ビリヤニと麻辣湯 畑中三応子 食文化研究家 連載「口福の源」
久しぶりにインド料理のヒットメニューが生まれた。「ビリヤニ」という名のコメ料理で、専門店が増えている。もとはインドのイスラム王朝、ムガル帝国(1526〜1858)の宮廷料理だったが、いまではインド全域で国民食として定着し、アジア一帯、東アフリカや欧米にも普及し、世界で10億人以上が食べているそうだ。
「インド風炊き込みご飯」と称されるが、日本のようにコメと具材をだしで炊くのとは違う。ミシュランガイドに掲載される東京・神田「ビリヤニ大澤」の大澤孝将さんに作るところを見せてもらったが、あえていえば「蒸し上げご飯」だった。
主材料はトマト、ヨーグルト、玉ねぎ、各種スパイス、鶏や羊などの肉とコメ。粘りのあるジャポニカ種の国産米だとビリヤニらしさが出ず、インディカ種の高級米、インド産バスマティライスを使用する。
作り方をざっくり説明すると、まず濃厚なグレイビーソース状のカレーを作る。別に沸騰した湯でコメを半生にゆで、カレーの上に重ねる。つまり下がカレー、上がコメの2層になる。ぴったり蓋(ふた)をして密閉し、熱が逃げないよう鍋にアルミ箔(はく)をかぶせ、火を止めてしばらく蒸す。内部に充満した蒸気でコメに火が通ったら出来上がりだ。
白飯とカレーを合わせながら盛りつけるが、このとき混ぜすぎないのがポイント。1皿にうま味の濃い部分、白いままの部分といろんな味が楽しめて食べあきない。タイ米よりさらに細長く粘りの少ないバスマティライスのふわっふわで軽い食感が新鮮だ。
もう1品、辛くてスパイシーなアジア料理でブームといわれているのが「麻辣湯(マーラータン)」だ。サンショウの舌が痺(しび)れる辛味とトウガラシの辛味を組み合わせた麻辣味の薬膳スープで、麺と具材を煮た料理である。全国の都市部で専門店が急増中で、中国資本のチェーン店も進出している。
ユニークなのは、注文の仕方。どの店も同じようなシステムで、店内には野菜や練り物、ワンタンなど50種ほどの具材が並んだ冷蔵ケースが設置され、客は好きなものをボウルに取り、1グラムが3~4円の量り売りで精算する。麺は春雨が基本だが、中華麺やとうもろこし麺などに変更でき、スープの辛さレベルも選べる。5分ほどで熱々が運ばれ、ニンニクや黒酢などの卓上調味料で味変もできる。自分好みにカスタマイズできるのが楽しい。
漢方スパイスを配合した薬膳スープはあっさりして春雨は低カロリーなことから特に健康志向、ダイエット志向の人に支持され、どの店も女性客の比率が高い。
たしかに野菜がたくさん食べられて健康にはよさそうだ。ただし、あれもこれもと具材をたくさん取ると意外にお高くなるからご用心である。
【KyodoWeekly(株式会社共同通信社発行)No.40からの転載】

















