高橋克典「これは吉良の物語でもあるのだと感じていただけるような芝居をしたい」 堤幸彦「『忠臣蔵』は、演劇的に言えば1丁目1番地的な作品」 舞台「忠臣蔵」【インタビュー】
-堤さんと高橋さんは高橋さんのドラマデビュー作以来のタッグと聞いています。堤さんは高橋さんの吉良上野介にどのような期待を寄せていますか。
堤 ぴったりだと思いますよ。生き馬の目を抜く芸能界で酸いも甘いも知り尽くしていますから。デビューの瞬間を見させていただいて、そこから始まっていますが、30年経って、吉良の殿様と舞台の演出家になっているというだけで私は感動しています。
-令和の今、この「忠臣蔵」を上演することに対しては、どのような思いがありますか。
堤 今だからこそということをあえて言うとすれば、現代はどこか妙に人心が浮ついているところがあります。非常に大事に考えなくてはならないことが日々、巻き起こってはいるのだけれども、しかし、どこか自分事ではないみたいなところがある。そういう時代に対して、この「忠臣蔵」も実は同じような時代かもしれない。浮ついたという表現はよろしくないが、しかし大事にしなくてはならないことが筋から少しずれている、そんな時代だったのかもしれません。そうした時代において、「家を大事にする、殿と命運を共にする」という、非常に古色蒼然とした、アナクロな世界観に身を投じるというのは明らかに今も過去も相当不思議な行動なわけです。じゃあ、それが何故300年以上も戯曲として愛され、あるいは事実として解明する人が増えているのか。そこには、何か日本人の生き方の根源、そしてエンタメに対する日本人の大元があるような気がしてならないです。そこを私自身もやりながら突き詰めたいと思っています。
高橋 忠誠心というものは、美しくもあり、非常に危険でもあります。そして、どっちサイドから見るかによっても何が真実かは変わってきます。そのあやふやさに胸をモヤモヤさせてほしいなと思います。本当にこれでいいのだろうかと。ただ単に吉良が悪者で、意地悪でムカつくじいさんという作られ方をされてきていますが、そうではないということも感じてほしいんです。今の時代はもしかしたら、古く固まっていたものに対して、何かを覆すべきときであるかもしれないし、そうしたことを画策している人がいるかもしれない。
堤 この討ち入りは、当時もスキャンダラスな事件だったと思います。浅野内匠頭は吉良上野介の額を斬りつけた。でも、それ以前に、浅野のことを知っている人はほとんどいないんです。単なる一地方の殿様であって、事件があったからこそ「誰なの、それ」ってざわざわした。でも、吉良さんのことを知っていた人はたくさんいたはずです。10年以上、京都と江戸を行ったり来たりして(職務を全うしましたし)、文献にも残っています。高家として非常に有名だった。ただ、たった一度の事件で浅野も有名な殿様になってしまった。その浮ついた感じ、これがなければ誰も知らないよというところが、今の事件にも通じるところがあると思うんですよね。形を変えた日本人論なのではないかと思います。
高橋 赤穂浪士たちの集まり方を見ても、本当にそれが大義だったのかと考えさせられますよね。盲目的に「われらの殿だ」といっていますが、本当にそこまで忠誠心があったのかなと。(浅野家は)石高を抱えていた兵のバランスはとれていたのか。たった1人の価値観で慣例を覆すには簡単にはいかない。ガマンが足りず、勝手にキレたんでしょう。
堤 あはは。もう批判してる(笑)。もう吉良になっているんだね(笑)。
高橋 筋を通さなければならないところはあるんですよ。それを教育していた係が吉良だったわけですから。
堤 そうだよね、教育はしなくてはいけない。でも、高橋さんがおっしゃったように、どちらから見るかによって変わるというのは、まさに現代にも通じることであると思いますね。
高橋 SNSに集まってきちゃった人たちのように感じるんですよ。そこでちょっとした炎上が起こって、相手の意見の方が強くなってしまった。
堤 だから吉良さんも身を引いて隠居するとなるんですよね。でも、何百年も前と今の状況が同じというのはなんとも言えないですね。もちろん情報伝達の時間は違うけれども、人のうわさやスキャンダルに対して、今もものすごく神経質で、毎日のようにそうしたニュースが走り回っているわけです。そういう意味でも、ある種、普遍性のある物語なのだと思います。
-最後に改めて公演に向けての思いと読者にメッセージをお願いします。
堤 楽しみながら、真面目に向き合っていきたいと思います。ですから、お越しになる皆さまは新たな「忠臣蔵」の一面が見られるとお考えいただいて間違いないです。このストーリーとハラハラドキドキする結末は皆さん知っていますが、それに携わる人間たちの心がぐっと迫ってくる、そういった舞台にしたいと思っております。
高橋 今まで何度も皆さんご覧になってきただろう「忠臣蔵」です。やっぱり面白いなと、何かふに落ちるものもあり、時代が変わってモヤモヤするものもあるのではないかと思います。そうしたものを全部含めて堤演出がフォーカスしてさく裂すると思うので、新しくも古くもあるこの「忠臣蔵」を、ぜひご家族、ご近所、一族郎党で劇場に足をお運びいただければと思います。決して後悔はさせません。
(取材・文・写真/嶋田真己)
舞台「忠臣蔵」は、12月12日~28日に都内・明治座ほか、名古屋、高知、富山、大阪、新潟(長岡)で上演。















