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「特集」77歳、財布は軽く、暮らしはシンプル 美的倹約生活

小笠原洋子
エッセイスト

一日1000円生活

 今夏77歳になる私は、長年ひとり暮らしの年金生活者で、一日の食費などを千円札一枚で暮らす「一日1000円生活」を数十年続けてきました。約20年間美術関係の仕事に就いていたころから節約生活に徹し、それは趣味の域にまで達していました。
 自慢するには適さないと思いますが、すでに家族から独立した20代半ばには、一日300円生活を試したことがある筋金入りの倹約家で、その額には挫折しながらも500円、800円と金額を調整しながら今日の1000円に至りました。そもそも幼いころ、母親から自分名義の通帳をもらった私は、お金を預けると利息なるものが付いて預金額が増えるという不思議な帳面で郵便貯金の愉しみに目覚め、お小遣いはあまり使わずに郵便局へと走る子どもでした。
 今日の私は、たとえば衣類に関して言えば成人の日のお祝いに買ってもらったコートをいまだに着ています。「流行は繰り返す」などと呟きながら、そのレトロなるコートで外出しています。また母の遺したワンピースやスーツも、幸い体形が同じだったことや品質の良い品だったおかげで、なんの抵抗もなく着用しています。そんなわけで外出着は50歳以降買わなくなり、むしろ古いものを丁寧に着ることに努めています。とはいえ若い頃はそんな私でも頻繁に新品を買い求めていました。それでも外出着は、一生着られるような良質な素材を選ぶようにしてきたのです。同様に、日用雑貨、調度品なども「安物買いの銭失い」にならないよう、吟味して購入し、あとはなるべく買い足さずに、あるものの中から日常生活を賄うようにしてきました。

『財布は軽く、暮らしはシンプル。74歳、心はいつもエレガンス』 小笠原洋子著 扶桑社

「永遠の一鍋料理」

 また食生活の場合でしたら、「永遠の一鍋料理」という自慢料理に耽っていたことがあります。それはいかにして食費を限界まで減らし、しかも栄養に配慮できるかという課題にこたえる料理でした。たとえば初日に豚肉とハクサイを煮干しで煮たとすると、翌日はその鍋に鶏肉とダイコンを入れて食し、その翌日は厚揚げとキノコを入れてみる。その翌日は卵にカボチャといったふうに、おのずと出たダシと具材の変化を楽しみました。そんな具合で、私は今でもレシピ本などに載っている料理は作りません。買い置きのない食材や調味料を買い足さなければならないからです。それよりは今ある食材で、日々自己流の三食三昧です。
 ということで私の食事は、栄養配分を考慮したうえでの一汁三菜(程度)です。それでも時々レシピ本を眺めてみるのは、出来上がりのおいしそうな写真の印象を覚えておいて、似たようなものを作ってみようと思うからであり、料理本の目的は目の喜びに限られているようです。もちろんその料理本を買ったりはしませんよ。スーパーに行けば、その店発行の料理用冊子が置いてありますものね。
 なお超薄味好みの私は、ほとんど調味料を必要としないという都合の良い味覚保持者なので財布が助かります。それでも適度な塩分摂取には気を付けています。多くの場合は塩分の摂り過ぎが問題になりますが、私は逆で、ストックの食塩などは固まってしまうほど微量消費です。独り身とはいえ、醤油やマヨネーズはお弁当用の携帯用のサイズ。味噌と酢はよく買いますが、砂糖やケチャップは年に一度くらいしか買う必要がないのです。思えば貧乏暮らしに適した体質なのかもしれません。

タンスを破壊

 さてそんな私の住まいには、あまり家具などがありません。場所をとるソファや飾り棚を置くより、床面積をひろげて室内を清々しくし、卓上や棚には極力モノを置かないようにしています。というのも、私の年金受給額は4万円足らずで、購入するには貯蓄を切り崩すしか手のない生活だから、所有物も自然と少なくなるのでしょう。それでも節約を重ねながら何とか暮らしていけないかと、試行錯誤と創意工夫で、できる限りモノを買わないで、しかも「めげずに生きていく」という綱渡り生活に挑んでいます。
 たとえば20年ほど前、小さなアパートに引っ越しする際、大きめの衣装ダンスがどの入り口からも入らず、玄関前でタンスを破壊することになりました。引っ越し業者も気の毒がって、入り口に散乱した木材を無料で廃棄してくれましたが、その時以来、衣装ダンスがなくなったわけです。新たに買うことなどできません。その時、思わず片手の握りこぶしを、ハッと掌で叩いたのは、これで洋服の数を減らすことができるという思いつきでした。その後はロッカーサイズの細いタンスに収納できる分だけに、洋服を削減していきました。それでもいまだに衣類の量には頭を悩ませてはいます。

四つのR

 そんな私の、ひとり暮らし生活の心構えは、まず新たにモノを買うことよりも、必需品以外は購入を避ける「リフューズ」。次に所有物をできるだけ減らしていく「リデュース」。それから繰り返し使う「リユース」。再利用する「リサイクル」という四つのRだと言えそうです。
 リフューズについていえば、食品や日用品以外のものを、私の場合ほとんど買いません。特におしゃれ着やアクセサリーや飾り用の置き物などは、店で見かけても素通りします。それより長く着てきた衣類や装身具を、新たなコーディネーションで身に着けてみたり、捨てがたい記念の品を、同じ棚に飾りっぱなしておくだけでなく、新たな場所に展示しなおしてみたりしてきたからかもしれません。それが新品は買わないということにもつながります。
 私がいちばん要らないと思うのは、思い出の品や旅のお土産品です。また用途の少ない調理具や食器、読み終えて置いてあるだけの書籍や、もう一度見るかもしれないと思って取ってあるような雑誌などで、それらは迷わず捨てます。

買わないことを愉しむ

 そのかわりに商品に付いてくる包装用材などを、私はリユースしています。おかげで輪ゴムや接着テープ、ひも類は買わずに済みます。チューブ入り調味料や粉末スープなどが入った薄手の紙箱は、案外たまるものなので、加熱用食材のまな板代わりなどに使ってから気持ちよく捨てることにしています。
 また豆腐や味噌、モズクなどが入っているプラスチック容器は洗浄して、必ずボウル代わりに使ってから廃棄します。調理台に置いておけば、たとえば洗ったイチゴやキウイなどを載せるのに役立ちますし、少量のお菜を次の食事まで短時間冷蔵庫に入れておくのに便利です。チラシなど薄い紙も、キッチンの手近な所に置いておくと、冷蔵前の野菜を包んだり、調理前の生臭いものなどを載せたりするのに役立ちます。
 なおリサイクルといえば、生活のよき補助役ですが、安いからといって買い集めない方がいいでしょう。節約とはダイエットと同じで、がんばりすぎると失敗します。安いものだけをたくさん買うのは、コンニャクばかり食べて不調に陥るのに似ています。
 このように私は、モノをできるだけ「買わないこと自体を愉しむ」ことを節約の原点としてきました。またいつまでも取っておいて宝の持ち腐れにならないように、気が付いた時点で潔く処分することも大事です。反対にどうしても必要なものは特別大事にあつかって繰り返し使ったり、再利用のアイデアをひねりだしたりすることこそ、思いのまま為せる、ひとり暮らしならではの生活スタイルではないでしょうか。

ワタシギャラリー

 断捨離という言葉が流行るずっと前に私は『ケチじょうず』(ビジネス社)という本を出しましたが、この本の副タイトルは「美的倹約暮らし」であり、現在所持しているモノだけを最大限活用して、豊かな生活環境を作り出すという趣旨です。
 所有物の氾濫を抑制することによって得る、精神性を探索してきたつもりです。時代錯誤の清貧生活と思われるかもしれませんが、モノを増やしたがらない性癖や、今あるモノだけを使いこなす暮らしに、私は爽快感を抱いているのです。
 それでも神経がすり減ってしまわない程度の豊かさは必要でしょう。たとえば私の住まいは築30年の古い団地ですが、単身者には部屋数が多いので、使わない1部屋が物置にならないよう「ワタシギャラリー」と名付けています。それまで押し入れに入れたままだった美術品などを並べて、私はこの部屋を展示室として愉しんでいます。

写真:小笠原さんの部屋

私の「生き応え」

 それにしてもこの物価高!私の預金も底を突き始めているようですが、それでもなお余剰が出ることもあるのは驚きです。そのときは思い切って使ってみる。しかしよくよく考えて使う。それが私の遊びです。欲しいモノには限りがありません。いったん「買う」という行為を全面否定して、モノにそっぽを向き、その厳しさに内なる炎を燃焼させながら人生を見つめたいのです。
 「生き応え」という言葉が好きです。パートで働くこともなく、足腰の痛みが家事にブレーキをかけるようになった今、私にできる仕事はそんな日々の生活を「嘆かない」ことです。人さまに迷惑をかけずに、なるべく健康的なひとり暮らしをすることは、高齢の私にとって「生き応え」のある仕事かもしれません。

エッセイスト 小笠原洋子(おがさわら・ようこ) 1949年東京都生まれ。東洋大学文学部卒。京都で日本画、現代陶芸を扱う画廊に勤務。その後東京に移り、弥生美術館、竹久夢二美術館で学芸員、成蹊大学非常勤講師を勤める。退職後、美術エッセイストとして新聞や雑誌への寄稿などで活躍中。著書に『おひとりさまのケチじょうず』『ケチじょうずは捨てじょうず』(ともにビジネス社)など。

(Kyodo Weekly 2026年7月13日号より転載)

  • 小笠原洋子 エッセイスト
  • 『財布は軽く、暮らしはシンプル。74歳、心はいつもエレガンス』 小笠原洋子著 扶桑社
  • 写真:小笠原さんの部屋

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