テレワークが地域を変える ―住民が担い手となる〝デジタル実務革命〟
人手不足対策などを目的に国が普及を目指すテレワーク。ICT(情報通信技術)を活用して働く時間・場所の選択肢を広げる、この働き方の先進事例を総務省が選んで表彰する「テレワークトップランナー2025 総務大臣賞」に、「テレワーク社会課題解決検討タスクフォース」の取り組みが選ばれた。テレワーク社会課題解決検討タスクフォースは、自治体の業務負担を軽減しながら、働きづらさを抱える住民が力を発揮できる仕事を地域に生み出すことを目的に設立され、長野県塩尻市、立科町、新潟県糸魚川市などで実践が進んでいる。タスクフォースのメンバーである大日本印刷株式会社(DNP)の澤田誠さんと立科町振興公社の上前知洋さんに話を聞いた。
▼多様な事情を抱える住民に「働ける場」を
――住民のテレワーカーにはどのような境遇の方々がいらっしゃいますか。職場環境や処遇も教えてください。
上前さん 私が事務局長を務めている立科町振興公社では、登録している住民ワーカー約50名のうち、子育て中の女性が約7割を占め、高齢家族の介護者も数名います。中山間地域なので働き方の選択肢が少なく、オフィスワークを希望する場合、近隣市街地の職場まで自家用車で通勤する必要があります。すると、通勤時間は30分~1時間。子どもの体調不良で保育園から呼ばれると、再び時間をかけて戻る必要があり、子育てと仕事の両立に大きな負担が生じていました。
澤田さん 塩尻市振興公社では、在宅でもオフィスでも仕事ができます。子育て中が約4割、複数の仕事を掛け持ちしている方、健康に不安を抱える方など背景は多様です。業務を行うにあたってパソコンなどの機材を提供し、ご登録時にご自身の生活状況やスキル等をお聞きし、状況によって研修を受講していただいています。住民ワーカーとは個人事業主として業務委託契約を結び、働いた時間と成果に応じて報酬が支払われます。糸魚川市のキャリアステージいといがわでは、登録する住民ワーカー47名のうち子育て中の女性が約7割。引きこもり経験者や、引きこもり・不登校の家族がいる方が約1割。シングルマザーや介護をしている方も在籍しています。
――住民ワーカーの反響はいかがですか。
澤田さん 「働く時間を自分で決められる」「これまで盆暮れも働き続けてきたが、初めて家族と過ごせるようになった」といった声や、「6年間子育てで社会と途切れて孤独だったけれど、仲間と働けて毎日が充実」という喜びの声があります。グループ作業での支え合いも生まれています。
▼紙の記録簿のデータ化で公用車の利用実態を可視化
――令和5年の「テレワークを活用した地域課題解決事例の創出に関する実証事業」において、塩尻市では、公用車の運行実態を紙記録からデジタル化して可視化する実証事業が行われました。
澤田さん 紙の記録簿では利用実態を十分に把握できていませんでした。ディレクター4名と住民ワーカー12名が111台分のデータを305時間かけてデジタル化してみると、予約時刻と実際の開始時刻が一致しない実態などが判明しました。市では2024年度に最適化ロードマップを策定し、EV化や台数削減につなげる予定です。
――同じく令和5年度の実証では、DNPは住民ワーカーと一緒に、学校参考書メーカーの中学1年生向けテスト資料を使い、問題や解説や図表にタグ付けしてAI学習用データに整備する「文書構造化」の実証事業に取り組みました。
澤田さん 一言で言うと「AIが読みやすいように資料データを整理する仕事」です。テスト資料は文章、図表、写真、絵が混在しているので、文章は文章、絵は絵、のような形でAIが読みやすいようデータを構造化する作業を立科町の住民ワーカーにやっていただきました。DNPが独自開発した、非構造化文章を、生成AIが理解・活用しやすいデータに変換する「DNPドキュメント構造化AIサービス(AI-Ready Data)」を使うと、7割程度を自動構造化できます。残り3割を住民ワーカーが整え、100%に近づけます。振興公社が業務マネジメントを行い、DNPと住民ワーカーの双方とコミュニケーションを図って業務を推進しました。
――この実証からどのようなビジネスが生まれますか。
澤田さん 令和5年度に取り組んだ実証事業から、地域住民がライフスタイルに合わせて働くことができ、地域のデジタル化を担う共助型の働き方として「デジタルワークシェア」を事業として推進することができると考えました。令和7年度は住民ワーカーによる観光LLMの構築に向けたAI学習データ整備に取り組み、地域住民による地域のデジタル化推進と、持続的な仕事の創出に取り組んでいます。
▼立ち上げ時の苦労と地域に芽生えた手応え
――タスクフォースの立ち上げ時、どのような点に苦労されましたか。
澤田さん 当初、様々な組織や立場の方々をまとめ、役割分担するため、丁寧な説明が必要でした。地域ごとに条件も異なりますから、共通の仕組みや業務モデルを作り上げる難しさは感じています。住民ワーカーの方が、やりがいをもって、より働きやすい環境はどうすべきかを最優先に考えて進めています。
――そんな中で、どのような達成感がありましたか。
上前さん 関係者が同じ目的に向かって動き始めていると感じられたことが大きいですね。住民ワーカーの皆さんが「やりがいがある」と語ってくれる場面も多く、地域内で仕事が循環する仕組みが少しずつ形になってきている手応えがあります。
▼地域間連携へ──〝デジタルワークシェア〟の可能性
――今後の展望を教えてください。
澤田さん 今後は地域ごとではなく、複数地域が連携して補完し合う段階に入っていくと考えています。観光分野のデータ整備を皮切りに、行政文書、文化財アーカイブ、民間アウトソーシングへと広げ、切れ目なく仕事が生まれる仕組みをつくりたいと考えています。
上前さん 多くの自治体では、自営型テレワーク人材の育成やリスキリングまでは実施できても、「その後に受け皿となる仕事がない」と取り組みが頓挫するケースが少なくありません。地域内で仕事を受注できる法人格を持った組織が必要であると考えています。塩尻市の取り組みを参考に、立科町は今年4月に法人を立ち上げ、糸魚川市も同様の動きになっています。
――飛び地のように離れた自治体でも、仕事の分配・連携ができるんですね。
澤田さん これを〝デジタルワークシェア〟と呼んでいます。まさに総務省が推進しているICT活用テレワークのモデルだと思います。
【プロフィール】
澤田 誠(さわだ・まこと)(写真・右)/大日本印刷株式会社(DNP)マーケティング本部ビジネスイノベーションユニットビジネスインキュベーション部に所属。全国の自治体の社会課題起点の取り組みに従事。2022年に全国地域情報化推進協会(APPLIC)内にテレワーク社会課題解決検討タスクフォースを立ち上げる。
上前知洋(うえまえ・ともひろ)(写真・左)/2010年に長野県庁入庁。2016年に立科町職員となり、地方創生や社会福祉型テレワーク、移住・関係人口創出事業を担当。2025年から立科町振興公社で地域振興を推進している。
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有限会社ジェム
【企業情報】
英会話スクール・学習塾を経営し、「地方都市でも最高の教育を受けられる。そんな場所をつくろう。」という理念のもと教育サービスを展開。所在地は香川、従業員数は37人。
【主な取組例】
結婚・引越し・家族の転勤といった状況でも、社員が退職せずに遠隔地から働き続けられる仕組みを実現し、国内外から優秀な人材を確保している。また、役職を置かないホラクラシー型組織により、情報共有と協働を促進。クラウド上で進捗が可視化され、多角的な評価や社内コラボレーションが可能となり、テレワークとの高い親和性を発揮している。さらに、業務コスト削減や移動時間の縮小が生産性向上に寄与し、子育て・介護・体調に応じて働き方を選べる柔軟性がウェルビーイングにもつながっている。
株式会社aubeBiz
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