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運気の分かれ道!?  【辛酸なめ子 コラムNEWS箸休め】

 開運イベントのインタビューの仕事で、ある方の事務所に伺いました。「はじめまして」とあいさつすると「はじめてじゃないですよね。忘れたんですか?」とその男性。「オンラインイベントとかでお会いしましたっけ」「違いますよ、10年以上前です。私の講演に来て記事を書いてくれたじゃないですか」「???」「忘れたんですか?」「すみません・・・」

 微妙な緊張感が漂っていたので、おそらく私が何か失礼なことを書いたのかもしれない、という気がしました。その予感は当たり、話を聞くと「友達に週刊文春にイベントの記事が載っていると言われて買いに行ったらほぼ悪口で、訴えようかと思った。でも妹が読んで、これは褒め言葉だと言われて思いとどまった」とのこと。

 その妹さんに感謝しつつ、断片的に2010年頃の記憶が蘇(よみがえ)ってきました。変わったイベントやスポットについての連載をしていたときのこと。たまたま見つけたのは究極のトイレ掃除開運法の講演でした。「トイレには烏枢沙摩明王(うすさまみょうおう)様という神様がいて、素手で掃除すると金運アップする」(自宅だけではなく外出先でも)という開運法でしたが、プレイかと思うくらいハードな内容だったのです。

(C)2025 Nameko Shinsan

 その方は潔癖症だったのが、トイレ掃除で一線を超えたら快感になったとのこと。ついには爪で便器の汚れをこそぎ落としたり、奥に手を入れてかき出したり、掃除後トイレの水で顔を洗ったり、飲んでみたり・・・。激しいエピソードが紹介されるたび会場には笑いや悲鳴が巻き起こりました。

 その様子をおもしろおかしく書いたのが失礼な感じになってしまったようです。謝って「悪意はないです」と弁明。しかしその方はトイレ開運法の効果か、ハイブランドの服を着て、YouTubeの登録者は数十万人、セミナーも大人気で、著作も多数とかなりご活躍の様子。

 今も各地でトイレ掃除を続けているそうで、何かを極めるとやはり結果がついてきます(と、15年後にフォロー)。私はいまだに素手で行う勇気がなく、それが運気の分かれ道だったのでしょうか。

 悪いことはできないというか、自分はそこまで影響力ないから大丈夫、と油断して好き放題書いたことは、相手に届いていることがあるので、気をつけなければ、と改めて実感。先日も、有名人に取材したときに「何度か書いてくださったのを読んでいますよ」と言われましたが・・・。怖くて何の記事か聞けませんでした。因果応報、という言葉を胸に粛々と生きていきます。

【KyodoWeekly(株式会社共同通信社発行)No.46からの転載】

辛酸なめ子(しんさん・なめこ)/ 漫画家、イラストレーター、コラムニスト。1974年東京都生まれ、埼玉県育ち。武蔵野美大短期大学部卒業。著書に「女子校育ち」(筑摩書房)、「スピリチュアル系のトリセツ」(平凡社)、「電車のおじさん」(小学館)、「大人のマナー術」(光文社新書)など多数。2025年2月に「江戸時代のオタクファイル」(淡交社)を上梓。

  • (C)2025 Nameko Shinsan

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