【週末映画コラム】唯一無二の女優の生涯を追った『マリリン・モンロー 私の愛しかた』/老女版のミッション・インポッシブル『テルマがゆく! 93歳のやさしいリベンジ』
『テルマがゆく! 93歳のやさしいリベンジ』(6月6日公開)

(C)Courtesy of Universal Pictures
夫を亡くし、寂しくも気楽な毎日を送る93歳のテルマ(ジューン・スキッブ)は、ある日、仲良しの孫ダニエル(フレッド・ヘッキンジャー)が事故を起こして刑務所にいるという電話を受ける。テルマは、ダニエルを助けようと1万ドルの保釈金を送金するが、それはオレオレ詐欺だった。
犯人を突き止めて金を取り返すことを決意したテルマは、旧友の老人ベン(リチャード・ラウンドトゥリー)を巻き込んで、電動スクーターに乗って大冒険に出る。
『ネブラスカ ふたつの心をつなぐ旅』(13)でアカデミー助演女優賞にノミネートされたスキッブが93歳にして映画初主演を果たしたコメディードラマ。
オレオレ詐欺に引っかかり、体が思うように動かなくなり、身内の厄介者になっていくのではと悲観したテルマが、TVに映った『ミッション:インポッシブル』のトム・クルーズに後押しされて犯人捜しを決意する。だが老人にとっては日常のささいな動きが、実行不可能にも思える。だから文字通り“老女版のミッション・インポッシブル”が展開するというわけだ。スキッブの余裕の演技と体を張ったアクションが素晴らしい。
また、スキッブに加えて、『黒いジャガー』(71)のリチャード・ラウンドトゥリーと『時計じかけのオレンジ』(71)のマルコム・マクダウェルも登場する。この老人パワーさく裂の共演も見どころだが、残念ながらこの映画がラウンドトゥリーの遺作となった。
日本でも90歳を超えた草笛光子主演の『アンジーのBARで逢いましょう』(25)が製作されたように、高齢化社会を反映したようなこうした映画が作られるのも必然なのだろう。
この映画は、長編デビューとなったジョシュ・マーゴリン監督が、自身の祖母との実体験を基に脚本を書いている。従って、祖母思いだが、社会生活に適応できずに悩む孫のダニエルは監督自身の姿を投影したもの。孫から見たおばあちゃんという視点がユニークで心が温まる。エンドロールの最後に「スペシャル・サンクス・トム・クルーズ」と出るのもほほ笑ましい。
(田中雄二)