【スズキナオのグルメルポ】いりこ:第3回 大阪空堀の文学な建物でいりこに浸る
「橋の湯食堂」の料理には、昆布とかつお節、そしていりこを合わせてとっただしが使われているという。橋本さんによれば、もともとは昆布とかつお節だけでだしをとっていたのだが、高価な昆布を使っていたため、リーズナブルな価格で定食を提供し続けていくのはかなり大変だった。そこで空堀商店街にある老舗「こんぶ土居」(創業120年以上の市老舗で、「橋の湯食堂」で使う昆布はここから仕入れている)に相談したところ、「いりこを使ってみては?」と提案してもらったのだという。
――いりこを使うとコストが抑えられるんですか?
「いりこでだしの味を補うことで、全体のコストを抑えられるんです。ただ、それでだしの質を落とさないためには、いりこの品質が重要で、臭みがないものでないとだめなんです。『やまくに』のいりこは臭みがないので」
――なるほど、そこが大事なんですね。
「最初は別のいりこを使っていたんですけど、一度『やまくに』のいりこを使ってみたらすごくよくて、それからはずっとですね。一度、おっちゃん(「やまくに」の中心人物・山下公一さんの愛称)のところに行ったこともあるんですよ」
――おお。香川県まで見学に行かれたんですか?
「伊吹島の漁も見せてもらいたかったんですけど、その時は天候が悪くて、残念ながら漁はやっていなかったんです。ただ、加工の現場は見せてもらって、おっちゃんとも話せて、面白いおっちゃんやなと(笑)。『やまくに』のいりこがいいというのはもともと聞いてはいたんですけど、実際に会って話せたのもきっかけとして大きかったですね」
――他のいりことはやはり違うものなんですか?
「やっぱりおいしいですね。うまみが増すというか、濃くなるというか。処理を丁寧にしてくれているので、使う時が楽なんですよ。こっちでは何もする必要がなくて、そのまま水につけて使えるのがありがたいんです」
――そのだしはお店のお料理全般に使われているんですか?
「そうです。うちのだしの基本は昆布とかつおといりこなんです。だしをとった後の“だしがら”はふりかけにしていて、完全に使い切ってますね」
――いりこのおいしさを思いっきり感じられる料理があればいただきたいです!
「たまに出しているメニューなんですけど、『やまくにいりこの南蛮漬け』と『やまくにいりこと昆布のみぞれ和え』ですね。だしの感じがはっきり出るおひたしやおみそ汁もおすすめです」
――ありがとうございます。それをいただきたいです。
まずは、だしがらを使った「やまくにいりこの南蛮漬け」と「やまくにいりこと昆布のみぞれ和え」をいただくことに。だしがらとはいえ、いりこには複雑なうまみがしっかりと残っていて、歯ごたえもいい。ほろ苦さもあって、お酒のおつまみにもぴったりな味わいだ。

「やまくにいりこの南蛮漬け」(左)と「やまくにいりこと昆布のみぞれ和え」
橋本さんいわく「だしがらには栄養もたっぷり詰まっているんですよ」とのこと。食べれば食べるほど元気になるおつまみ。最高である。
こんな風に、だしがらをそのまま食材として扱うこともあるが、だしをとった昆布とかつお節といりこを使い、水気を切って冷凍して細かく砕いた後、しょうゆとみりんと一緒に煮てふりかけを作り、お昼の定食にも添えているという。臭みがまったくないこともあり、子どもにも大人気の味らしい。ご飯に乗せて味見させていただいたのだが、このふりかけをそのまま商品化してほしいほど、香ばしくてご飯が進む味わいだった。
だしのきいた「菜の花のおひたし」もおいしかったし、何より、締めにといただいたおみそ汁が絶品だった。国産の材料だけで作られた秋田の「天狗味噌」とだしを合わせたお味噌汁には、いりこの風味がしっかりと感じられた。