広瀬すず「この女性たちの化学反応は一体何なんだという、すごく不思議な感覚になります」『遠い山なみの光』【インタビュー】
-年を取ってからの悦子を見て、いろいろとふに落ちたところがあったと聞きましたが。
そうですね。羊さんの悦子さんを通して見ると、被爆体験にはこういう形もあるのかという痛みを突きつけられるような感じがしました。多分、人それぞれに見え方や感じ方や最後に残るものは違うと思いますが。答えがないからこそ、ぜひ見て、知っていただいて、感じていただけたらと思います。
-吉田羊さんの演技を見てどのように感じましたか。
悦子さんが30年の間に何を見て、何を考えていたのか。ニキと話している時も、ずっと相手を真っすぐに見続けている。そこに何が見えていたのかをすごく知りたくなりました。同じ役と言っても、共通認識も含めて共有することがほとんどなかったので、ほんとに作品を見てから、こういった悦子さんだったんだというのを知ったほどでした。自分が知っている自分自身の悦子さんとは全く違う人物のように感じて、その痛みが想像できたので、見る人にもストレートに届くのではないかと思いました。
-この映画も、最近の『ゆきてかへらぬ』もそうでしたが、大人の女性の役が増えてきたことについてはどう思いますか。
10代からこのお仕事をさせてもらって、本当にこの世界しか知らないので、自分の人生経験と頂く役とのつり合いが取れていないような気もします。今回も旦那さんを支える、昔ながらの夫婦の形みたいなものがありましたが、そうした経験も全くないので…。まだ学園物をやっていた方が感性が近いのですが、実際は部活なども多くは経験していないので…。自分の人生経験と合っていないと思うことが圧倒的に増えてきて、知らない世界ばかりなので、大丈夫かなと思うことが多いです。10年前は学園物や青春物の先頭にいるようなパワフルな女の子の役が多かったのですが、最近はそういう役はあまりないし、そうした変化を、面白いな、楽しいなと感じたり、今の自分はこういうことを求められているんだということが、年々変化しているのを知ることができるので、面白いのは面白いんですけど、知らない世界なので大丈夫かなと思う自分もいます。
-ではちょっと背伸びをしている感じなのですか。
特に背伸びをしているわけではないんですけど、等身大でいても、人生経験が伴っていないというか、自分が生きていく上で、道を選択することに悩んだことがほとんどないという特殊な環境にいたからこそ、主婦の役でもOLの役でも、役を身近なものとして表現する難しい作業だからこそ、最近は役をすんなりと受け入れることが減ったような気がします、それはそれで作品について考えたりする時間が増えて、楽しいのは楽しいのですけど、どうしようかなと思ってしまうこともあります。
-完成作を見た印象はどんな感じでしたか。
不思議なことに、2人の悦子さんと娘のニキと佐知子さんの顔がすごく重なって見えてきて。特に、(ニキ役の)カミラ(・アイコ)さんと二階堂さんが似ているというのもあるのかもしれないですけど、佐知子さんとニキが重なって見えて、それが佐知子さんの娘の万里子にもつながっていくと思うと、この女性たちの化学反応は一体何なんだみたいな。何か4人が重なって見えてくることが、すごく共鳴しているようにも感じられて、それが1人の人物にも見えるし、すごく不思議な感覚になりました。だからトリッキーな感じで受け取られるかもしれませんが、すごく素直に寄り添える作品でもあると思います。人それぞれに、答えも見えているものも感じるものも違うと思うので、公開されたら、いろんな人の意見や言葉を聞きたいと思います。
(取材・文・写真/田中雄二)

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