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「第4回科学的人事アワード2025」 データとAIで変わる人事戦略 科学的人事の最新事例

 「人的資本経営」やAI活用の最新動向を共有する「第4回科学的人事アワード2025」(主催:プラスアルファ・コンサルティング)が11月27日に開催され、国内企業の具体的な取り組みが幅広く紹介された。同社が提供するタレントマネジメントシステム「タレントパレット」による科学的人事やAI活用の最新事例が解説されるなど、これからの組織づくりの姿が立体的に浮かび上がった。

◆ データとAIで変わる人事の実践──タレントパレットが示す人的資本経営の最前線

 株式会社プラスアルファ・コンサルティング取締役副社長でタレントパレット事業本部長の鈴村賢治氏が登壇し、人的資本経営とタレントマネジメントの最新動向を解説した。タレントパレットは2016年のリリースから事業を拡大し、現在は導入企業数が4,500社を超え、人材管理市場でトップクラスのシェアを有するサービスへと成長している。

 講演で鈴村氏は、「人事業務の効率化だけでは企業の競争力は高まらない」と強調し、配置、育成、離職防止、サクセッションなどをデータに基づき判断する「科学的人事」の重要性を強調。さらに、「日本の労働人口は確実に減っていく。だからこそ、一人ひとりが自律的にキャリアを描ける環境づくりが欠かせない」と述べた。

 タレントパレットの主要機能の一つである「キャリアボード」は、社員が目指す職種を登録すると、現在のスキルとのギャップが可視化され、必要な研修や参考となるロールモデルが提示される仕組み。外部の学習サービスである Udemy や LinkedIn Learning と連携し、受講履歴が自動でキャリア情報に反映される点も特徴だ。

 AI活用の領域では、鈴村氏は「職務経歴の自動生成やスキルタグ付与など、AIによってデータ整備の手間を一気に減らせるようになった」と述べ、負担軽減の機能を紹介。さらに、人事の評価領域では「評価フィードバックAI」を用い、企業独自の評価基準と照合しながらコメントを自動で整え、被評価者に伝えるべき観点を明確化する仕組みを解説した。導入により被評価者の納得度が向上した事例も示され、会場の関心を集めた。

 講演の終盤には、音声対話型の「AIトークトレ」のデモンストレーションも披露。これは、仮想の被評価者と音声でロールプレイを行い、会話を自動でテキスト化したうえで採点し、改善ポイントを可視化するものだ。1on1面談や評価フィードバック、採用面接など、属人化しやすいコミュニケーション領域の標準化に寄与するツールとして紹介された。

 最後に鈴村氏は、同社が設立した研究組織「HR未来共創研究所」の取り組みを紹介した。未来予測のためのシナリオ研究や、有識者によるラウンドテーブル、業界別スキル標準づくりなど、企業を超えた知見の共有を進めていると説明し、「AIエージェント時代の人材活用をともに創っていきたい」と語って講演を締めくくった。

人事戦略について語る鈴村氏

 この後、第4回科学的人事アワード2025の表彰式に移り、人材データ活用の先進企業七社が大賞に輝いた。講演会では各社の担当者が登壇し、組織変革の実践と手応えを語った。

◆ 挑戦を後押しする可視化と、5万人データで意思決定の精度を高めた再編──コスモと三菱重工の人事改革

 最初に登壇したコスモエネルギーホールディングスの担当者は、「少子高齢化や脱炭素の流れで、化石燃料の需要は確実に減っていく。だからこそ“人”の力で変わっていく必要がある」と語った。同社は社員の挑戦を後押しするため、スキル、後継者候補、人材KPI、サーベイ結果など、グループ人事データを一元的に可視化してきた。「キャリアは自分でつくるもの」という考えをもとに、社内EXPOや自律的キャリア形成施策を展開し、「データがあることで社員の挑戦が本物になる」と評価した。

 三菱重工業は、「感覚頼みのマネジメントから脱却したかった」と切り出し、人事機能を再編してHRBP(人事ビジネスパートナー)を事業部に配置した背景を説明した。5万人規模のデータを集約し、ライン長が自組織の状態を随時把握できるようにしたことで、意思決定の精度が上がり、組織に手触りのある変化が生まれているという。また、社内公募制度を刷新し、3万人が自由に募集情報を閲覧できる仕組みを整えた。「社員の“挑戦の動線”が初めて整った」と語った。

「感覚頼みのマネジメントから脱却したかった」三菱重工業

◆ 公平性を取り戻すデータ統合と、対話の質を変えるAI活用──プルデンシャルとオプテージの改革

 プルデンシャル・ホールディング・オブ・ジャパンの担当者は、「評価や異動が、上司と部下の関係に左右されてしまう構造を変えたかった」と明かした。三社統による経営合でバラバラだった人材データを整理し、評価結果、研修履歴、スキル状況などを一貫した形で管理。ポテンシャル人材の発掘を専任チームが担い、経営層に共有する体制を整えた。「人の可能性が見えやすくなり、配置と育成の質が変わった」と話した。

 オプテージは、「コミュニケーションの質を変えたかった」と語り、上司・部下の対話を軸に置く制度改革を紹介した。評価記録や1on1、アンケート、サーベイなどのデータを分析し、経営層が集まる会議で議論の材料として活用しているという。さらに、評価制度に生成AIを導入し、上司がより良いフィードバックを行うための気づきを得られるようにした。「AIの助けで、対話の深さが変わり始めた」と手ごたえを語った。

オプテージは社内の制度改革を実施した

◆ 越境・国際化・自律的キャリア──サッポロ、セガサミー、三越伊勢丹が示す人材戦略の進化

 サッポロビールは、人材戦略の中心に“越境”を掲げる。担当者は「越境しないと新しい価値は生まれない」と強調し、副業や社外協働など多様なキャリア経験を推奨していると説明した。2020年には20年ぶりに評価制度を全面刷新し、ノーレイティング(個人への数値・相対評価を行わない評価手法)を導入。組織やチームへの貢献を含めて評価する仕組みに転換した。「公平で透明な評価が、挑戦しやすい空気をつくった」と語った。

 セガサミーホールディングスは、「社員一人ひとりがGame Changerになってほしい」と語り、自社の人材観を紹介した。グループ全体で教育体系を整備し、企業内大学が年間1.5万人を受講する規模に成長している。多様な国際経験をもつ人材の育成も進め、国際的に活躍する人材比率を大幅に引き上げた。「ミッションを軸に多様な人材が共創する文化をつくりたい」と述べた。

 三越伊勢丹ホールディングスの担当者は、「キャリアは会社に任せるものではなく、自分で選ぶもの」と語った。教育体系を整備し、百貨店に限らず金融・不動産など多様なキャリア機会を社員が選べる仕組みを構築。「学びと挑戦を自分で選び取れる環境が整ってきた」と成果を説明した。

 

多様なキャリア経験を推奨しているサッポロビール

◆ 七社の挑戦が示した「自律」の核心──総評が映し出した人事改革の到達点

 総評を行った慶應義塾大学大学院経営管理研究科講師の岩本隆氏は、「今年のキーワードは自律」と総括した。各社が制度整備にとどまらず、社員が自ら学び挑戦する文化をつくろうとしている点を評価し、組織の価値観そのものを変えようとする姿勢が共通していたと指摘した。

 岩本氏はまた、データ活用やAI導入を目的化するのではなく、「社員の可能性をどう広げるか」を軸に据えている点が印象的だったと述べた。公平性を高めるデータ統合、対話の質を変えるAI支援、越境を後押しする制度など、アプローチは異なっても自律的なキャリア形成を促す方向に収れんしていると分析し、講演会を締めくくった。

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