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『ワン・バトル・アフター・アナザー』、『罪人たち』の栄冠が示すアカデミー賞の変化【コラム】

映画『ワン・バトル・アフター・アナザー』
(C) 2025 WARNER BROS. ENT. ALL RIGHTS RESERVED.
IMAX® is a registered trademark of IMAX Corporation.
Dolby Cinema® is a registered trademark of Dolby Laboratories

 それから10年。今回の授賞式でも、『罪人たち』のほかにもさまざまな「初」を目にすることとなった。国際長篇映画賞では、『センチメンタル・バリュー』がノルウェー映画「初」のアカデミー賞を受賞。歌曲賞では、『Golden』(『KPOPガールズ! デーモン・ハンターズ』)がK-POP「初」の栄冠に輝いた。また、受賞こそ逃したものの、『国宝』のヘアスタイリング&メイクアップ賞ノミネートも、日本映画「初」の快挙だった。こうして振り返ってみると、「人種差別に対する批判」という米国内の事情をきっかけに起きた変化は、元々ハリウッド映画のための賞だったアカデミー賞を、世界の映画賞へと押し上げる結果となった。長い歴史の中で、かつては一度しかなかったカンヌ国際映画祭の最高賞“パルム・ドール”とアカデミー賞作品賞の一致が、この10年の間に二度起きた(第92回/2020年の『パラサイト 半地下の家族』、第97回/2025年の『ANORA アノーラ』)ことも、それを裏付ける。

 ならばなぜ今回、人種差別問題を内包した『罪人たち』が作品賞を逃したのかということが気になってくる。だがそれも、アカデミー賞が世界の映画賞になったから、と考えると納得がいく。というのも、『罪人たち』が人種差別の歴史や宗教観など、米国の文化に深く根差した物語であるのに対して、『ワン・バトル・アフター・アナザー』は現代を舞台に、今まさに注目を集める移民排斥や白人至上主義の風潮にくぎをさす物語となっている。それゆえ、『ワン・バトル・アフター・アナザー』の方がより多くの人々に受け入れられやすく、それが作品賞受賞の一因になったと言えるのではないだろうか。(もちろん、作品賞決定の理由はそれだけではないが。)

 なお、2024年に行われた第96回からは、作品賞のノミネート資格に、多様性の条件を満たす必要があるという厳格なルールが定められている。それと直接関係あるわけではないが、『ワン・バトル・アフター・アナザー』からは、アフリカ系のテヤナ・テイラーも助演女優賞にノミネート。作品賞が発表されたとき、彼女は真っ先に監督兼プロデューサーのポール・トーマス・アンダーソンに抱き着いて、喜びを爆発させていた。また、下馬評の高さに反してノミネートを逃したアフリカ系のチェイス・インフィニティに対しては、アンダーソンが作品賞の受賞スピーチで「チェイス、あなたはこの映画の心です」と謝辞を述べていた。このふたつは、今回の授賞式で印象的だった出来事として記しておきたい。(余談ながら、授賞式でアンダーソンの隣に座っていた私生活のパートナー、マヤ・ルドルフの母親もアフリカ系であることを付け加えておく。)

 こうして『ワン・バトル・アフター・アナザー』が作品賞を含む6冠、『罪人たち』が4冠と賞を分け合ったことは、この10年、アカデミー賞が改革を続けてきたことに改めて気づかせてくれた。多様性に関して、まだまだ十分とは言えない点もあるが、こうして時代に合わせて柔軟に変化していく限り、アカデミー賞はこれからも、世界中の注目を集める映画賞として輝き続けるに違いない。そして今回、作品賞を受賞した『ワン・バトル・アフター・アナザー』は、3月27日から全国の映画館で凱旋上映が予定されている。この機会に映画館に足を運び、その真価を確かめてみてはいかがだろうか。

(井上健一)

映画『ワン・バトル・アフター・アナザー』(C) 2025 WARNER BROS. ENT. ALL RIGHTS RESERVED. IMAX(R) is a registered trademark of IMAX Corporation. Dolby Cinema® is a registered trademark of Dolby Laboratories

  • 映画『罪人たち』(C) 2025 WARNER BROS. ENT. ALL RIGHTS RESERVED.

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