オール電気めっきで超薄型パラジウム水素分離膜を高耐圧化
高価なパラジウムの使用量を抑え、水素透過性と耐差圧性を両立
ポイント
・ 高純度水素の供給に貢献する高性能で低コスト化につながるパラジウム水素分離膜を開発・評価
・ 約1.5 µmの薄いパラジウム層を、空孔率を制御した多孔質ニッケル支持体で支え、高い圧力差に耐える構造を実現
・ オール電気めっきプロセスによる新しい製造法を、大面積化・量産化に向けた有力手法として提示
概 要
国立研究開発法人産業技術総合研究所(以下「産総研」という)再生可能エネルギー研究センター 遠藤 成輝 主任研究員は、株式会社山王(以下「山王」という)と共同で、電気めっき法を用いて、厚さ約1.5 µmのパラジウム(Pd)層と多孔質ニッケル(Ni)支持体を一体化した、自立型のパラジウム/多孔質ニッケル複合水素分離膜を開発し、その性能を評価しました。
高純度水素は、半導体の製造工程、燃料電池、化学プロセスなどで利用される重要なエネルギー媒体・原料です。こうした用途で高純度な水素を供給するためには、水素を他のガスから効率よく分離し、高純度化する技術が必要になります。パラジウム膜は水素を選択的に通す性質を持つため、有望な水素分離膜として研究開発が進められています。一方で、パラジウムは高価な貴金属であり、膜を薄くして使用量を減らすことが求められます。しかし、薄い膜は圧力差で破損しやすいため、低コスト化と信頼性の両立が課題でした。
今回、薄いパラジウム層と多孔質ニッケル支持体を全て電気めっきで形成し、両者を一枚とした複合水素分離膜を開発しました。多孔質ニッケル支持体が水素の通り道を確保しながら薄いパラジウム層を支えることで、厚さ約1.5 µmのパラジウム層でも、400 ℃、0.75 MPa(7.5気圧)の差圧に耐え、有効直径7.1 mmの膜で1分あたり 150 cm³を超える水素流量を示しました。本成果は、高価なパラジウムの使用量を抑えつつ、高い水素透過性と耐差圧性を両立できることを示すもので、水素精製装置や膜反応器の低コスト化・高性能化に貢献すると期待されます。
なお、この技術の詳細は、2026年9月2日に「International Journal of Hydrogen Energy」に掲載されました。
下線部は【用語解説】参照
研究の社会的背景
高純度水素ガスは、半導体の製造工程、燃料電池、化学プロセスなどで利用される重要なエネルギー媒体・原料です。こうした用途で高純度な水素を供給するためには、水素を他のガスから効率よく分離し、高純度で供給する技術が必要になります。パラジウム膜は、水素だけを選択的に通す性質を持ち、高純度水素を連続的に取り出せる小型・省エネルギーな分離技術として期待されており、パラジウム膜の高性能化と低コスト化が重要な開発課題となっています。
パラジウム膜を用いた水素精製では、水素を含むガスを膜の片側に加圧して供給し、膜の両側に生じる圧力差を利用して水素を取り出します。そのため、分離膜には水素をよく通す性能だけでなく、圧力差に耐えてガスシール性を保つ機械的な強さが求められます。
一方で、パラジウムは高価な貴金属であるため、実用化に向けては使用量を削減しながら性能を維持することが課題となっています。膜を薄くすると、パラジウムの使用量を減らせるだけでなく、水素透過性能も向上します。しかし、薄膜化に伴い、圧力差や加熱・冷却の繰り返しによる破損が生じやすくなります。そのため、低コスト化につながる薄膜化と、実用化に必要となる耐久性・信頼性を同時に満たす膜構造の研究開発が行われています。
中でも、パラジウム薄膜と多孔質支持体を組み合わせた構造の開発は、パラジウム水素分離膜を実用化する上で重要な開発テーマの一つです。この構造では、多孔質支持体が水素を含むガスの通り道を確保しながら、薄いパラジウム膜を機械的に支えます。従来は、多孔質支持体の材料として、主にセラミックスやステンレスなどが検討されてきましたが、成膜工程が複雑になりやすいことや、薄いパラジウム膜に欠陥が生じやすいことが問題でした。
研究の経緯
産総研はこれまでに、パラジウムを用いた水素分離膜の研究開発において、電気めっきによるワンステップPdCu合金膜、単層純パラジウム膜、および多孔質ニッケル金属支持体を用いた分離膜の研究成果を報告しています(参考情報(1)〜(3))。一方で、パラジウム膜の薄膜化を進めるには、水素を通しやすく、かつ薄い膜を支える支持体との一体化が重要です。今回、これらの要素技術を組み合わせ、厚さ約1.5 µmの超薄型パラジウム層と多孔質ニッケル支持体を一体化した自立型複合膜を開発・評価しました。本研究では、山王が膜の成膜および実験データの取得を担い、産総研が得られたデータに基づく性能解析と考察を行うことで、膜構造と性能の関係を明らかにしました。
研究の内容
本研究では、電気めっき法を用いて、厚さ約1.5 µmのパラジウム(Pd)層と多孔質ニッケル(Ni)支持体を一体化した、自立型のパラジウム/多孔質ニッケル複合水素分離膜を開発しました。Pd層は水素のみを選択的に通す役割を担い、多孔質Ni支持体は水素の通り道を確保しながら、極めて薄いPd層を機械的に支える役割を担います。
今回の成果のポイントは、高価なPdの使用量を抑える薄膜化と、実用上重要となる耐差圧性を両立した点です。空孔率約30 %の多孔質Ni支持体を用いた膜では、ヘリウムリーク試験で明確な漏れは確認されず、ガスシール性を維持しました。その上で、400 ℃、差圧0.75 MPaの条件で、有効直径7.1 mmの膜において1分あたり150 cm³を超える水素流量を示しました。
本研究では、薄いPd層を先に形成し、その上に多孔質Ni支持体を重ねる製膜プロセスを用いました。特徴は、水素を選択的に通すPd層と、それを機械的に支える多孔質Ni支持体の両方を電気めっきで形成する「オール電気めっき製膜」により、自立型のPd/多孔質Ni複合膜を作製した点です。電気めっき法は、膜厚や析出量を制御しやすく、異なる金属層を連続的に形成できるため、超薄型Pd層と多孔質Ni支持体を一体化した複合膜の作製に適しています。また、平板状の導電性基板上に必要な金属層を順次形成する工程であるため、基板サイズやめっき槽を拡大することで大面積膜の作製に展開しやすく、量産化を見据えた製造方法としても有望です。
具体的には、まず平滑なステンレス基板上に、緻密なPd層を電気めっきで形成しました。次に、そのPd層の上に、水素の流路と機械的な支えを兼ねる多孔質Ni支持体を電気めっきで形成しました。最後に基板から剝離することで、Pd層と多孔質Ni支持体が一体化した自立型複合膜を得ました。
さらに、多孔質Ni支持体の空孔率を変えた複合膜を作製し、水素透過性と耐差圧性の関係を調べました。一般に、空孔率を高めると水素の流路は増える一方、支持体の機械的強度が低下する可能性があります。本研究では、作製した膜の比較評価により、空孔率約30 %の支持体が、薄いPd層を支えながら水素を多量に通す構造として有効であることを確認しました。
研究グループがこれまでに報告した厚さ5 µmの単層純Pd膜(有効直径7.1 mm)は、0.3 MPaの差圧に耐えられませんでした(参考情報(3))。これに対し、今回開発した複合膜はPd層を約1.5 µmまで薄くしながら、0.75 MPaの差圧に耐えられました。また、400℃、0.75 MPaの差圧下で1分あたり150 cm³を超える水素流量を示しました(図3)。さらに、ヘリウムリーク試験で明確な漏れは確認されず、ガスシール性を維持しました。このように、薄いパラジウム層でありながら高い差圧下でガスシール性と水素透過性を維持できる点は、水素精製装置への応用を見据えた上で重要な性能です。
今後の予定
今後は、実用条件に近い混合ガスでの水素分離性能、共存ガスによる影響、長時間使用時の耐久性を評価し、水素精製装置や膜反応器への応用に向けた膜構造と製造プロセスの改良を進めます。
論文情報
掲載誌: International Journal of Hydrogen Energy 272 (2026) 157351
論文タイトル:Electroplated Ultrathin Pure-Pd/Porous Ni Composite Membranes with High Hydrogen Permeation and Enhanced Pressure Resistance
著者:Naruki Endo, Norikazu Dezawa, Yasuhiro Komo
DOI:https://doi.org/10.1016/j.ijhydene.2026.157351
用語解説
電気めっき
金属イオンを含む溶液中で電流を流し、基板表面に金属を析出させて膜や層を形成する方法である。量産化に向き、膜厚や析出量を制御しやすい特徴がある。
多孔質ニッケル支持体
多数の小さな孔を持つニッケル製の支持体である。水素を通すための流路を確保しながら、薄いパラジウム層を機械的に支える役割を担う。
パラジウム膜(パラジウム水素分離膜)
パラジウムが水素を選択的に通す性質を利用し、水素を含むガスから高純度の水素を取り出すための膜である。金属系水素分離膜の代表的な材料の一つであり、水素精製装置や膜反応器などへの応用が期待される。
耐差圧性
膜の両側に圧力差がある状態で、破損やガス漏れを起こさずに形状と機能を保つ性質である。水素分離膜を実際の装置で使う上で重要な性能である。
参考情報
[1] N. Endo, S. Yaegashi, T. Maehata, M. Kumakawa, S. Suzuki, K. Mashiko, and T. Maeda, “High thermal stability and flexibility of thin porous Ni metal support prepared by electroplating deposition for Pd alloy membranes,” Materials Transactions, 58, 1093–1096 (2017).
[2] N. Endo, Y. Furukawa, K. Goshome, S. Yaegashi, K. Mashiko, and T. Maeda, “Characterization of mechanical strength and hydrogen permeability of a PdCu alloy film prepared by one-step electroplating for hydrogen separation and membrane reactors,” International Journal of Hydrogen Energy, 44, 8290–8297 (2019).
[3] N. Endo, Y. Kaneko, N. Dezawa, Y. Komo, and M. Higuchi, “Collectable single pure-Pd metal membrane with high strength and flexibility prepared through electroplating for hydrogen purification,” Inorganics, 11, 111 (2023).
プレスリリースURL
https://www.aist.go.jp/aist_j/press_release/pr2026/pr20261015/pr20261015.html


















