に不可欠なサービスに従事する「エッセンシャルワーカー」の重要性を再認識させたが、日本にはコロナ禍のずっと前からエッセンシャルワーカーら“現場で働く人たち”のことを考え続けてきた企業がある。03年創業のサイエンスアーツ(東京都渋谷区)で、現場で働く人たちの簡易・迅速・正確なコミュニケーションを促進する無線通信サービス「Buddycom(バディコム)」を提供してきた。

 このバディコムの提供開始からちょうど10年の節目を迎えた昨年秋、創業者の父親の後を継いで2代目のサイエンスアーツ代表取締役社長に就任した平岡竜太朗さんに、バディコムの今後の展開や新事業への意気込みなどを聞いた。

―御社の社員の平均年齢と同じ31歳での社長就任です。創業者社長の父親・平岡秀一さん(64)=現取締役会長=から自身への社長交代を知らされたのはいつですか。

 会社が社長交代の内定を発表した25年10月15日の前日の部長会議で知らされました。当時は取締役企画本部長兼第2営業部長で、もう少し営業現場の経験を積みたいと考えていましたが、すぐに覚悟を決めました。18年の入社以来、社員として担当した開発、企画、営業の現場の経験を生かし、一つ一つの課題に真摯(しんし)に取り組み、頑張っていきたいと思っています。

―社長交代を知らされたその時、父親から何か一言ありましたか。

 その場では特に具体的な言葉はありませんでしたが、日ごろの言動から、もっと社会を良くするサービスを提供する会社にするために頑張ってほしい、というのが、社長に就任する私への創業者の父の思いだと感じています。

―日ごろはどんなことを言っていたのですか。

 IT企業の社長が60代というのはちょっと違うね、などと言っていました。

インタビューに答える平岡竜太朗さん=2025年11月20日、東京都渋谷区

―それは社長就任への覚悟をそれとなく息子に促していたのかもしれませんね。経営者としての父に学ぶべき点は。

 父が弊社を創業した時、私は小学生でした。当時父は忙しくて家にあまりいませんでした。子どもながらに父は苦労しているのかな、となんとなく肌で感じていました。高校受験の時は、滑り止めに行く高校は、当時の家庭の経済事情を考えて公立に行くと自分で決めていました。だから、子どものころから経営者としての父を見ています。学ぶべき点は判断力と行動力、そして柔軟性ですね。いったん決めて始めたことでも駄目だと分かったらすぐやめる。それは経営者としてやりたくない“嫌なこと”ですが、それができる。判断が早く、判断の軸が正確です。

―その創業時の苦労を経て生み出された御社の主力事業バディコムとはどのようなサービスですか。

 簡潔に分かりやすく言うと、スマホで使えるIP無線サービスのアプリです。2015年9月から提供を始め、航空会社や鉄道会社、小売店など現在1600社を超える企業の“現場”で使っていただいています。使っている方々は、各現場の最前線で基本的に立って仕事している人たちです。例えば、空港の整備士やグランドスタッフ、鉄道の駅員、小売店の店員、介護施設の介護士、イベント会場の警備員などの方々です。弊社では「フロントラインワーカー」と呼んでいます。バディコムというサービス名を聞いたことがない人でも、空港や駅、スーパー、介護施設、イベント会場などでフロントラインワーカーの方々がイヤホンマイクやヘッドセットを身に着けて何か話している姿を見かけたことがあると思います。 

―それなら空港などでよく見かけますね。無印良品の店舗でもイヤホンマイクを着けた店員さんを見たことがあります。

 そうです。無印良品の店舗では店員さんがバディコムの周辺機器であるイヤホンマイクを着けて店員同士で会話し、接客に必要な情報を共有しています。

無印良品店舗をはじめ多くの小売店などで使われているバディコム周辺機器のイヤホンマイク

―多くの人がバディコム(の周辺機器)をどこかで目にしているわけですね。現場では具体的にどのような状況でどんな使われ方をしているのですか。

 例えば最初にバディコムを使ってくれた航空会社JAL(東京都品川区)の整備士の方々は、屋外の飛行機のエンジンの下などで、バディコムを使って整備士同士で会話して整備を進めています。バディコム機器の操作は簡単でボタンを押すだけで簡単に現場の全員と会話できます。JALの整備士は屋外で使うので、イヤホンとマイクの弊社機器は雨に強い仕様にしています。ホテルなどでは、イヤホンとマイクが一つになった耳掛けタイプの「ヘッドセット」を着けて、接客に必要な会話などをしています。このヘッドセットは見た目も重視したスタイリッシュなデザインに仕上げています。また介護現場では会話が不自由なお年寄りの呼び掛けを正確に聞き取る必要があるので、耳をふさがない形の弊社の高音質軟骨伝導ヘッドセットを使っていただいています。

―バディコムを使っている方々から聞いた話で一番うれしかったことは。

 ある小売店で働いている高齢のバイト店員さんに聞いた話です。商品知識がそれほどなく顧客から何か聞かれても答えられないと売り場に立つことに不安を感じていましたが、バディコムを使えば、知らない商品についても同僚や先輩にすぐ聞くことができるので自信を持って売り場に立つことができた、ということです。とてもうれしかった。バディコムを使っている人たちが喜んでいることを知り、バディコムの社会的意義を実感しました。

―バディコムが多くの現場で使われるようになった要因は何ですか。

 各業界の現場でスマホ利用が普及したことが要因の一つですね。現場へのスマホの普及とともにバディコムを使う現場が増えていきました。この点はバディコムの国内販売代理店である大手携帯キャリア4社の力が大きかったです。でも最大の要因は、実際にバディコムを使った現場の人たちが、他の現場で働く知人にお勧めした“口コミ効果”ですね。バディコムは現場の人たちのために作ったサービスなので、現場の方々の評価はとてもありがたかったです。

介護現場などで使われているバディコム周辺機器の軟骨伝導ヘッドセット

―そのように現場で働く人たちからバディコムが評価されている一番の理由は何ですか。

 それはバディコムの3大要素「簡単、早い、間違わない」を守り、常に現場で働く人たちの声を聞いて、本当の意味で現場に役立つサービスを目指して常に改善を続けている点だと思います。3大要素の“簡単”は、誰でも、初めてバディコムを使う人でもすぐに操作できること、“早い”は情報の伝達に遅延がないこと、“間違わない”は操作を間違えにくい、間違った情報を伝えない、ということです。単純なことのようですが、現場で使ってもらうためには最も大切なことです。

―現場の声を受けて取り組んだバディコムの機能改善例を教えてください。

 大阪・関西万博でバディコムを使っていた警備スタッフへのいわゆる「カスタマーハラスメント事例」の発生を受けて、カスハラ対応にも活用できる「セーフティサポート機能」を追加しました。これは多くの警備スタッフがクレームを常時リアルタイムで聞くことができ、クレームの音声が常に録音される機能です。この機能を使えば、カスハラへの対応を個人から組織の対応に変えることができます。

―今後新たに取り組みたいことはありますか。

 バディコムのサービスは、ソフトウエアとしての「IP無線アプリ開発」とハードウエアとしての「周辺機器開発」が2本の柱です。ソフト開発の分野では、バディコムと人工知能(AI)を連携させ、バディコムを介して業務マニュアルなどに関して口頭で質問すると、AI音声が回答する仕組みを実現していきます。これはすでに検証作業を進めています。

 ハードの部分では、スマホを利用せずにバディコムを使うことができるIP無線機の新規市場を拡大していきます。JVCケンウッド(横浜市)と24年10月に資本業務提携して、IP無線機を共同開発中です。海外への事業展開はまだ手を付けていないので、この共同開発したIP無線機を北米市場に展開していきます。

JVCケンウッドと共同開発したバディコム周辺機器のIP無線機

―30年後には何を成し遂げていたいですか。

 私がこの会社で成し遂げたいことはバディコムのサービスを、日本全国のフロントラインワーカーの皆さんにとって欠かせない“公共インフラ的な存在”にすることです。そうするために一番大事なことは、フロントラインワーカーの皆さんのことを第一に考えて行動してきた弊社の文化を、会社の規模が大きくなっても社員一人一人が持ち続けることです。会社が大きくなってもこの文化を守っていくことが重要だと思っています。5年先のことですが、数値的には現在16億5千万円の売り上げを2030年には50億円にしたいと考えています。

 

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