湿布の正しい使い方を知っていますか?痛みだけで貼り続けると症状悪化の危険性も
■湿布を貼り続けるのは危険!?
日本人は、何かあると湿布を貼る傾向にあります。古くから膏薬(こうやく)を使っていた習慣が残っているからだと思われます。一方で欧米人には湿布を貼る習慣がありません。湿布を貼るコマーシャルを見ても、その気持ちが理解できないという話を、よく聞きます。
患者さんに湿布を貼り始めたきっかけを尋ねると、自分で湿布を使用し始めた人は、「痛みがあったから」という答えが圧倒的です。
湿布を貼ると、痛みが一時的に軽くなるか消失します。一度その経験をすると、痛みがあるとすぐ貼りたくなるようです。湿布の効能が切れると、再び痛みが出てくるので貼り直します。湿布を貼る頻度が、一日1回から2回、3回と増え続け、最終的には常時貼り続けているという人も少なくありません。
この繰り返しをどのくらい続けたのか尋ねると、短い人で約2週間、長い人は約2年です。もしかしたら、聞いたことがないだけで、もっと長く貼っている人がいるかもしれません。患者さんに湿布を貼っている期間を尋ねると、長年の臨床経験から勘案して平均3か月くらいのように感じます。
湿布を貼り続けた人が来院した際の理由を伺うと、「痛いところに湿布を貼り続けても、痛みが取れないどころか悪化してきた。」と、多くの人がおっしゃいます。この時点で来院される人は、鍼灸治療をすることにより、早い段階で痛みの消失が可能です。
湿布を貼り続けても痛みが取れない人は、鎮痛薬を飲み始める傾向にあります。一日1回の服薬が、2回、3回と増え続け、朝、昼、夕、寝る前の4回へとエスカレートします。数か月から年単位で服薬を続けると、肝臓や腎臓に障害を及ぼし始めます。最初に痛かったところ以外に様々な症状を抱えることになります。東洋医学・医療に目を向けて来院される人も少なくありません。この時点が内臓の器質疾患に移行する前であれば、鍼灸治療をすることにより、痛みの消失が可能です。
■痛みの症状だけで冷湿布を貼るのは厳禁!?
湿布には冷湿布と温湿布があります。冷湿布は、炎症があるとき有効です。
炎症とは、
1.疼痛
2.腫脹
3.熱感
4.発赤
を伴う時を言います(炎症の四徴)。 (『病気がみえる Vol6 免疫・7 免疫・感染症』10頁参照)
骨折や脱臼等の急性期には、まさしく炎症を起こしている時なので、冷湿布を約6時間貼ります。場合によっては、24時間冷却します。
しかしながら、痛みがあるだけでは炎症を起こしているわけとは言えないので、冷湿布を貼ることは得策ではありません。炎症が起きていないのに、痛いというだけで冷湿布を貼ると、貼った部分は冷たくなるため血管が収縮します。それが長時間になると血行が悪くなります。また、鎮痛成分が入っている湿布や塗り薬は、鎮痛薬を服薬していることと同じですので、神経の伝達は低下することが考えられます。
そもそも痛みは、からだの不調を教えてくれるサインです。同時に、元の正常な状態に戻りたいという力=整体力が働くときでもあります。痛みがある場所に冷湿布を貼り続けることは、この整体力を低下させることになります。
冷湿布は、炎症を起こしておらず、痛みがあるだけの時に貼ることは、厳禁(Not Good)だと考えます。
■温湿布を痛みの症状だけで貼るのは注意が必要!?
痛みを軽減するために「罨法治療」を行うことがあります。日本薬学会のホームページには、「罨法(あんぽう)とは、患部に温熱(温罨法)または寒冷(冷罨法)の刺激を与えて、炎症や充血、疼痛を緩和し、病状の好転、患者の自覚症状の軽減をはかる治療法。」とあり、下記を紹介しています。
冷罨法
乾性冷罨法・・・水枕、氷嚢、CMC製品(アイスノンⓇ)など
湿性冷罨法・・・冷湿布
温罨法
乾性温罨法・・・電気あんか、湯たんぽ、カイロなど
湿性温罨法・・・温湿布など
冷湿布や温湿布は、「疼痛を緩和し自覚症状の軽減をはかる」ことが出来ます。しかしながら、炎症以外で使用するときは、使い方を理解する必要があります。
冷湿布ではなく温湿布の方が良いのかと思い、ぎっくり腰に温湿布を貼り続ける人がいます。温湿布は冷湿布同様に、貼り続けると、血行不良や神経機能の支障を起こします。あったかいと血行が良くなったと錯覚しますが、火に当たった後火から離れると寒くなるのと同じで、温め続けると貼っている部分に血液が流れ込まなくなります。冷湿布同様、元の正常な状態に戻りたいという力=整体力が低下しますので、次第に痛みが強くなり、動けなくなる確率が高くなります。
■冷罨法・温罨法療法を効果的に行う方法とは?
痛みがあるとき、それが炎症に発展するのか、はたまた内臓疾患があって痛みが出ているのかを判断することは、医学知識がない人には難解です。私が長年の臨床経験から考え、日頃患者さんに伝えている方法を、紹介します。
(冷罨法の一方法例)
1.患部に患者さんが少し冷たいと感じるくらいの冷やしたタオル(4℃程度)を当てます。冷たさを感じなくなったら取り除きます。当てている時間は人によりますが、60秒くらいです。4℃は発熱しておでこを冷やす時にも有効な温度です。
2.タオルを取り去ったあと、患部が体温に戻る程度の間(ま)(10秒ほど)をおきます。患部に手を当てて冷たさを感じなくなったら再び冷たいタオルを当てます。その際、患部が熱を帯びたら間を開けすぎです。2度目は、早く冷たさを感じなくなります。当てている時間は40秒から50秒くらいです。
3.再びタオルを取り去ったら、患部が体温に戻る程度の間(ま)(20秒ほど)をおきます。患部に手を当てて冷たさを感じなくなったら再度冷たいタオルを当てます。その際、患部が熱を帯びたら間を開けすぎです。3度目は、より早く冷たさを感じなくなります。当てている時間は30秒から40秒くらいです。
4.3回終わったら、乾いたタオルで水分を拭きとります。
冷罨法治療が終わったら、しばらく安静にして痛みの変化を待ちます。この処置法は、痛みが軽減または消失する確率が高い方法だと思っています。
上記時間の長さは、決まっているわけではありません。イメージしやすいように、あえて書いています。実際の長さは、ケースバイケースです。いずれにしても、全体では、3分程度の処置というイメージです。
(温罨法の一方法例)
1.患部に患者さんが少し熱いと感じるくらいの蒸しタオルを当てます。熱さを感じなくなったら取り除きます。当てている時間は人によりますが、30秒くらいです。
2.タオルを取り去ったら、間髪入れずに別の蒸しタオルを当てます。2度目は、早く熱さを感じなくなります。当てている時間は20秒から25秒くらいです。
3.タオルを取り去ったら、再度間髪入れずに別の蒸しタオルを当てます。3度目はさらに早く熱さを感じなくなります。当てている時間は15秒から20秒くらいです。
4.3回終わったら、乾いたタオルで蒸しタオルを当てた部分の水分(汗)を拭きとります。
温罨法治療が終わったら、しばらく安静にして痛みの変化を待ちます。痛みが消失する確率は高い処置法です。
上記時間の長さは、冷罨法の処置法同様決まっているわけではありません。いずれにしても、全体で3分程度の処置というイメージです。
温罨法治療は、からだに疲労を感じているときに有効です。また発症してから2週間以上経過している慢性期に使用します。
紹介した方法は、冷湿布や温湿布のように、鎮痛作用の薬が入っていなくても、疼痛の解消に有効です。
■外傷直後の効果的な適切な冷却方法とは
骨折の場合は、受傷後10~15分経過する頃には強い痛みが出てきます。脱臼・捻挫・挫傷の場合は、変形や運動障害が出ます。打撲をした場合は、痛みがなかなか引きませんので、いずれも専門医の受診が必要です。
怪我をした後、氷でガンガンに冷やす人がいます。一見よさそうですが、冷やしすぎると生体反応が悪くなります。そのため、その状態で来院した際は、骨折部位や損傷部位がよく分かりません。また、冷やしすぎると予後が悪い印象です。
私は、外傷直後の処置として、4℃程度に冷やしたタオルを患部に当てるよう、提案しています。タオルを水で絞り冷蔵庫に入れます。パーシャル機能があると、もっとも4℃に近い温度になりますので、すぐそこに入れてみていただきたく思います。患部は炎症が起きていますので、熱を帯びています。4℃くらいで冷やすと、程よく冷やされ、痛みが治まります。冷却しすぎると、寒気が出て、震えが生じます。4℃程度のタオルはからだを冷やし過ぎないので、全身状態が低下せず、寒気は起きません。骨折や脱臼の場合は、その状態を保ちながら、来院していただく様に伝えています。
痛みが出て、局所が熱くなり、赤みを帯び、腫れているときは、冷やしたタオルを紹介した方法で3回当てると、痛みの軽減に役立ちます。当てている時間は少し長い方が良いと思います。冷たさを感じなくなるには、体温の高さや室温にも左右されます。自分の感覚に従って、長さを決めるようにしていただきたく思います。
■痛みの消失に鍼灸治療は最適です
痛みが出た時、上記冷罨法や温罨法治療を試しても痛みが引かない時は、東洋医療をご検討いただきたく思います。外科手術(外科治療)で効果を得られない人や薬物治療(内科治療)を回避したい人は、内外科治療である鍼灸治療が最適です。痛みが出たら、出来るだけ早く鍼灸治療を受けていただきたく思います。
痛みを引き起こしにくい体づくりには、ヨガ(YOGA)がお勧めです。ヨガ(YOGA)の運動法と呼吸法を身に付けることによって、丈夫な心身を獲得できます。また、日常生活を見直すことで、健康の維持向上に役立ちます。清野が呼称する養正(ようせい)治療は、日常の適正な生活です。詳しくお知りになりたい方は、清野鍼灸整骨院ホームページ「くらしと養生」をご参照願います。
<筆者略歴>

清野 充典:鍼灸師 1982年、西洋医学を理解した東洋医学者の育成を目指し世界で初めて設立された鍼灸医学専門教育機関「明治鍼灸短期大学(現明治国際医療大学)」鍼灸学部を卒業。1987年2月2日、東京都調布市で清野鍼灸整骨院を開院。明治国際医療大学客員教授、早稲田大学特別招聘講師等歴任。
「鍼灸を国民医療」にすべく、東京大学、早稲田大学、順天堂大学等の日本国内を始め、海外の様々な大学や医療機関の人たちと研究を進めている。
1991年には、東京都府中市で分院の清野鍼灸整骨院府中センターを開設。1985年から清野メディカルヨーガ/清野ヨーガ道場を主宰し、保健活動を行っている。毎週木曜日に「ヨーガ教室」を開催して、多くの人に東洋医学に基づいた健康管理方法を伝えている。
清野 充典:鍼灸師
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