「特集」改正公益通報者保護法12月施行 見落とされがちな大きな変化

奥山俊宏
上智大学教授
公益通報者保護法を強化する改正法と改正指針が、ことし12月1日に施行される。常時使用する労働者が300人を超える事業者は、内部通報への対応だけでなく、この改正により、外部の行政機関や報道機関に対する公益通報への対応にも一定の義務を負うことになる。
外部への公益通報がなされたとの「可能性」を認識したなら、それら外部通報についても、「調査が必要な場合」に当たるか否かを判断しなければならず、場合によっては、組織のトップら幹部から独立した調査を義務付けられる。通報者の探索はもとよりご法度。事業者の体制に小さくない影響を与えそうだ。
法改正の全体像
正当な内部告発を一定の要件下で法的に保護しようとする公益通報者保護法は、2004年に制定され、06年に施行された。企業、団体、地方自治体を含め全ての事業者が対象で、公益通報を理由とした労働者への不利益な扱いが禁じられている。
20年に初めての改正が実現し、22年に施行された。これにより、常時使用する労働者の数が300人を超えるすべての事業者に新たに体制整備などの措置義務が課された。
25年6月には再度の改正法が成立・公布された。▽公益通報を理由とした違法な解雇や懲戒に6月以下の拘禁刑など刑事罰(法人には3千万円以下の罰金刑)を科し、▽公益通報から1年以内の解雇と懲戒について、民事訴訟上、「公益通報を理由とし」の立証責任を労働者側に有利となるように事業者側に転換し、▽事業者と業務委託契約の関係にあるフリーランスを対象に加える―といった内容でこの12月に施行される。
これまでさほど注目されておらず、見落とされがちではあるものの、新たな改正のうち、企業や自治体の通報対応の実務に特に大きな影響を与えそうな義務の拡充がある。それは、事業者内部の労働者や役員から外部の行政機関や報道機関に公益通報がなされた可能性について、通報された側の事業者が把握した場合の「とるべき措置」である。
指針改正で「事業者がとるべき措置」拡充
現在、300人超の従業員がいる全ての事業者は、公益通報者保護法11条により、「事業者がとるべき措置」を義務付けられている(300人以下の事業者は努力義務)。その「措置」の具体的な内容は、内閣府告示の法定指針で示されている。
その柱の一つは、内部公益通報について、①窓口で受け付けて、②必要な調査を実施し、③是正に必要な措置をとる―、これら3つの業務、すなわち「公益通報対応業務」を行う部門横断的な体制を整備する義務だ。そして、これら3業務に関して、事業者は、「組織の長その他幹部からの独立性の確保に関する措置」や「利益相反の排除に関する措置」を義務付けられている。
この部分が改正され、義務が拡張される。すなわち、ことし3月31日に告示された改正法定指針が12月1日に施行されると、この義務が、窓口に寄せられた内部公益通報だけでなく、それ以外の公益通報への対応にも及ぶことになる。
現在、「独立性の確保」や「利益相反の排除」といった措置が事業者に義務付けられるのは、事業者で勤務する労働者や役員から事業者の窓口に寄せられた内部公益通報への対応についてのみだが、この改正によって、それ以外の、窓口を経由しない上司への内部公益通報、そして、行政機関や報道機関に対する公益通報への対応についても、「調査及び是正等の対応が必要な場合」には、同様の措置義務が及ぶ。すなわち、「必要な調査」と「是正に必要な措置」の実施、それにあたっての「独立性の確保」と「利益相反の排除」が新たに義務付けられる。
これら公益通報対応にあたっての義務とは別に、もともと現行の法定指針で既に「通報者探索の防止に関する措置」や「公益通報を理由とした不利益な取扱いの防止に関する措置」が従業員300人超の事業者に義務付けられている。これにより、内部通報か外部への通報かを問わず、公益通報の全般について、公益通報したのが誰なのかを正当な理由なく探索する行為は実質的に禁じられている。この「通報者探索の禁止」が12月以降は法律にも明記され、その結果、300人以下の事業者にも禁止が及ぶ。
兵庫県問題が浮き彫りにした公益通報対応の課題
今回の改正によって是正が図られようとしている問題点を先行して浮き彫りにしたのが、2024年以来の兵庫県の対応だ。
24年3月、兵庫県の斎藤元彦知事の不行状が書き連ねられ、報道機関の記者や警察、県議会議員ら10の先に郵送された匿名の文書の作成者について、兵庫県当局者は、複数の職員のメール履歴を調べるなどして探索し、60歳の県職員と特定した。斎藤知事はその属性を「西播磨県民局長」と公表し、公の場でその職員に「公務員としては失格」の烙印を押した。それだけでなく、その文書の内容についての調査にあたって、知事からの独立性を確保せず、利益相反を排除しなかった。県職員は24年7月7日、「一死をもって抗議をする」との言葉を残して亡くなった。
後に兵庫県が設けた第三者調査委員会は、事業者が〝公益通報〟の該当性のある文書の作成・配布行為を〝偶然〟に知った場合に、文書内容に利害関係のある者がその調査をしてはならないことは、公益通報者保護の観点、適正手続き保障の観点から明らか―と指摘し、「この点における県の対応は、法律及び指針の趣旨に反するものであって、極めて不当であった」と批判した。「当初から利害関係者が関与し、違法な通報者探索行為を行ったこと」についても、第三者委は、その違法の程度は極めて大きいと県を非難した。
ことし12月に施行される法定指針改正の内容は、兵庫県の第三者委が「明らか」と指摘した通報対応の規範を、より明確なルールとして位置付けたものとみることができる。

奥山俊宏『兵庫県告発文書問題』岩波書店、2025
公益通報か不明確な場合
この結果、前述したように、ことし12月1日以降、事業者は、内部公益通報だけでなく、行政や報道に寄せられた公益通報についても、「調査が必要」と判断される場合には、独立性を確保した調査を義務付けられる。
指針改正にあたって、所管の消費者庁が25年11~12月に意見を公募したところ、ある疑問が提起された。
「そもそも『内部公益通報以外の公益通報』が現になされたという情報をどんな方法で把握すればよいのか?」
この疑問に対し、消費者庁は26年3月31日、意見公募の結果を公表し、その中で次のように答えた。
「内部公益通報以外の公益通報がなされたこと(その可能性がある場合を含む。)を認知する端緒としては、一般的に、行政機関による調査の実施や報道機関による報道等が考えられます」
たとえば、行政機関による調査が行われたり、報道があったりした際に、事業者内部の労働者らしか知り得ない事情が行政や報道の側に把握されていることが判明した場合、事業者は、行政や報道に公益通報がなされた「可能性」を把握することができ、一定の場合には、調査の実施を義務付けられる。
他方、行政や報道が公益通報の存在を完全に秘して調査や取材を進めているがために、事業者として、公益通報があったと認識できないような場合には、「通報対象事実についての調査及び是正等の対応が必要な場合」に該当すると判断すべき状態には立ち至っていないといえる。そうした場合には、調査が義務付けられるとまではいえない。ただし、そうであっても、「公益通報か否か不明の場合」には、「法令遵守の観点から慎重に判断し、公益通報であることを前提として慎重に取り扱っていただく必要」があるというのが消費者庁の見解だ。
報道の取材や行政の調査を受けたら
従来、報道機関の記者から事業者に対し、〝報道機関への公益通報〟を根拠として問い合わせがあった場合、事業者側はこれにどのように答えるか答えないか、社内調査をするかしないかは、法的には自由だった。実際、広報部を通じて記者が質問を送っても、社内調査をしようとせず、返答を拒否する事業者も少なくなかった。このように、臭い物に蓋をしようとする態度が当たり前に見られた。これに対して、ことし12月の改正により、「必要な調査」が事業者に義務付けられる場合があり得ることになる。
ここで、「調査が必要な場合」に該当するかどうかは、第一義には事業者が判断することになる。だから、調査は不要との判断を従来通り押し通せる余地もなくはない。しかし、私見によれば、この判断は従来と異なり、客観的なものでなければならない。是正が必要な違法行為の存在が後で判明したりすれば、公益通報者保護法に違反して「必要な調査」を怠った、と非難される可能性が一層高まるだろう。
改正公益通報者保護法が12月に施行されるのを前に、事業者はいま一度、自分たちの組織が公益通報や報道の取材、行政調査に対応するにあたっての社内連絡ルート、種々の判断の主体や手順など体制を点検する必要がある。
上智大学教授 奥山俊宏(おくやま・としひろ) 1966年岡山生まれ。89年、東京大学工学部卒業、朝日新聞社入社。社会部、特別報道部などで記者、編集委員。2022年から上智大学文学部新聞学科教授。著書に『兵庫県告発文書問題』(岩波書店)、『内部告発のケーススタディから読み解く組織の現実』(朝日新聞出版)、『内部告発の力』(現代人文社)など。
(Kyodo Weekly 2026年9月7日号より転載)












