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「特集」これ血糖値急上昇する? ひたすら飲み食い計測動画 糖尿病医が体張り実験 50過ぎたら主食減らして

山村 聡​
内科医

「これを食べたら太るかな」。日々こう自問している人は多いかもしれない。この疑問にヒントをくれるかもしれないユーチューブ動画に遭遇した。「何を食べたらどれくらい血糖値が急上昇するのか」の〝人体実験〟動画をひたすら作り続ける内科医、山村聡さんにインタビューした(編集長・坂本泰幸)。

坂本:私、かなりメタボでした。中性脂肪もとても高く、糖質制限を試しに始めました。時をほぼ同じくして、山村先生の動画を偶然見つけ、かなり参考にしました。3カ月で体重が10キロ減りました。チャンネルはいつから始めたのですか。

山村:開設は2018年ですが、最初は、糖尿病の啓発や予防といった真面目なレクチャー動画、医療者向けのアドバイス動画でした。糖尿病、血糖値について興味を持ってもらい、予防や普段の生活の見直し、ダイエットに役立てていただきたいと思いブログをやっていたのですが、ただ真面目な話を書いても読まれず、検索もされなくて(笑)。仕方なく「見られるため」に、いろいろな食べ物を自分で食べてみて、血糖値がどう上がって下がるかを単純にやる動画を始めました。最後に一言「こういう理由だと思われる」というコメントを付けるスタイルで始めたら、大バズりではありませんでしたが「プチバズり」しました。あくまで「私個人のデータ」と断っていますが、なかなかそういうことをやっている人がいないところが受けたみたいです。

坂本:どうやってこのアイデアを思いついたのですか。

山村:動画で使っている「FreeStyleリブレ」、〝血糖値〟を24時間2週間測れる機械が出始めて面白いなと思っていました。

坂本:先生が動画で、リブレで測るのは「血糖値そのものではなく皮下の間質液のグルコース(ブドウ糖)の値ですが、血糖値と非常によく相関するので、本チャンネルでは〝血糖値〟と呼んでいます」と説明しています。

山村:それです。最初はツイッター(現X)に血糖値の変動がこうなりますよというのを投稿していました。動画にするアイデアはあったのですが、撮影が面倒くさいし、編集も大変だということがあって。そうしたら、たまたまタイミング良く中学の同級生が「自分が編集するからやろう」と言ってくれた。彼が編集、私が企画、撮影、出演でやり始めたら意外とポンポンと視聴者が千人、2千人を超え、1万人まで急に増えました。

坂本:第1弾の動画は。

山村:最初に一番やりたかったのが、普通のコーラとゼロシュガーのコーラ(コカ・コーラ ゼロ)でした。普通のコーラがどれくらい血糖値が上がるのか、ゼロでどれだけ血糖値が上がらないのかを見せたくて。20年8月に公開しました。

坂本:予想通りでしたか?

山村:はい。普通のコーラは血糖値が急上昇しましたが、ゼロは血糖値がほとんど変わりませんでした。実はそれ以前に何度か実験したことがあり、結果は分かっていました。

坂本:1回の動画撮影にどれくらい時間がかかるのですか?

山村:飲み物ですと1時間くらいで血糖値の上下動の結果が出るのですが、食べ物はだいたい2時間かかります。1回何かを食べると、その後の血糖値の変動が前の食事の影響を受けますので、別々の日に2時間ずつ計2回撮影します。1本の動画を作るのに計4時間ほどです。新規動画アップはざっくりと月に2本くらいでしょうか。

坂本:これまでに動画は何本アップしましたか。

山村:通常、ショート、ライブの動画を合わせて450本くらいです。

坂本:全ての動画を視聴できていませんが「白米と玄米をおかずなしにひたすら食べる」「カップ焼きそば単体とカップ焼きそば+マヨネーズ」「日本酒、ビール、ワイン、サワーなどをすきっ腹に飲み比べ」など、強烈な動画がたくさんあります。

山村:厳密な検証にするため、基本的に撮影がある日は、夜の撮影の食事を1食目にします。例えば玄米だけ食べるのはおいしくないので、大変です。

坂本:血糖値が急上昇すれば血管がダメージを受け、体にダメージを与えることになります。〝1人動物実験〟ですね。

山村:本当に人体実験だと思ってやってます。

坂本:血糖値スパイクとは。

山村:言葉の定義はあまり学術的にコンセンサスが得られていません。いろいろな会社などとコラボして血糖値スパイク対策の予防プログラムを作っているのですが、1分あたり2以上上がる。イメージとしては30分で60上がる。こういう上がり方を血糖値スパイクと定義します。血糖値が急激に上がると、インスリンがたくさん出る、出過ぎてしまう。インスリンが出過ぎると、血糖値は急激に下がることが多い。(血糖値の折れ線グラフが上にとがった山のようになる)形から多分「スパイク」と呼ばれるようになったと思うのですが、私の周囲では、血糖値の急上昇を血糖値スパイクと呼んでいます。急降下はスパイクの結果として起きる感じです。

坂本:血糖値スパイクがどう体に悪いのか教えてください。

山村:そもそも血糖値とは何か、一般の方はあまりご存じないことが多い。白米、うどんといった炭水化物を食べて消化され、炭水化物の長い鎖が1粒1粒の単糖類、主にブドウ糖に分解されて、血液中に吸収された時のブドウ糖の濃度を血糖値といいます。食後、血中ブドウ糖濃度が上がって血糖値が上がります。ブドウ糖はもともとわれわれの体にとってはエネルギー源なので、エネルギーとして使わないといけない。使うためには、使わせるホルモンであるインスリンが膵臓(すいぞう)から出ます。食べたものによる血糖値、ブドウ糖の上昇と、インスリンにブドウ糖を使わせるという、このバランスで血糖値が決まります。バランスが崩れると、一つは食べ過ぎによって血糖値が上がり過ぎた状態、さらに常に食べ続けるとか、常に炭水化物の摂取がたくさんある状態だと、血糖値が高い状態が続いて、糖尿病になる可能性があります。

血糖値の状態が悪くなる一番の原因は、私は加齢だと思っています。 年齢とともに血糖値を下げる(インスリンを出す)力が徐々に落ちてくる。普段そんなに食べてない時は血糖値を水平で維持できますが、炭水化物をある程度の量食べた時に血糖値が上がり、たくさんインスリンを出して血糖値を下げないといけないのに、ドバッとインスリンを出すことができなくなる。血糖値が急激に高くなりやすく、下がりにくいので、高血糖状態、糖尿病に近い状態が維持されるのが、日本人の一番多い糖尿病のなり方、「血糖値スパイク」の起こり方です。そもそも血糖値スパイクが起きるのは、例えば30代、40代までと同じように食べて、今まではインスリンをドバドバ出して血糖値を下げることができたのに、急上昇した時、下げる力が十分ないので、血糖値が高い状態が長く続いてしまいます。

坂本:血糖値の急激な上昇が体に良くない?

山村:これも論文などで厳密に評価されているわけではないですが、糖尿病患者さんたちのデータを見ると、血糖値の変動が大きい方は、少ない方に比べて、血管内皮機能というふうに評価するんですけど、血管の柔らかさ、しなやかさが落ちているので、おそらく大きい血糖値変動がたくさんあると、血管のしなやかさが失われて動脈硬化が起きる、動脈硬化の先に脳梗塞や心筋梗塞、狭心症、脳血管性認知症といったいろいろイヤな怖い病気が出てくる可能性があるので、できるだけ大きな血糖値の変動はないようにしましょう、というストーリーで語られています。ただ、糖尿病でない方が日常的にスパイクがあることで本当にそういうリスクがあるかは、証明、論文化されているわけではありません。

坂本:血糖値を急激に上げるのは、やはり炭水化物ですか。

山村:まず第一は食事の炭水化物、そして砂糖。砂糖については日常的に使うショ糖は、グルコースとガラクトースで2糖類、二つの粒でできているので、消化で早く分解され、吸収が早い。さらにまずいのが、果糖ブドウ糖液という、よくスポーツドリンク、コーラ、炭酸飲料などに入っているもの。本当にブドウ糖そのもの、単糖類で入っているので、飲んだそばからきっちり血糖値が急上昇します。

坂本:私は糖質制限しつつ、揚げ物を多く食べていたのに、中性脂肪が激減して、とても不思議に思いました。

山村:そのパターンは非常に多いです。中性脂肪は名前に「脂肪」が付いているから、きっと脂だろうと思いがちですが、中性脂肪や体に付いている脂肪は、大元をたどるとほとんど炭水化物です。油はゴクゴク飲むわけではないし、揚げ物も油は落ちていて、肉に入ってる油もたかが知れている。油の塊を食べるわけではないので、白米やそば、パスタなどを食べるより全然大した量ではないです。

坂本:一般の人が炭水化物、糖質を制限するのは、健康に良いのでしょうか。

山村:これが難しい。個人差、制限の程度があります。先ほどお話しした、摂取した炭水化物量と血糖値を下げる力、インスリンの分泌能力、このバランスだと思います。インスリン分泌がたくさんできる方であれば、炭水化物をたくさん食べて血糖値が上がってもすぐ下がるので、糖尿病のリスクにはならない。ただ食べたらしっかり身に付きますので、太ります。インスリンがたくさん出て血糖値が下がると、結局は肝臓に脂肪として蓄積されます。

坂本:太古の人類が飢餓に備えて、エネルギーをためこむ人体のシステムだった?

山村:肝臓脂肪や内臓脂肪、皮下脂肪をため込んでいたんですね。ため込んだ分を使うタイミングが、現代人にはないのです。毎日2食3食と食べて、ため込む一方で体重が増える。体重が増えて脂肪が増えると「インスリン抵抗性」になることがあります。インスリンはドバドバ出せるけど効きが悪いので、以前のように血糖値が下げきれなくなる。また年齢とともにインスリンをたくさん出す力が落ちてくる。今までと同じように食べてるのに、インスリンが若い頃のようにたくさん出ず、血糖値が高くなる。何をすべきかというと、制限というよりは、インスリンを出す力に合わせて、摂取する炭水化物量を減らさないといけない。おかずは食べてもいいんです。タンパク質や脂質などはしっかり取りつつ、炭水化物の量を自分のインスリンの能力に合わせることで、血糖値が上がらなくなる。では目安は? リブレを使っている方、血糖値を測れる方は「何をこれぐらい食べたらこれぐらい血糖値が上がるのか」がだいたい分かる。分からない場合は、50歳を過ぎたら今までの主食、炭水化物、ご飯、麺、パンは半分にしましょうとお伝えしています。ここ2、3年に「体重が減らなくなった」「体重が増える一方」となった時は、主食を半分にするタイミング、サイン(兆候)ですよと。

坂本:糖質制限して、大学生の時の体重より軽くなりました。中性脂肪、皮下脂肪も減りましたが、筋肉もすごく減っているのを感じます。

山村:そこはすごく難しいのですが、ある程度許容していただく。筋肉量は落ちます。対策としては、運動をする。 運動はやせるためではなく、筋力維持のため。体重を落とすメインは、食事の量で減らしていく。

坂本:ありがとうございました。今後も面白い動画を楽しみにしています。

内科医 山村 聡​(やまむら・そう)1986年熊本県生まれ。九州大学医学部卒。診療のかたわら糖尿病の啓発・予防のため血糖値に関してSNSで発信、ユーチューブ「やさしい内科医のY’s TV」フォロワーは8万人超。糖尿病予防・ダイエットプログラムの開発や講演も行う。著書に「糖尿病専門ドクターが検証!血糖値を下げる食事法について、実際に試してみた」(KADOKAWA)


(Kyodo Weekly 2025年6月9日号より転載)

 

 

 

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