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「特集」「誌上座談会」 高市政権2.0が始動 積極財政、消費税減税に市場の壁

 

首脳会談へ対米投資案件に合意 安保3文書見直し、防衛費拡大へ

 2月8日の衆院選に圧勝した高市早苗首相が、政権を再起動させた。少数与党から一転して巨大勢力を生み出した首相は向かうところ敵なしに見える。公約である消費税減税や日米首脳会談、安全保障政策の強化へと動く首相に死角はないのか。「高市政権2・0」を専門家3人に聞いた。(構成は編集制作部)

少数与党へのいら立ち

 ―衆院選で自民党は316議席を獲得し、日本維新の会を加えた与党の勢力は352議席に達しました。憲法改正を発議できる3分の2を確保しています。
A(政治アナリスト)高市首相の人気はすさまじい風を巻き起こしました。付け焼き刃の公約もあったが、あの笑顔が批判をかき消してしまいました。
B(ハイテク企業幹部)石破茂前首相は雰囲気が重苦しく、野党への配慮が目立った。その分、自民党内での人気は低かったね。高市首相の支持層は保守勢力が中心だが、人気のウイングはリベラル派まで覆い尽くしたようだ。
C(経済官庁審議官)中道改革連合は、旧公明党が比例、旧立憲民主党が小選挙区というアイデアは悪くなかった。だが立民の候補者が軒並み自民党候補に吹き飛ばされ、比例復活の水準にも届かなかった。
A 旧立民にとっては壊滅的な打撃でした。これだけ勢力に差がつくと、しばらくは自民党が強力に主導する政治になるでしょう。
B 2024年10月の衆院選、25年7月の参院選では野党が躍進し、「多党化の時代が到来した」と言われた。政治学者、評論家、メディアは、有権者が望むのは与野党伯仲だと分析していた。
C 選挙結果を詳細に分析しないと結論は出ないが、物価高に苦しむ有権者は政権安定と政策のスピード感を求めたのではないか。
A この1年余りの政治に停滞感を感じ、いら立っていたのかもしれません。個別の法案ごとに野党の協力を仰ぐという手法は確かに時間がかかるし、あいまいな内容になりがちです。政治家も有権者も「熟議」の実像を理解していなかったのでしょう。

新人議員人を教育

 ―高市首相は特別国会で早期に26年度政府予算を成立させる意向です。
C 3月には訪米が控えているし、年度内成立は相当難しい。国会の審議時間を短縮するのだろうか。
A 4月から高校無償化がスタートします。この予算を暫定予算に含めるかどうか。本来は公務員の給与など必要最小限の予算しか盛り込めないのですが、26年度から始める新たな政策の予算もある程度は反映させるでしょう。
B 予算自体は衆院の議決で決まるが、税制改正法案や赤字国債の発行に必要な特例公債法案は参院でも成立させねばならない。
C 参院で野党の一部の賛成を得ようとするでしょうが、野党が抵抗すれば、衆院で再議決するかもしれない。与党の議席は3分の2を超えているので可能だ。
B 予算関連法案を再議決して成立させれば、野党は威圧された印象を持つ。いきなり強権的な国会運営は避けたいだろう。
A だけど首相は、いたずらに審議を引き延ばすやり方は、好きではありませんよ。
 ―首相にとってはまず党内運営の安定が大事ですね。
C 今は首相にものを言えない雰囲気だが、心服している議員ばかりではない。首相は後見役の麻生太郎副総裁に断らないまま解散に踏み切っている。だが、衆院選の比例では麻生派の候補を優遇していた。
A 衆院議長に麻生派の森英介元法相を起用したのも見逃せません。当選13回の大ベテランです。東京・赤坂のバーのカウンターでグラスを傾ける姿を時々見かけます。
C 衆院の新人議員は66人もいる。派閥が解消され、国会のしきたりを教えたり、委員会審議のルールを周知したりするだけでもひと苦労だろう。
B 小泉郵政選挙や安倍晋三氏が首相に復帰した選挙でも多くの新人議員が当選した。今回は未成年者との不適切な交遊がうわさされた新人もいるよ。
A 今回は真冬の〝電撃戦〟だっただけに、候補者の経歴を点検する「身体検査」が十分だったとは思えませんね。何が飛び出してくるのやら(笑)。
C 政治資金の不記載に関わった「裏金議員」は24人が返り咲き、計41人が当選した。旧安倍派の議員が多い。優遇すれば有権者は反発するだろう。
A 内閣支持率は高止まりしていますが、いつ下落するか分かりません。首相は政策面での成果を急ぐでしょう。

第1号案件に合意

 ―首相は3月19日に訪米し、日米首脳会談に臨みます。
C 衆院選での大勝利をアピールし、トランプ米大統領との信頼関係を深めたいだろうね。日米同盟の強固な結束や、対中関係で共同歩調を取ることを前面に出すだろう。
A トランプ氏も表向きは首相をたたえるでしょうが、本音はどこにありますか。
B 日米関税交渉で約束した5500億ドル(84兆円)の対米投資の実行だよ。トランプ政権は建設ラッシュが始まっているデータセンターに電力供給する施設整備を急いでいる。オハイオ州につくる最大級のガス火力発電所の建設に、日本側が資金捻出することが決まった。
C 中国が輸出を規制した人工ダイヤモンドの製造設備やテキサス州の原油輸出施設の建設にも合意した。
B 半導体製造や機械部品の研磨に欠かせない重要物資だからね。生産した人工ダイヤを日本側がどの程度買い取るのだろうか。
A 政治家に食い込むのが巧みな国際協力銀行(JBIC)幹部が水面下で動いているようですね。
B 旧民主党の仙谷由人氏、自民の菅義偉氏が使っていた人物だが、経済産業省との関係は微妙らしいよ。財務省も敬遠しているね。
C トランプ政権としては、有力支持者が求める大型案件を早く実現したい。赤沢亮正経産相は、トランプ氏の要求に応えようと、できるだけ大きな成果を求め続けるだろう。
B トランプ氏を支援している新興のエネルギー企業によるアラスカ州の液化天然ガス(LNG)開発に日本の資金を使いたいと、米側は考えている。6兆円の巨大プロジェクトだ。
A あれはさすがに難しそうです。凍土にパイプラインを敷く必要があり、技術的にも資金的にも厳しい案件です。
C 政治が専門のようだが、経済問題もずいぶん勉強しているんだね(笑)。これから日米首脳会談の度に対米投資実行のおみやげを求められるだろう。
B しかし赤沢氏が頼りにしているラトニック米商務長官は、少女買春などの罪で起訴され自殺した米富豪エプスタイン氏との交遊を巡り、苦境に陥っているよ。
A エプスタイン氏とは05年に関係を絶ったと説明していましたが、12年に同氏が所有するカリブ海の島に招かれていたことが明らかになりましたね。
C 長官自身も事実を認めている。米議会では辞任を求める声も出ているようだね。エプスタイン疑惑は今後もトランプ政権や米国、欧州の政財界を揺るがし続けるだろうね。

食料品ゼロ%は「悲願」

 ―ところで消費税減税はどうなりますか。与野党で「社会保障国民会議」を発足させるようですが。
A 社会保障国民会議は与野党の党首や幹部が参加するはずです。その下に有識者による検討会議を設ける案が検討されています。
C 首相は食料品の消費税を2年間、ゼロ%にするのを「悲願」と言っている。26年度中に必ず実現するつもりだろう。6月ごろに中間報告をまとめ、消費税法改正案を秋の臨時国会に提出する青写真を描いている。
B 財源はどうするの。小売業者のレジの対応は年度内にできるのかな。2年後に再び増税するのも難しいのではないか。
C 国民会議で検討するのは、そうした問題を打開するためだ。首相は赤字国債には頼らないと言っているが、2年間で10兆円の財源を生み出すのは容易ではない。
A ガソリンや軽油の暫定税率廃止を埋める財源もまだ見つかっていません。片山さつき財務相は「補助金削減、租税特別措置の見直し、税外収入で財源を確保する」と言っていますが、めどは立っているのでしょうか。
C ウルトラCとして「つなぎ国債」という知恵が出てくるかもしれない。消費税を再増税した後の税収を担保に発行する特別な国債だ。「返済の原資がはっきりしているから通常の赤字国債とは違う」という理屈だ。
B 償還期間が短期なら利回りを低くできるメリットはあるね。だが有権者は納得するだろうか。
A 赤字国債との違いが分かりにくいですね。高市人気が衰えないうちなら、通用するかもしれませんね。

安全保障政策の3本柱

 ―防衛費の拡大もうわさされています。
C トランプ政権は防衛費の国内総生産(GDP)比を5%に引き上げることを同盟国に求めている。日本の防衛費は約11兆円で、GDP比は2%にとどまっている。
B 26年度のGDPは690兆円に膨らむ見通しだから、2%のままでも14兆円。GDP比を1%上乗せするごとに、防衛費は約7兆円近く膨らむことになるね。
C 防衛省は安全保障関連3文書を秋に改定するつもりだ。それを踏まえ、今後5~10年の防衛費を見積もっていくだろう。
A 新たな3文書のポイントは、①ドローンやサイバー戦のような「新しい戦い」②継戦能力の確保 ③いくつかの地域で同時多発的に紛争や衝突が発生する「複合事態」―の3点がポイントになりそうです。
C 継戦能力はウクライナでの戦争長期化がもたらした課題だ。弾薬などの装備を確保できる態勢をつくろうとしている。民間に生産を任せるだけでは平時には採算が取れず、防衛産業は設備投資に踏み切れない。
A 特別国会は7月半ばまで続きます。後半国会では国家情報局の創設法案も審議されます。どれもハードルが高い問題ですが、巨大与党の強力政権だから、野党の抵抗にも限界があるでしょう。

上昇続く長期金利

 ―首相の行く手を阻むとしたら、どんな動きでしょうか。
B やはり金融市場ではないか。「株高、円安、債券安」の高市ラリーが続いているが、長期金利は2%台を推移している。看板の「責任ある積極財政」は株式市場では好感されているが、債券市場では厳しい視線を向けられている。
A やり過ぎれば放漫財政と見なされます。債券ディーラーは財政見通しや国債発行量を理論的に分析する専門家が多いから、政権の熱気とは距離を置く冷静さを感じます。
C 98年11月から99年2月の「資金運用部ショック」では、10年物国債の金利は2・44%まで上昇した。市場ではこの水準が意識されているね。
B 長期金利は住宅ローンや企業融資の金利水準に影響する。金利高騰や市場の混乱は成長のブレーキになりかねない。
A 消費税減税や複数年度予算の導入は市場との神経戦が避けられません。27年度予算編成では防衛費の増額も焦点になります。
C 首相は財務省が積極財政に抵抗することを非常に警戒している。財務官僚は首相就任前からずっと遠ざけられている。首相が同省出身の秘書官から説明を受ける機会は、いまだに少ないらしい。
A 経済政策には関心が薄かったように思います。防衛省や経産省は積極財政を歓迎していますが、財務省は厳しいですね。
C 首相と直接対話できる片山財務相の存在は大きいね。金融界や証券界との会合では「首相と私のツートップで積極財政を実現する」と訴えている。
A 片山氏は自負心が強い性格です。高市政権で最も優秀な閣僚の1人でしょう。
B 首相と大臣が組んでいるから、財務省もうかつな行動はとれない。主計局長らの人事に介入されれば組織が受ける打撃は大きい。
C 財務省は幹部から課長補佐まで、慎重な言動が目立つ。わが世の春を謳歌(おうか)しているような役所もあるが、派手に動きすぎれば、いずれしっぺ返しがある。官僚同士の付き合いは長く深い。恨みも恩義も忘れないものだよ。

(Kyodo Weekly 2026年3月2日号より転載)

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